警察犬の出動増、多い課題 厳しい審査・費用(青森)
2016年1月16日 朝日新聞
指導手の岩本良二さんの指示を待つ警察犬のイチゴ=青森市浪岡樽沢
行方不明者の捜索などで警察犬の出動が増えている。
一方で、警察犬や指導手が減るなど課題は多い。
県警鑑識課によると、2015年の出動件数は229件。
1999年の37件の約6倍まで増え、過去最高となった。
警察犬には刃物などを持った容疑者を威嚇・制圧する犬もいる。
一方で、県内では主に臭いをかいで強盗などの犯人を追う事件捜査の場合と行方不明者などを捜索する場合が多い。
特に近年は捜索のための出動が増えている。
10年の126件の出動のうち、行方不明者などの捜索は57件で全体の約45%だったが、15年は160件と約70%を占めた。
同課の山口慎治次長は「認知症の高齢者の捜索が増えているように感じる」と言う。
11年の東日本大震災を機に災害時の捜索にも期待が高まっている。
県警は15年10月、遠隔地や道路が寸断された場所でも迅速に捜索ができるよう警察犬をヘリコプターで運ぶ訓練をした。
最近はDNA鑑定などの科学捜査が主流だ。
しかし、山口次長は「臭いをたどることは科学技術ではまだ難しい。捜索には嗅覚(きゅうかく)の優れた犬が必要だ」と話す。
■実情ボランティア
警察犬には警察が自ら飼育・管理する直轄警察犬と、普段は一般家庭で飼われ要請があれば出動する嘱託警察犬の2種類がいる。
警察庁によると、14年、直轄警察犬は24都道府県警で計157頭、嘱託警察犬は青森県を含む45道府県警で計1194頭がいた。
嘱託警察犬の審査は厳しく合格には2~4年の訓練が必要という。
任期は1年で、活動を続けるには毎年合格しなければならない。
出動すれば飼い主に数千円の謝金が払われるが、移動費や餌代、予防注射代などは自己負担で、訓練費用も含めると月数万円はかかる。
実情はボランティアだ。
こうした事情もあり、警察犬と一緒に出動する指導手は減っている。
県内では飼い主がほぼ指導手を兼ねている。県警鑑識課によると、県内の指導手は09年の28人から15年は20人に減った。
審査会に出る犬も減り、15年は10年と比べて9頭減の46頭。
活動しているのは38頭にとどまり、記録が残る03年以降で最も多かった07年より17頭減った。
さらに、警察犬になっても出動要請時に指導手が別の仕事をしていたり深夜だったりすると出動が難しい場合がある。
15年3月に平内町であった強盗未遂事件では、むつ市の犬が出動した。
日本警察犬協会の本部審査員久保安弘さん(63)は「警察犬は健康な犬であればどんな犬種でもなれる。興味を持って挑戦してほしい」と話す。
■社会貢献 いつまで続けられるか
「待て」。
青森市浪岡樽沢にあるNPO法人北東北捜索犬チームの訓練場。
ラブラドルレトリバーのイチゴ(6)は、飼い主で指導手の岩本良二さん(66)が声をかけると動きを止めた。岩本さんが数メートル離れても一歩も動かない。
どんな時でも指導手の命令に従う「服従」の訓練だ。
イチゴは12年から4年連続で警察犬を務め、今まで野辺地町や鯵ヶ沢町にも出向いた。
「14年は80~100件出動した」と岩本さんは話す。
14年1月には平内町で行方不明になったお年寄りの女性を発見したという。
岩本さんは元県警科学捜査研究所長。
9年前、周囲の勧めもあって飼っていたラブラドルレトリバーの文太(10)にものを探す訓練などをし、警察犬や災害救助犬を育てるようになった。
文太とは東日本大震災の被災地で捜索もした。
退職後、本格的に活動し、いつでも出動できるよう酒は飲まないようにしているという。
しかし、要請が午前2時ごろに来たり、出動途中で捜索の必要がなくなったりすることもある。
出動すると、1時間~1時間半歩き続ける場合もある。
「社会に貢献したいという思いでやっているが、年も年だし、いつまで続けられるか。取り組む人が少しでも増えるような制度に変わってほしい」と訴える。
(山本知佳)