「飼うのが難しくなった」市に相談した犬…なぜ?知らぬ間に殺処分
2022年9月26日(月)
動物好きにとって、ともに暮らす犬は家族同然の存在だ。
ところがある日、飼うのが難しくなってしまった-。
3年前、福岡県久留米市の女性が愛犬を市に引き取られ、知らずに殺処分される事案があった。
女性と市の間に何があったのか。
動物愛護週間(20~26日)に合わせて取材した。
譲渡会で引き取り手の見つかる犬は限られる現実がある=2019年10月(本文とは関係ありません)
発端は2019年夏。ペットOKの賃貸物件で暮らしていた女性が、市営住宅に引っ越すことになった。
当時、飼っていた9匹の犬を転居先に連れていくことはできない。
女性は市動物管理センターを訪れた。
市は動物の保護や譲渡を担うボランティア団体を女性に紹介し、協力を求めるように助言。
市から話を聞いた団体も、譲渡会で新しい飼い主を探すことを考えた。
ところが市の資料によると、女性は多忙で連絡できなかったとみられる。
団体も「個人情報」を理由に女性の連絡先を教えてもらえなかった。
双方の話し合いが実現しないまま、3週間が過ぎた頃。
市の担当者が女性宅を訪問。
女性から犬の性格を聞き取り、手放す承諾を得たという。
「犬がどうなるかは言えない。全部は助けられない」。
市の内部文書には、担当者が女性にこう伝えたと記録される。
ただ、女性は外国出身で日本語が得意ではない。
説明を理解できたかは判然としない。
数日後、市は、野犬の保護や飼い主が分からない場合に作る「所有者不明犬」の引き取り依頼書を職員名義で作成。
9匹のうち5匹が県動物愛護センター(古賀市)に搬送されることになり、殺処分された。
◆ ◆
通常、所有者不明で保護した犬は狂犬病予防法などに基づき、市がホームページ(HP)などに一定期間公開し、譲渡先を探す。
市の対応は適切だったか。
「しつけが行き届いておらず、職員をかんだ。譲渡に不適切だったのでHPで公開しなかった」。
担当者は当初、取材にこう説明した。
そもそも、飼い犬を所有者不明犬として処理することに問題はないのか。
「飼い犬の引き取りには手数料がかかる。女性の経済状況を勘案した」
後日、女性から事情を聴いた団体に取材すると、市の説明に疑問が生じた。
女性は愛犬が殺処分されたことを知らなかった。
愛犬は人をかむような性格でもなかったという。
微妙に食い違う、それぞれの言い分。
あらためて市に取材すると、対応の不備をある程度認め、こう語った。
「言葉の行き違いによる誤った認識が原因で、機械的に対応してしまった。同様の事案が起きないように、ボランティア団体としっかり相談したい」
殺処分を免れた4匹は、ボランティア団体を介して譲渡先が見つかり、今も健康に暮らしている。
もっとも、譲渡会で新たな飼い主が見つかるケースは限られる。
たとえ動物を大切に思っていても、ペットを養う経済力や十分な体力がなければ、小さな命を守れないこともある。
「最も責任が重いのは飼い主。飼えない頭数の飼育や責任放棄はあってはいけない」。
動物愛護管理に関わる行政職員は訴える。
近年は新型コロナウイルス禍で、ペット人気が高まる。
ペットフード協会(東京)の調査では、犬の全国の新規飼育頭数(推計)は2020年が41万6千匹、21年が39万7千匹で、ともにコロナ前を上回った。
日本動物福祉協会(東京)の町屋奈獣医師は「安易に飼わないのは大前提で、終生飼育が望ましいが、人生は何が起きるか分からない。やむを得ず飼育困難になった場合に備え、事前に引き取ってくれる人を確保することも飼い主責任として重要だ」と語った。
(玉置采也加)