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「ペットの終活」多様化で問われる飼い主の選択

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愛犬が認知症、激しい夜鳴きに眠れない日々続きうつ病寸前に…
「ペットの終活」多様化で問われる飼い主の選択

2023年6月14日(水) 

「ペット=家族」という考えは広く定着し、人間と同等にあつかう家庭も増えているようだ。
しかし一方で、ペットの老いや介護について、真剣に向き合っている飼い主は、どのくらいいるだろうか。
愛犬が認知症を患ったという今西乃子さんは、夜鳴きで一晩に何度も起こされ、パニック障害とうつ病寸前にまで追い込まれたという介護生活を発信している。
犬や猫の平均寿命が大きく伸びている中、「かわいい」だけでは済まされないペットの「老い」について、今西さんに話を聞いた。


右目負傷、右後ろ足切断の状態で今西さんに引き取られた未来ちゃん

■ご近所中に響き渡る大きな声で夜鳴き、「迷惑をかけている…」飼い主のストレス
──犬の平均寿命が14歳とされる中、愛犬の未来ちゃんは17歳7ヵ月という“超高齢犬”で、今年2月に亡くなったそうですね。
【今西乃子さん】
主人の腕の中で眠り、そのままスーッと息を引き取りました。
その日はいつも通り、朝のお散歩をして、夕食も食欲旺盛だったんです。
生後2ヶ月(推定)の頃に動物愛護センターから引き取って、おそらく虐待のせいで右目負傷、右後ろ足の足首から下が切断という状態で我が家にやってきた未来でしたが、最期まで元気いっぱい。
私たちも、最期の日を迎える準備をしていたこともあり、心穏やかに未来の死を受け入れることができました。
最期は、眠ったまま天国に旅立ったことで、ベットロスにもなりませんでした。
これまで私たちに、たくさんの幸せをくれた未来には感謝しかないですね。
命を預かった責任を全うできた気持ちです。

──16歳ごろから“老い”の兆しが見え始め、やがて認知症を患ったとのこと。
【今西さん】
認知症といっても、身体自体は健康そのものでした。
筋肉は衰えていましたが、それは年齢からくるもの。
ただ、足が踏ん張れないので、ウォーターボウルに顔を近づけると、足がハの字に開いてしまう。
ようは水を飲むだけで、顔を突っ込んで溺れてしまう危険があったんです。
これはきっと、老犬あるあるだと思いますが…老犬の病気の原因の多くは水不足なので、最後の1年ほどは、2~3時間おきに介助しながら水を飲ませていました。

──犬の認知症は、どんな症状ですか? 人間と同じなのでしょうか。
【今西さん】
症状は、人間に近いと思いますよ。
壁に向かってボーッとしたり、落ち着きなく歩き回って徘徊したり、昼夜逆転したり、トイレを失敗したりなど…。
ただ、これらは、飼い主が受け入れればいいだけの問題。
一番困ったのは夜鳴きです。
これも“犬の認知症あるある”なのですが、とくに未来の夜鳴きは、ご近所に響き渡るほど激しく、自分たちが眠れないストレスに加え、ご近所に大きな迷惑をかけてしまっていました。
そのことが、本当に心苦しかったです。

■「私が倒れたら、愛犬の介護ができなくなる」自分のために“生活の質”を意識
──今西さんは、児童文学作家として活動する傍ら、動物愛護を伝える講演なども行っています。過去に愛犬を看取った経験もあるのに、それでも老犬介護のご苦労は多かったのですね。
【今西さん】
私自身の体へのダメージは初めての経験でした。
病気が原因の介護は、もちろん辛いですが、獣医さんのアドバイスもあるので、先のことがだいたい分かるんです。
ただ、認知症の場合は「昨日できたことが今日できなくなる」ことが多く、戸惑うことがたくさんありました。
とくに最後の1年ほどは、一晩に5~6回も鳴いて呼ぶので、私もそのたびに起きて…。
そんなある日、突然、原因不明の恐怖に襲われ、胸が苦しくなって息ができなくなってしまったんです。



──夜泣きで熟睡できない日々が、1年も続いたんですね。
【今西さん】
ええ、メンタルクリニックでパニック障害だと診断されました。
それまでは夜鳴きも、「自分さえ我慢すればいい」と思っていましたが、私が倒れたら愛犬の介護もできなくなる。
愛犬のQOL(=生活の質)を考えるなら、飼い主のQOLも大切だと痛感しましたね。
それからは、介護も頑張りすぎず、自分たちだけで抱え込まず、獣医さんやシッターさんといったプロに、積極的にヘルプを出すようになりました。
同じように、認知症の子をお世話している「犬友だち」の存在も心強かったですね。

──ご近所へのフォローは、ペットを守ることにも繋がりそうです。
【今西さん】
向こう三軒両隣に、菓子折りを持参してご挨拶に伺いました。
夜鳴きについて、「大丈夫だよ」とおっしゃってくれていましたが、ご迷惑をかけていることは事実。
心からお詫びを申し上げるとともに、暖かく見守ってくれていることへの感謝をしたためたお手紙も同封しました。
愛犬を受け入れてもらうためには、自分自身がご近所に好まれる飼い主であることって、実はとても大切だと思うんです。

