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死ぬまで愛するペットと暮らしたい

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死ぬまで愛するペットと暮らしたい…
「看取り犬」が自然と生まれた奇跡の介護施設

2022年9月27日(火) 

◆テレビでも話題になった「看取り犬」のいる施設
先日、NHKで放映された『“看取り犬(みとりいぬ)”とワンダフルライフ』というドキュメンタリー番組に出てきた犬の姿を見て、衝撃を受けた。
その犬は特別養護老人ホームで飼われていて、入居しているお年寄りに死期が近づくと、その人のベッドに上がって顔を舐めたり、体をこすりつけたりする。
その姿を見て、家族や施設の職員は、「お別れのとき」が近いことを察知するのだという。
人生の終わりを静かに迎えようとしているお年寄りの顔を何度も何度も舐めては、一生懸命に体をこすりつける犬。
そのいじらしいような無心の仕草が心に突き刺さるようだった。


写真提供: 現代ビジネス

犬の名前は文福。
推定年齢12歳~13歳で、神奈川県横須賀市の特別養護老人ホーム『さくらの里 山科』で暮らしている。
そして、その行動から、施設では“看取り犬”とも呼ばれるようになっている。
『さくらの里 山科』は、犬や猫と一緒に暮らすことができる、全国でも珍しい特別養護老人ホームだ。
施設内の2階から4階の住居フロアのうち、2階に犬と暮らせるユニットが2つ、猫と暮らせるユニット(※1)が2つ置かれている。
実はこの施設、私は4年前に一度、取材で訪れたことがあった。
その時はどちらかというと猫ユニットを中心に取材したので、文福のことはテレビを見るまで詳しいことは知らなかった。
この施設で暮らす犬や猫は、それまで暮らしていた家から飼い主と一緒にやってきた犬猫もいれば、そうでない子たちもいる。
文福は10年前に、保健所にいたところを動物愛護団体に救い出されて開設間もない『さくらの里山科』にやってきたのだそうだ。
そして、これまで多くのお年寄りに寄り添いながら生活し、多くの人を見送ってきた。
テレビで文福や施設の人たちの様子を見ていて、ふと4年前に取材した入居者さんや犬猫たちは、その後、お元気にしているだろうかと気になってきた。
それで再び理事長の若山三千彦さんにお会いして、施設で暮らす入居者と犬や猫のお話を伺った。
 ※1:ユニットとは、10名前後の少人数単位で介護 をするスタイルのこと。

◆猫の看取りを経験した入居者さんの物語

4年前に取材させていただいたときのAさんと愛猫の祐介くん。『おとなスタイル』より 撮影/関夏子

お話を聞く前、事前に『さくらの里 山科』の公式ブログを拝見して、以前、取材した女性の入所者さんと一緒に暮らしていた猫の祐介くんが、昨年、亡くなったことを知った。
じつはこの入居者さん(=以下Aさん)のことは、とてもよく覚えていた。
「自分が介護施設に入るために、長年一緒に暮らしてきた猫と別れることはできない、別れるくらいなら死んだほうがいいとずっと思っていました」という言葉がとても印象的だったからだ。
そんなAさんの想いをどうにか実現しようと姪御さんが懸命にリサーチするがなかなかペットと一緒に暮らせる施設は見つからなかった。
やっとのことで「さくらの里 山科」を探し出してくれて、それで祐介くんと一緒に入居することができたという。
4年前にお話を伺ったときに、「今、ここで暮らすことができて、人生の中で今が一番幸せです」ともおっしゃっていたAさん。
当時、祐介くんは12歳だったので、15歳で亡くなったということになる。
猫の15歳は人間でいうと70代半ば。
ブログを見ると、歳をとってきた祐介くんがAさんと一緒に穏やかに最後の日々を過ごし、亡くなった後も入居者やスタッフの皆さんに手厚く送られていったことが伝わってきた。
「Aさんは祐介くんが生まれた直後から一緒に過ごしてきたわけですから、祐介くんが亡くなった直後はもちろん寂しがられて、しばらく元気がない日もありました。ただ、うちの施設にペット同伴で入られ、祐介くんのようにペットが先に旅立ったケースはいくつかありますが、その飼い主さんたちに共通しているのは、ペットロスが非常に少ないということです」と話す若山さん。
「もちろん、寂しい気持ちは皆さんあるでしょう。でも、Aさんご自身もおっしゃっていましたが、ロスということよりも、家族であるペットと最後の時まで一緒に過ごして、自分でしっかり見送ることができたという満足感の方が強い、ということなのです」
祐介くんを見送って約1年半。
Aさんは今も元気にフロアの猫たちと触れ合いながら過ごしているという。
人間だけでなく、ペットも高齢になって、やがて死んでいく。
犬や猫が先に旅立つことも確かにあるわけで、その時にいかに後悔することのないような時間を過ごすことができるか、それはこの老人施設に限らず、ペットと暮らす上でとても大切なことなのだなと改めて感じた。

