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名古屋のドーベルマン事件

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<ニュースを問う> 名古屋のドーベルマン事件

2015年9月27日 中日新聞

名古屋市守山区の住宅街で5月、民家から逃げ出した大型犬ドーベルマン(雄、4歳)がごみ収集作業中の市職員と住民3人にかみつき、けがをさせた事件。
背景を取材すると、飼い主が適切に飼育できておらず、さらに近隣住民の苦情を聞き入れていなかった実態が見えてきた。
愛知県警は8月、飼い主の70代男性を過失傷害の疑いで書類送検。
男性は朝のごみ出しに行こうとした際、収集車がすでに到着しているのに気づいて慌てて門扉を開けたため、その間に犬が逃げ出した、と説明した。
事件を起こしたドーベルマンを一時保護した市動物愛護センターによると、男性はもともと他県で犬のブリーダーの仕事を営み、数年前まで自宅でドーベルマンの子犬を繁殖させていた。
動物の販売に必要な許可は取得しておらず、事件当時はペットとして飼育していたとみられる。
事件を起こしたドーベルマンが、最後の繁殖犬だったらしい。

◆謝罪の言葉、口に
男性は取材に応じていないが、事件後、市動物愛護センターの担当者と数回面談し「自分が悪かった。被害者の方に謝りたい」と謝罪の言葉を口にしたという。
センターは、男性が高齢のため、外に連れ出して散歩するなど適切な訓練ができていなかった可能性があるとみている。
事件当初は殺処分が想定されたが、3週間後、しつけを専門にする「わんわん保育園DUCA」(同区)に引き取られた。
「最初のころは誰に対してもびくびくして、臆病でした」
犬を「ヒカル」と名付け、しつけを始めた高橋忍園長(52)は振り返る。
ヒカルは生まれてからほとんど外に連れ出されることなく、家の中だけで育てられた。
このため外の世界を知らず、見知らぬ人への警戒心が異常に強く、周囲への恐れから凶暴な性格になったとみられる。
高橋さんによると、そもそもドーベルマンは軍用犬や警察犬に使われる賢い犬。
一度訓練を受ければ忠誠心も高い。
トレーニングを受け、ヒカルも最近では徐々に落ち着いた対応ができるようになり、受け入れ先の飼い主も決まった。
高橋さんは「幼少期に適切な飼育がされていなかったことは明らか。飼い主の責任は軽くない」と指摘する。
複数の近隣住民の話では、飼い主の男性宅付近は近くを通るとドーベルマンがほえることで知られ、門扉を遠ざけるように通行する人が多かった。
地元の女性は「10年以上ずっと騒音に悩まされてきた」と明かした。

◆注意聞き入れず
実は事件が起きる約1年前から、市は住民から「逃げ出しそうで怖い」などといった相談を受け、男性に数回、口頭で注意していた。
市動物愛護センターの担当者は「飼い主の自宅は、犬が跳び越えることが可能な高さの場所もあり、そもそも飼育設備に不備があった。二重柵などの万全な対応を取るべきだった」と指摘する。
男性は再三にわたる市の注意を聞き入れなかった。事件後は、設備の補強に要する資金負担を理由にヒカルを手放している。不十分な飼育態勢が事件の原因になったのは明らかだ。
現場周辺の地区に町内会はあるが、活動実態はほとんどなく、近隣との付き合いは乏しい。
役員経験のある70代女性によると、仕事は会費の徴収や回覧板を回すことくらい。
年1回の役員交代のときしか顔を合わせる機会はなく、男性とも付き合いはほぼないという。
都会の住宅地なら、現代ではこれが普通の姿なのかもしれない。
それでも、近くに住んでいるがゆえに共有しておくべきことはあるのではないか。
近所だからこそ、波風を立てたくないと住民は声をかけにくい。
逆に言えば、苦情があればそれだけの重みがあると認識し、真剣な対応が求められるはずだ。
男性は市を通じて寄せられた間接的な住民の声を受け取っていながら、十分な対応をしないまま事件は起きた。
高橋さんが指摘する適切な飼い方をするのは前提として、市を通じて届けられた近隣住民の声を聞き入れていれば、と考えずにはいられない。
苦情への姿勢は飼い主のマナーの一歩、と心掛けたい。
(社会部・市川泰之)


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