──今西さんのこうした日々は、著書『うちの犬(コ)が認知症になりまして』にも綴られています。重た過ぎないタッチでユーモアを交えて伝えていますが、とくに介護経験で「これをやってよかった」と思えたことは何ですか。
【今西さん】
ライフステージによって、愛犬にとって「何が必要で、何がベストか」が変化するので、先入観を持たず、愛犬が快適に過ごせる工夫を、必要に応じて臨機応変にすることが大切だと実感しました。
例えば、オムツやサークルなどを上手に利用する、ということ。
当たり前だと思うかもしれませんが、ポイントは「上手に」利用する」という点です。
また我が家では、愛犬を迎えると必ず「愛犬貯金」をしています。
「未来ちゃん預金」は、生後2ヵ月から17歳まで、毎月の積立貯金で続けていました。
幸いなことに、若い頃はほとんど病気をしなかったので、けっこう貯まります。
愛犬の介護は、シッター料など、お金もかかる。
慌てないために日ごろからの愛犬貯金はぜひ、お勧めです。

■ペットにとって何がベスト? 「動物愛護ではなく“福祉”でとらえて」
──最近は、「ペットとの暮らしが、高齢者の心と健康にいい」といった意見を聞きます。
【今西さん】
それは間違いありませんが、高齢者のペット飼育は、あくまで人間側のメリット。
もしも、飼い主自身がお世話できない状態になったら…。
そう考えると、安易にオススメしていいか疑問です。
仮に誰かが引き取ってくれたとしても、ペットにとっては「誰でもいい」わけではなく、やはりこれまで一緒に暮らしてきた飼い主と一緒にいたいと思うはず。
そう思うと、ペットの看取りは絶対的な飼い主としての責任です。
ただ、子ども世帯と同居している高齢者がペットを飼育するのは、とても理想的だと思います。

──老犬ホームなどの施設も増えているようですね。飼い主の「価値観」も多様化しているということでしょうか。
【今西さん】
個人の考え方なので正解はないと思いますが、施設に頼るということは選択肢のひとつだと思います。
ただ、「動物愛護」という言葉が浸透していますが、個人的に「愛護」では、人間の自己満足の範囲を超えないと思うんです。
つまり、動物を大切にしよう、命あるものは守ろう、ということではなく、相手(ペット)にとって何がベストなのか。「福祉」の考え方でとらえてほしいんです。
そのうえで、飼い主が愛犬の老後をどうすべきか、選択すればいいと思っています。

──たとえば大病を患った老犬に、手術をするのかしないのか、判断は飼い主に委ねられます。賛否はありますが、安楽死という選択もあると思います。
【今西さん】
ペットは、飼い主の判断を受け入れるしかありません。
だからこそ、その子にとって何が一番いいのかを、とことん考え抜くこと。これってすごく苦しいし、切ないんです。
でもそれが福祉であり、本当の動物愛護だと思います。
そしてとことん悩んで決断したら、あとは後悔しないでほしい。
もちろん、「これでよかったのか」「もっと別の方法があったのでは…」と悩み、苦しむ方も多いと思います。
ただ、飼い主がその子のために決めたことを後悔したら、それを受け入れたペットはどう思うでしょうか。
大好きな飼い主さんが一生懸命悩んで、考えて決めたことは、その子にとってベストな選択だと思います。

──とはいえ、ペットの死を受け入れるのは辛いものです。
【今西さん】
ペットが10歳を過ぎた頃から、その子の最期をイメージしておいたほうがいいと思います。
辛いし悲しいし、できれば考えたくないですよね。
でも老いは、生きているすべてのものに訪れる現実です。
それは人間も動物も同じことですが、ペットの看取りは飼い主の責任で、飼い主がいろんなことを決めなくてはならない。
いつかは必ず向き会わなくてはならない時のために、家族でそのことを話し合っておくことは大切で、それが命を預かった責任だと思います。

──著書では、「犬って老いれば老いるほど、ますます愛おしくなる」と、明るく語っています。
【今西さん】
老犬って本当にかわいいんですよ。
そして、愛犬の老後とは、これまで築き上げた飼い主との信頼関係を「確認する時間」なんです。
ですから私たち飼い主も、以前にもまして安心を与えてあげたいですよね。
「あなたのことをこれまで以上に愛しているし、大切な存在」なんだと。
また、飼い主にとって老犬のお世話は大変ですが、さらに愛しさが増す時期でもあるんです。
「老犬介護=大変・辛い」ではなく、これまでの楽しかった思い出を振り返って温かな気持ちになったり、笑いがあったり…。
この本も、それを知っていただきたくて、明るく綴りました。
すべてのペットが、飼い主さんたちと最期の日まで幸せに過ごすことを、心から願っています。



『うちの犬(コ)が認知症になりまして』(著)今西乃子(外部サイト)
5月22日発売/1540円(税込)(C)青春出版社
すべての愛犬に訪れる「老い」にどう備えるか…17歳の超高齢犬・未来(柴犬・メス)との“ますます愛しくなる介護”をユーモラスにつづったエッセイ。認知症対策や介護の知恵、老犬と楽しく幸せに暮らすコツなど、「老いじたく」のヒントが満載。わんこ大好きなマンガ家・あたちたちによる描き下ろし4コママンガも掲載されている。

●著者プロフィール
今西乃子(いまにし のりこ)/児童文学作家。(公財)日本動物愛護協会常任理事。著書『ドッグ・シェルター』(金の星社)で、第36回日本児童文学者協会新人賞を受賞。執筆の傍ら、動物愛護センターから引き取った愛犬・未来をテーマに、全国の小中学校を中心に「命の授業」(講演会)を展開。主な著書に、『犬たちをおくる日』(金の星社)をはじめ、累計45万部突破のロングセラー「捨て犬・未来」シリーズ『捨て犬・未来 命のメッセージ』『捨て犬・未来、しあわせの足あと』(岩崎書店)ほか、『捨て犬未来に教わった27の大切なこと』『いつかきっと笑顔になれる 捨て犬・未来15歳』(小社刊)など多数。


今西乃子さんのホームページ(外部サイト)


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