飼い主の帰りを予知する犬
2016.09.14 dog actually 藤田りか子
すでに10年以上も前になる古い話なのだが、イギリスの科学者ルパート・シェルドレーク氏が「飼い主の帰りを予知する犬の能力」というものを提唱し、随分話題になったことがある。
犬の中には飼い主が時間帯をどんなに変えて帰ろうと、必ず帰りを予知して飼い主を出迎えるすごい能力の持ち主がいるのだ。
シェルドレーク氏は、犬の予知する能力というのは、もしやテレパシーによるものではないか?とそんな大胆な説を立てたのだが、さて、あなたはどう解釈するか。
私は個人的な感情として、アニマル・コミュニケーターの言い分を信じるのにやや難しさを感じる者だし、当然犬のサイキック能力とくれば論外であった。
これ聞いた時にどう反応したらいいか迷ったものだ。
おまけに彼は一部の科学者からは「インチキ・サイエンティスト」とまで呼ばれている。
しかし頭から「非科学的!」と決め付けて、真実を探求しないのはよくない。
犬好きの我々にとって大事なことは、理由は何であろう犬の見せる面白い現象に気が付くことではないだろうか?
というわけで、テレパシー云々よりも、ここではシェルドレークの考察や彼の観察した犬の面白い現象についていくつかあげてみたい。
ちなみに、イヌのテレパシー能力を信じるシェルドレーク氏は、イギリスのケンブリッジ大で生物化学の博士号を取得した、正真正銘のサイエンティストである。
ウィキペティアにも彼の項目があるので参考にされたい。
シェルドレーク氏が一般の飼い主から集めた報告によると、予知能力のある多くの犬は飼い主が帰るごろになると、10分前位からあるいは1時間前から門や窓の側に行き、飼い主の帰りをじっと待ったり、あるいはそわそわし始めるそうだ。
またそういう愛犬の行動を見て、「あ、もうすぐお父さんが帰ってくるのね」と、夕食の支度のタイミングの目安にもしていた夫人もいたとか。
犬達が予知をするのは聴覚か嗅覚によるのではないか、というのはよく言われることだ。
何しろこれら犬の感覚は人間のものに比べると、比較にならないほど優れている。
それに犬みたいに床にゴロリと横になってみると、外の振動はよく聞こえる。
犬ほどの聴覚を持っていたら自分の飼い主の車の音ぐらいは聞き分けれそうである。
矛盾しているのは、全ての犬が鋭い聴覚と嗅覚を備えているのに、全ての犬が飼い主の帰りを予知できるわけではないこと。
たとえば我が家の犬のラッコ。
ボーイフレンドが家の前まで車をつけているのに、それでも気が付かないことがある。
人間の私の方が先に音を聞きつけていることはしょちゅうだ。
でも玄関を開ける音はさすがに聞こえるらしく、そうなるとはラッコは勢いよく走っていって彼を迎える。
しかし、ここにテレパシー説への一つの裏づけも見出せそうだ。
つまり我々が思うほどには、犬はいつも嗅覚や聴覚を使っているわけではない、ということ。
我が犬の耳はいたって正常だ。
トリーツの袋をバギバギと開けると、家の外にいても台所にやってくる。
鼻の性能とくればこれはもうピカイチで、ノーズワークでは試合でいくつもの頼もしい成果を見せている。
本気で嗅ごうと思えば、あるいは聞こうと思えば、ボーイフレンドがやってくるのを100m先ぐらいから予知できていただろう。
ここから察せられるのは、そもそも飼い主の帰りの予感とは、嗅覚や聴覚によって呼び覚まされるような物理的なものではない。
何かフィーリングっぽい全く別の感覚に頼るべきものなのでは?
その感覚を持つ犬なら、文字通りその予知をし、もたない我が家の犬はぼけーとしたまま・・・
嗅覚と聴覚による可能性はシェルドレーク氏も、最初からリストから外していたことだった。
電車に乗っている時点とか、帰ろうかな、とオフィスを出た瞬間に、愛犬がすでに窓へ走りよってその到来を待ちだす、という証言をしている飼い主もいたからだ。
電車に乗っている飼い主をどうやって家から嗅ぎ分けられるのか?
氏は予知能力があるとされるミックス犬を使って実験を通し特別な予知能力の存在を証明してみせた。
しかしこの結果に世間の科学者は納得を示すはずがなく懐疑的であった。
「特定の時間に帰ってくるからその習慣に犬が従っているだけ」と指摘する人もいた。
しかしシェルドレーク氏の実験では、帰宅の時間は不規則にしていた。
または、「家族が主の帰りの時間を知っていて、それがしぐさに出てそれを犬が読むから」ということも考えられるが、主の帰りを知らせていない場合でも、やはり犬はしっかり予知をした。
この実験から導き出されたシェルドレーク氏の考えを簡単にまとめると、犬は飼い主の感情に何か目に見えない糸のようなものでつながっている、だから「帰ろうかな」という意図だけでも、それがたとえ遠くにいても反応できる、ということなのだ。
何気なくふっと振り返ると誰かがじっとこちらを見つめていた、という経験は私たちにもよくある。
シェルドレーク氏は、そういう摩訶不思議な感覚と犬の予知能力は共通したものがあると考えているようだ。それを氏はテレパシーと呼んでいる。
もしテレパシーという言葉に躊躇を感じるのなら、少なくとも嗅覚や聴覚ではない、何か別の感覚に犬が頼ることがあると信じてみるのもいいだろう。
・・・とは言ってみたものの、私もやはりシェルドレーク氏の説には相変わらず懐疑的なのである。
でも、どうやって飼い主の帰りを予知する犬を説明できるのだろうか、と悶々としたままだ。
藤田りか子 プロフィール
犬ライター&馬ライター。
スウェーデンの森の中で犬1頭と馬3頭と暮らしつつ、世界の犬文化取材に奔走する。
はじめに
とにかく動物が好き!
海外生活ははや17年。
日本を飛び出したのは、欧米の「どこでも動物がいる」感覚が小さい頃から泣きたくなるほど羨ましかったから。
家の中にどでかい犬がいる感覚。
馬を裏庭で飼う感覚。
強い自然保護意識が社会のあちこちに見られる感覚。
ブログを通してみなさんとシェアしたいのは世界の犬文化。
都市だけではなく、地方の犬文化も注目です。
なんといっても犬とは、文化によってできあがった家畜動物。
その地方にこういう文化があるからこういう犬ができたというように、いわゆる自然生態と同じ例えができるのです。
ペットとしての犬も可愛いけれど、生態学的な意味でも、犬は非常に面白い生き物なんですよ。
藤田りか子さん セミナーの様子