元不登校の女性、警察犬訓練士に 「相棒」と成長(静岡)
2016年1月12日 朝日新聞
チビを訓練する斎藤雪乃さん=静岡市駿河区の安倍川河川敷
不登校だった過去を乗り越え、県警警察犬の訓練士として活躍する女性がいる。
暗く長いトンネルを抜けるきっかけをくれたのは、6年前に出会った「相棒」のシェパード犬だった。
一人と一匹。
きょうも一緒に現場を歩き、犯罪捜査を陰から支えている。
「とべ!」「すわれ!」
静岡市駿河区の安倍川河川敷。
焼津市の警察犬訓練士・斎藤雪乃さん(21)が、相棒のチビ(オス、6歳)に声をかける。
チビのリードを手に持って一緒に走り、大人の胸の高さもある柵を何度も飛び越えさせる。
斎藤さんは民間の警察犬訓練所「バウハウス」(静岡市駿河区)で働いている。
現在、県内にいる27人の警察犬訓練士のうち最年少だ。
訓練中は大きな声で犬たちに指示を出す斎藤さんだが、6年前にここに来るまでは、長らく自宅に引きこもっていたという。
中学生のとき、周囲となじめず不登校になった。
高校に進学してからも、ほとんど通学することはなかった。
食事もあまり口にせず、体重は15歳で37キロしかなかった。
そんな斎藤さんを心配した警察官の父が「気晴らしになるかもしれないから」と、バウハウスへ見学にいくことを勧めてくれた。
そこで出会ったのが生まれたばかりのチビだった。
「兄弟の中でも一番体が小さくて、自分から近寄ってきた。この子なら世話したいと思った」と斎藤さんは振り返る。
このとき、斎藤さんとチビのコンビが誕生した。
斎藤さんはバウハウスの仕事を手伝うようになり、所長の山田多絵訓練士に学びながら、チビとの訓練を重ねた。
早朝から犬舎を掃除し、大声で犬たちに指示を出す。
いつのまにか食事もたくさん食べるようになり、体力がついてきた。
「何より、チビの成長がうれしかった」。
家族との会話や笑顔も増えた。
2012年春、斎藤さんは通信制高校を卒業。
その年の11月、斎藤さんとチビは難関で知られる県警の嘱託警察犬の審査会に合格した。
以来、県警の要請があれば、昼夜を問わず現場に出動する。
強制わいせつや下着泥棒など、女性が被害者になる犯罪での出動が多いという。
幼稚園や小中学校で開かれる防犯教室にも一緒に出向く。
「チビが人生を変えてくれた。チビを通して、いろいろな人と知り合うこともできた」。
訓練士としてさらに活躍の場を広げるため、今年は公益社団法人「日本警察犬協会」(東京都台東区)の公認訓練士の試験に挑戦する予定だ。
(森岡みづほ)
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〈嘱託警察犬〉
警察の捜査に協力する民間の警察犬。警察が毎年開く審査会で合格した犬のみが選ばれる。県警は管内の警察犬をすべて嘱託警察犬でまかなっていて、2014年の出動件数は83件。昨年末に静岡市立日本平動物園のレッサーパンダが脱走した際も、警察犬が発見した。