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老いた犬や猫を引き取るホーム

老いた犬や猫を引き取るホーム 元飼い主の思い、寄り添う猫

 2015年12月3日(木)  sippo(朝日新聞)

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ホームに預けられて仲良くなったトラとてつ

入院や施設入居などで、わが子同然の犬や猫と共に暮らせなくなってしまう高齢者。
そんなニーズに応えるように、ペットを生涯預かるという施設が各地にできている。
都会の片隅で、40代の夫婦が始めた老犬老猫ホームを訪ねてみた。

東京都大田区の京急蒲田駅から徒歩15分ほどの住宅地に、「東京ペットホーム」の本館がある。
看板もなく、一見ふつうの2階建ての住宅だが、事情で飼育できなくなった犬や猫を生涯預かる施設だ。
本館の定員は猫10匹、犬5匹。
専門的には「譲り受け飼養業者」という。
「建物にはあえて看板を掲げなかったんです。動物たちが安易に遺棄されないように」
そう話すのはホームの代表社員の渡部帝さん(46)。
渡部さんは昨年6月、ペット介護士の肩書をもつ妻・まいこさんとホームを立ち上げた。
それまで同じ場所で工務店を営んでいたが、3人の子供の成長を待って、「ずっとやりたかった」新事業に挑んだ。
「老いや病気でペットを手放さなければいけない飼い主さんが増えているのに、ペットの多くが高齢で、新たな飼い主さんが見つかりにくい。その先が保健所だけというのは悲しすぎて」
ペットも高齢化し、20歳まで生きる猫も少なくない。
長寿は素晴らしいことだが、それゆえに飼い続けられなくなる事態も起こる。

広い猫部屋にアパート
東京ペットホームの猫部屋は約40平方メートルで、1匹ずつにケージを用意。
渡部さんは工務店を営んでいただけあり、天井までの3階建てにケージを重ねたアパートも、キャットステップも、猫柱も、すべて手作りした。
窓辺から屋外を眺めることもでき、猫は居心地が良さそうだ。
ただ、飼育の費用はどうしているのか。
「事業として成り立たせるには生活費や医療費を飼い主さんに出してもらうことが必要で、そうでないと(ホームが立ち行かなくなったら)動物たちが不幸になりますからね」
渡部夫妻が出した答は、預かるペットの年齢と平均寿命を照らし合わせて飼育費を割り出すことだった。
例えば8歳の猫なら、平均18歳まで生きるとすれば、10年分の生活費がかかる。
世話代(食費、人件費込み)で、1カ月約4万円×12カ月×10年=480万円。
入居した後、病気になって治療を受ける場合、治療費は元飼い主が別途支払う。
基本的に入居費は前払いだが、相談にも応じる。
「お預かり時点で17~18歳のペットは約1年分だけ頂きます。また、若いペットが病気等で早く亡くなった場合は差額を返金いたします」
飼い主が途中で亡くなるような事態も考えて、ペットの所有権はホームが持つ。
だが、面会はいつでもでき、自宅や施設への出張して面会もする。
ペットの写真は随時フェイスブックに掲載しており、写真と近況を飼い主にメールして連絡をとりあう。
だが中には、ペットに里心がつくと可哀想だからと、断腸の思いで「二度と会わない」選択をする人もいる。

老夫婦からの便り
渡部さんははがきの束を保管していた。
てつ(21)という高齢猫を飼っていた80代の夫妻から届いたものだ。
「てつがすっかり元気になり、うれしいです」「送っていただいた写真に毎日話しかけています。あの子が前足をピンと伸ばして人に抱かれるのは安心して身を委ねている証拠。大事にしていただきありがたい」
夫妻はペット不可の高齢者用マンションに住むことになり、インターネットでこのペットホームを探したのだという。
「てつ君は昨年夏、20歳で体調を崩して、えさを食べられなくなった。飼い主さんは猫の寿命だと考えて家で看取ろうとしたのですが、いよいよ自分たちが高齢者マンションに入るタイミングだと察して、マンションに予約を入れたそうです」
夫妻は昔からたくさんの猫を飼っていたが、60代からは将来を考えて新たな猫を飼わなかった。
最後に残ったのが、てつだったのだ。
ところが、高齢者マンションに入居を申し込んだ後に、てつが回復。
キャンセルすると、いつまた入れるかわからず、自分たちも衰弱している・・・苦渋の決断だった。
てつにとっても、別れはつらかっただろう。
それでも新しい環境になじむのは早く、初日から食事をしたという。
この10月、ペットホームで無事に21歳を迎えた。
動作は鈍く窓辺にも登れないが、獣医さんも驚くほど健康だという。
渡部さんは、元気のもとは、「友達かも」という。
友達は、てつより1カ月早く入居した雄猫のトラ(19)。
トラにはてんかんの持病があって投薬が欠かせない。
元飼い主の70代女性は自身も体調がすぐれず、飼い続けられずホームに預けることにしたという。

老猫同士より添い合う
高齢の飼い主から預けられた高齢の猫同士。
2匹は気が合った。
相性のよさに気付いたのは、まいこさんだ。
「もともと夜寝る時は隣あったケージに、鍵を閉めずに入れていたのですが、ある朝、トラがてつの部屋で一緒に寝ていた。間違えたのかなと思ったら、翌日もまた朝になると一緒に寝ている。これは一緒にいたいんだな(笑い)と」
今は2匹のケージを一緒にしている。
互いに頼り合っている感じがすると、まいこさんはいう。
「トラはてんかんの薬でぼーっとして表情がわかりにくいですが、自分からてつに寄っていく。てつは、生きてるか?みたいに、トラを優しくなでたりしています」
今、ホームには他に8匹の猫がいるが、てつとトラは特に人懐こく、ホームに見学にきた人を癒しているという。
「年をとったペットは飼い易いのだと、この子たちが教えてくれる。一緒にいられる時間は短いかもしれないけれど、大人の猫を飼いたいと感じる人が増えるといいなと思っています」

一方、ホームでは、老犬は5匹預かっている。
散歩は1匹ずつ、毎日3~4回。
9月から高橋あゆみさんが「動物のために働きたい」と会社勤めをやめて、スタッフとして加わり、よりきめ細かなケアができるようになった。
12月には近くに2号館を開設する予定で、高橋さんがそこの店長になる。
2号館は犬が18匹、猫が12匹まで入居できる。
「2号館は外観をペットホテル風にします。愛情をかけてもらったペットにとって、居心地のいい第二のおうちにできたらなあ」
そういって、渡部夫妻と高橋さんは明るく笑った。
希望者は事前に面談が必要で、緊急性のあるケースから預かっていくという。

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犬を散歩に連れ出す渡部帝さんと高橋さん


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