イルカ脅威、どうすれば… けが相次ぐ美浜・水晶浜あす閉鎖
2023年7月20日(木) 中日新聞(日刊県民福井)
17日までの三連休、ウンザリするほどの猛暑となった日本列島。
涼を求めて海に向かった人も多かっただろう。
しかし、福井県内では楽しいはずの海水浴で思わぬけがを負う人が出た。
イルカに接触したり、かまれたりしたという。
人に懐くイメージもあるが、これほど人に近づく理由とは何か。
野生の生態とは。
(宮畑譲)
人懐っこいイメージがあるイルカ=6月13日、高松市の新屋島水族館で
連休中の16日、敦賀半島にあり、砂粒が美しいことで知られる美浜町の水晶浜海水浴場で事故は起きた。
海水浴場の沖合5メートルほどの場所で、岐阜県内の60代男性にイルカが衝突。
男性は肋骨(ろっこつ)を数本折るなどの重傷を負った。
男性以外にも、3人が手や指をかまれるなどしてけがをした。
この日だけでなく、福井県では昨年来、イルカによる被害が相次いでいる。
県警によると、イルカによるけが人は昨年、県警が把握した分だけで21人。
うち20人が夏に福井市内の海水浴場を遊泳中だった。
他の1人は今回と同じ水晶浜海水浴場でけがをした。
今年はこれまで計9人に上り、現場は全てこの海水浴場。
多くの人が手などをかまれたという。
18日、美浜町に電話取材したところ、同町は水中に超音波を発する機器を設置し、駐車場でチラシを配布するなど対策を実施していると説明。
一方、水晶浜海水浴場は住民らで相談した上で、安全が確認できないとして21日から閉鎖されることになった。
人懐っこく、おとなしいイメージもあるイルカ。
野生ではどんな生態なのか。
今回、被害を出したイルカの映像を見た越前松島水族館(坂井市)の館長、松原亮一さんは「おそらくミナミバンドウイルカの可能性が高い」と話す。
その行動について「発情行動、遊び、威嚇、いろんな意味に取れる動きがある。発情期でもあり、気が立っている可能性はある」と推測。
頻出する背景については「調査していないので何とも言えないが、人に執着しているのは間違いない」と言う。
ミナミバンドウイルカは世界の温暖な海域沿岸で広く生息。
成体で体長約2.5メートル、体重約300キロ程度になる。
口が長く、背びれが三角形に近いのが特徴だ。
その性質について松原さんは「人に懐き、おとなしいというのは、日本人のイメージでは。それは訓練された水族館の個体の話で、本来は大型の肉食動物。水族館の人間なら、怖くて野生の個体には近づかない」と解説する。
NPO法人「生物行動進化研究センター」(千葉県旭市)で理事長を務めるパンク町田さんは、海水浴場にまで寄ってくる理由について「人を恐れない個体か、群れがいる可能性が高い」と分析する。
けがの状況から、何らかのコミュニケーションを取ろうとした可能性を指摘する。
「本気でぶつかってサメが死んだという話もある。攻撃されれば人間は骨折などでは済まない。かむ力も相当なもの。よく知られているように、イルカは頭がよい。何かの拍子に人間はおとなしくて遊べると思えば、同じような状況は別の場所でも起こり得る」
「人が距離感コントロールを」
今回のような被害を防ぐ方法としては、海に入らないことが一番だと説く。
「クマやイノシシが出る山は危ないから入らないのと同じ。イルカと人間は常識が違う。イルカと人間の距離感は人間がコントロールするしかない。イルカには無理なのだから」
【昨年の記事より】
イルカ「脅威の夏」終わる 福井の海水浴場20人被害
2022年8月31日 中日新聞(日刊県民福井)
来年再来恐れ 対策検討へ
福井市の3つの海水浴場でこの夏、海水浴客がイルカにかまれる被害が続出し、けがをした人は少なくとも20人に達した。
専門家も「前代未聞」と話すほどの非常事態。
8月の終わりとともに海水浴シーズンも幕を閉じるが、イルカは来季に戻ってくる可能性がある。
中部地方にはイルカの出没で遊泳禁止を続ける海水浴場もあり、来夏に向けて早くも関係者は安全対策の検討に入る構えだ。
(曽根智貴)
浅瀬にいる人に近寄ってきたイルカ=一部画像処理、住民提供
負傷者が出た福井市の3つの海水浴場は7月8〜9日の開場。
けが人は7月中旬ごろから出始め、県警の調べで計20人に上った。
8月11日には40代の男性が両腕など約十カ所をかまれ、左手を14針縫うけがをした。
イルカを飼育する越前松島水族館(坂井市)によると20人にけがを負わせたのは、ひれの形などから同一のイルカの可能性が高く「ミナミハンドウイルカ」のオスとみられる。
イルカは水温やえさなどの要因ですむ場所を変える。
約200キロ離れた能登半島方面から移動することもあり、地元では石川県珠洲(すず)市の近海で親しまれたイルカの「すずちゃん」が「福井にも来たのでは」と話す人もいた。
だが同水族館の担当者は「調査しないと何も分からない」と指摘した。
愛らしい印象があり水族館で曲芸を披露するイルカの多くは「ハンドウイルカ」だ。
一方、福井の海水浴場に現れたとみられるのは、これより一回り小さく(体長2メートル前後)、口先が長いミナミハンドウイルカ。
沿岸に定住する傾向があり、冬は荒波を避けて日本海を離れるが、来夏には再び現れる可能性がある。
今季は3年ぶりに新型コロナ対策の行動制限がない夏だった。
福井市内の海水浴場はイルカが嫌がる超音波発生装置を置くなどの対策を講じたが、被害を防げずイルカが「思わぬ悩みの種」(関係者)になった。来夏に向け、海水浴場を運営する地元の観光協会などは危機感を強めている。
三重県尾鷲市の「三木浦マリンパーク」はイルカの目撃情報が増え、3年連続で遊泳を禁止している。福井市の東村新一市長は22日の記者会見で「これまでの経過を踏まえ、今後の取り扱いは深く研究していきたい」と話した。