北極のベルーガ、北海道でひとりぼっち 遊び相手は漁師
2016年7月16日 朝日新聞
小型カメラをみつめるベルーガ=16日、北海道網走市の能取湖、中山由美撮影
北極圏の海に生息する希少動物のベルーガ(スロイルカ)が、北海道の湖にすみついている。
群れからはぐれた子どものメスで、一人の漁師になついて遊びに来る。
野生のベルーガが人になつくのは非常に珍しいという。
見物人に追い回されたり、けがをしたりしないようにと、地元の人たちも動き始めた。
北海道網走市の能取(のとろ)湖。
オホーツク海とつながる海水の湖で、ホタテ稚貝を養殖している石垣洋一さん(55)が船を出すと、水中を白い姿がまっしぐらに迫ってくる。
船の下をくぐって反対側に頭を出し、プシュッと水しぶきを飛ばした。
「仕事していると、いつも寄って来て遊ぶんだ」
お気に入りはホタテのかごをたぐるかぎ状の道具。
くわえようとしてじゃれる。
開けた口の中に、はえ始めた歯がのぞく。
体長は3メートル足らずでまだ小さい。
ベルーガは北緯50度以北の北極圏周辺の海に群れですむ。
国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで準絶滅危惧種に指定されている。
若い個体は群れとはぐれてしまうこともある。
サハリン周辺にも生息し、国内では北海道の知床や標津の沖などで目撃例がある。
石垣さんが最初に姿を見たのは2年前の春。
昨秋からは船に近づき、遊ぶようになった。
冬は湖面が凍り、船を出せない。
4月、湖へ出ると、待ち構えていたように寄ってきた。
だが、背中には傷が見えた。
どこかの船のスクリューで切ったようだ。
「守ってやりたい」。
今月15日、漁協など地元の関係者に協力を呼びかけ始めた。
研究者らも巻き込んで「能取湖の自然環境を見守る会」(http://atelier-orca.wix.com/lake-notoro )もつくった。
石垣さんは今、がんの治療中だ。
「明日もまた会いたい、絶対会えるぞと思うと勇気がわく。このいとおしい存在を大切にしたい」
(中山由美)
【動画】 https://www.youtube.com/watch?v=lzzHmc1LbVI