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ネコノミクス活況の裏にあるもの

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<猫ブームの光と陰>
「子猫300万円!?」ネコノミクス活況の裏にあるもの

2016年10月11日 経済プレミア 駅義則 / ジャーナリスト

9月下旬、東京都内のペット店に入ってみた。
「マンチカン 100万円」という文字に目がくぎ付けになった。
マンチカンは足が短く、飼い猫として人気だ。
とはいえ値段に驚いていると、店員が「300万円の子もいますよ」と寄ってきた。「売れたんですか」と尋ねると「風邪気味なので管理センターに行っています」とのことだった。


京都市内の猫カフェで2016年6月15日、小松雄介撮影

空前の猫ブームと言われる。
犬のように散歩の必要がなく、日本の狭い住宅でも飼いやすいことから「猫派」が増えていると言われる。
ペット店で展示される猫の前には人だかり。
猫を放し飼いにして客が猫と触れあう「猫カフェ」があちこちに出現している。
売り手と買い手が価格を決めるのが経済の大原則だ。
300万円という値段も欲しがる人がいるゆえだ。
だが、命に値段がつき、思惑によって変動するのは商業主義の恐ろしいところだ。
「ブームで猫の販売数が急増しているため、10年後には間違いなく捨て猫が増える」と警鐘を鳴らす専門家もいる。
猫ブームの光と陰を、連載で報告する。

犬派vs猫派の構図
「猫ブーム」がもてはやされるようになったきっかけは、国内の猫の飼育数が犬に迫ってきたことがある。
ペットに関する統計を発表している業界団体、ペットフード協会の推計によると、昨年10月現在の飼育数は犬が991万匹に対し猫は987万匹とほぼ拮抗(きっこう)した。
2004年の推計では犬が1245万匹、猫が1036万匹だった。
不況の長期化などを背景として、飼育費の高い犬が減少し、猫がほぼ横ばいを続けているだけともいえる。しかし、「猫派」「犬派」といった一騎打ちの図式を好む日本人に「逆転が近い」とはやされた。
総務省の統計によると、日本の15歳未満人口は35年連続で減って1605万人(今年4月1日時点)。
もはや子どもの数より犬と猫の合計飼育数の方がずっと多い。



経済効果2兆3000億円?
そして「アベノミクス」にひっかけて、「ネコノミクス」の経済効果もはやされた。
関西大学の宮本勝浩名誉教授が2月に発表した論文「ネコノミクスの経済効果」は、昨年1年間の猫関連の経済効果が総額で2兆円超だった、と推定した。
算出根拠を紹介すると、猫1匹あたりの1年間の飼育コストを11万1424円と推定した。
これにはえさ代、おやつ代、トイレ費用、医療費、ペットホテルといった臨時費などが含まれる。それに推計飼育数987万匹をかけた。
これに猫関連の書籍やDVDなどの売上額30億円、猫を目玉としている観光地に落ちる40億円を加えて、「直接効果」を1兆1072億円と計算した。
関連商品の原材料の売り上げや、猫関連業界で働く従業員の消費増などの「波及効果」を加え、総額2兆3162億円という数字をはじき出した。
「年間2兆円超の経済効果」と言うと、たいしたものだと思いたくなるが、よく読めば、昨年の猫関連の商品やサービスの消費額を推計しただけ。
昨年の日本の国内総生産(GDP)約530兆円に比べればごく一部とも言える。

猫ブームで殺処分が増える可能性
面白い数字がある。
ペットフード協会の全国アンケートによると、猫の生涯飼育コストは平均で67万円。
平均寿命が15.43歳であることからすれば、年にすれば4万3400円強だ。
一方、宮本名誉教授の「ネコノミクス論文」によると年間飼育コストは11万円強。
さらに、ペット保険会社、アニコム損害保険が契約者に聞いた年間平均コストは17万1000円強。
発表主体によって、額は食い違っている。

さて、盛り上がる猫ブームだが、その陰で、飼えなくなって行政に持ち込まれた多くの犬や猫が殺処分されていることはあまり知られていない。
14年度も年間約10万匹の犬や猫が、都道府県の施設や市町村の保健所で二酸化炭素や薬物などで殺処分されている。
その8割近くが猫だ。
今の猫ブームで多くの猫が販売されているが、5年後、10年後に飼い主の何らかの事情で飼えなくなった猫が増え、殺処分が増えるのではないかと関係者は心配する。


殺処分される直前、プラスチックのゲージに入れられる子猫たち
 =和歌山県の動物愛護センターで2015年8月28日、桐生隠撮影


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