犬や猫と最期まで暮らせる老人ホーム ガンの痛み、犬が「癒やしてくれる」
2016年4月8日(金) sippo(朝日新聞)
自室で愛犬チロと戯れる山口宜泰さん
「チロ、こっちこっち」。
神奈川県横須賀市西部の山あいにある特別養護老人ホーム「さくらの里山科」。
昨年12月、山口宜泰(よしひろ)さん(82)が手押し車を押しながら、愛犬チロ(オス、9歳)の散歩をしていた。
「山科」はペットとともに入居できる介護施設。約40人の入居者は、犬6匹、猫10匹と一緒に暮らす。入居者が連れてくるほか、殺処分されそうな犬や猫を施設が引き取っている。散歩やエサやりは、介護職員やボランティアが担う。
山口さんは、30年ほど前から、順にポピー、リョウ、チロという3匹の犬を飼ってきた。
1995年、妻の節子さん(享年58)を難病で亡くした。
ショックにうちひしがれる山口さんを元気づけたのが、リョウだった。
1日数回、散歩に連れ出すことで、つらい気持ちが少し紛れた。
「もし、リョウがいなかったら、父は一日中、だれとも話さなかったかもしれない」と長女の泰子(ひろこ)さん(54)は振り返る。
2007年には、長男の達也さん(享年43)をがんで失った。
しばらくして、リョウも亡くした。
泰子さんは「また、ワンちゃんを飼った方がいい」と山口さんに勧めたが、「もう年なので、犬が残ったら困る」と承諾しなかった。
半ば強引に知り合いのブリーダーのところに連れて行くと、山口さんはチロに一目ぼれ。
家族の一員になった。
チロは社交的な性格で、みんなが寄ってくる。
おかげで、近所に「散歩仲間」がたくさんできた。
昨年5月、山口さん自身を病魔が襲った。
脳梗塞(こうそく)で倒れて入院。
数カ月後、入院中の検査で咽頭(いんとう)がんが見つかった。
手術は難しい状態で、医師から「余命半年」と言われた。
痛みなどをとる緩和ケアに移行することを選択した。
病院では、チロと離ればなれでつらそうだった。
「ペットと一緒に住める介護施設はないか」。
泰子さんは、病院などに聞いたが、「そういう施設はありません」。
地域包括支援センターに問い合わせると、山科を紹介してくれた。
いま、山口さんは穏やかな生活を送る。
痛みもあるが、チロが癒やしてくれるという。
「子ども以上の存在です。酒を飲みながら、チロとしゃべって、テレビを見るのが一番の幸せ」。
チロを抱きながら話した。
チロと散歩する山口宜泰さん。右は長女の泰子さん
万一の時はホームで世話
業界団体の推計で、飼われている犬猫が2千万匹を超えるとされる日本で、ペットを生きがいに暮らす高齢者は多い。
だが、自分で世話ができなくなるため、やむなく手放すケースもある。
県の調査では、保健所が犬を引き取る理由の約3割は、飼い主が高齢などで病気になったり、亡くなったりすることだという。
山科のように、ペットと暮らすことができる老人ホームは全国でも珍しい。
若山三千彦施設長は「お年寄りに最期まで人生を楽しんで頂くというのが私たちの理念。ペットとともに、幸せな時間を過ごしてもらえれば」と話す。
チロが残されても、山科で終生面倒をみるという。
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犬や猫と最期まで暮らせる老人ホーム
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