◆文福くんが「看取り」をする背景

最期のときが近い入居者さんの近くに、自ら進んでやさしく寄り添う文福。写真提供/さくらの里山科

冒頭でご紹介した犬の文福がなぜ“看取り”のような行動をとるのか。
ドキュメンタリーでは大学の獣医学部の先生が「それは匂いの変化が原因だろう」と解説していた。
犬は集団で生活するときに、同じ家族やグループにいる仲間と同じ匂いを持ちたがる習性があり、匂いで仲間なのか、敵なのかを認識する。
それで、仲間がいつもと違う匂いをしていると、その新しい匂いを自分にも付けようと思い、相手の体に全身をなすりつける「匂い付け行動」をとるのだという。
人間は死期が迫ると代謝系が変化して、呼吸の中にその成分が出てくるため、いつもと違う匂いがするようになる。
文福は横たわる大好きな入居者さんの顔をいつものように舐めて、あ、匂いが違うと思った時に、その匂いを自分にも付けようとして体をこすりつける。
その行動が看取りのように見えるのだろう、ということだった。
「文福があのような看取りのような行動をするのは、高齢者が老衰で亡くなるときです」と若山さんは話す。
「老衰で亡くなるケースでは、まず食べられなくなり、次に水も次第に受け付けなくなって、静かに旅立たれることが多いです。文福はその最後の時を少し前から予測するので、確かに匂いの変化を感じ取っているんだろうと思います。ただ、それはおそらく、他の犬たちもみんなわかっていることなのではないかと私は思います。アメリカにはがんで亡くなるのを察知する猫がいますし、文福だけでなく他の犬もきっとそんな匂いを察知している。  ただ、文福が他の犬と違うのは、匂いで(亡くなるまで)あと2日か3日か、と察知した上で、そこから入居者の方の部屋の前でじっとうなだれていたり、部屋に入るとご本人に寄り添うような行動に出るところです。自分の匂いをつけるという動物的な本能だけなら、他の犬もしてもいいはずですが、そのような一連の行動をするのは、うちでは文福だけです。  こういった行動に出るのはきっと、文福がうちに来る前に保健所で殺処分される直前の恐怖体験をしたことが影響しているのではないかと私は思っています。自分が一人で死んでいくのだろうという死の恐怖を、文福は直前まで体験している。だから、誰かが死んでいくときに一人ぼっちで行かせないように寄り添い、見守っているんだろうと。こんなこというと、動物がそんなこと考えるわけない、と否定されてしまいそうですが、私はそう感じられてならないのです」(若山さん)

◆ペットが当たり前の社会が考えるべき課題

入居者の方たちは根っからの動物好きの方ばかり。犬や猫のケアやふれあいが生きがいになっている。写真提供/さくらの里山科

『さくらの里 山科』の犬のユニットで暮らす高齢者はみなさん明るくて、笑い声や話し声が絶えず、とても活発な雰囲気だ。
一方、猫のユニットの方はもう少し穏やかな感じだが、みなさん陽だまりの中にいるような、どこか緩やかなまったりとした雰囲気がある、と若山さんはいう。
「それは“犬や猫が特別な力を持っているから”ではありません。犬ユニット、猫ユニットで暮らしている人たちは、昔から犬や猫と暮らし、みなさん本当に犬や猫が大好きな方たちなのです。ペットと一緒に暮らせるこの場所じゃなきゃ嫌だ、という方々が集まって暮らしている。つまり、みなさん一番大好きなものと一緒に、一番の願いが叶った状態で暮らしているわけです。だから明るくて笑い声も出るし、穏やかでまったりした雰囲気にもなる。  それはたとえば、犬や猫と一緒にいることに限らず、好きな音楽に包まれて過ごしたり、好きな草花に囲まれて過ごしたりと、その人にとって笑顔で暮らせる何か……大好きなもの、愛するものがあるかどうかということなのだと思います」
好きなものに囲まれて旅立てるというのは、確かにとても幸せなことだろう。
この施設に入居してくる方の中には、ペット同伴の人だけでなく、高齢になったことで、ペットと暮らすことを諦めた経験がある人も少なくない。
自分の人生の中で、幼い頃から犬や猫がいない時期はなかったのに、高齢になって犬や猫との生活を諦めなければならなかった、という人たちが、ここで再び犬や猫と過ごす時間を大いに楽しんでいる。
人間もペットも、歳を取ってもお互いに心を通わせて、生き生きと暮らしている。
私自身も現在、猫と暮らしている。
そして、保護団体からの譲渡条件も厳しくなってくる年齢が間近に迫っている。
もちろん、自分の年齢を考えてペットとの暮らしを考えることはとても重要だ。
周りを見ると、高齢者が体調不良で飼育できなくなった、施設に入るので飼えなくなった、という飼育放棄が増加していて社会問題にもなっているのが現状だ。
東京都動物愛護相談センター多摩支所のデータによると、犬・猫の引取理由の68%が飼い主の健康問題にあったという(※2)。
また、高齢者に活動的な子犬を安易に購入させてしまうペットショップも多く、「体力的に飼い続けられない」と手放すケースもあると聞く。
これらはもちろん丁寧に向き合わなくてはいけない問題だが、これだけ「動物との暮らし」が当たり前になっている世の中であるにもかかわらず、60代になったらペットとの暮らしもあきらめていかねばならないという現実は、正直、なかなか消化しきれない部分もある。
『さくらの里 山科』のような施設が増えることを望みたいが、特別養護老人ホームの場合、行政の理解が大きな壁となるケースも多いという。
一体どうしたら、年齢を重ねてもペットとともに暮らせるのか、社会全体で真剣に考えるときが来ているのかもしれない。

※2:東京都動物愛護相談センター多摩支所「事業の概要」(2019 年度)より

 https://www.tama-100.or.jp/cmsfiles/contents/0000000/891/pet_3.pdf

牧野 容子(エディター・ライター)

【写真】最期まで愛するペットといっしょに。「看取り犬」もいる特養老人ホーム

[ETV特集] “看取り犬”~特養でお年寄りに最期まで寄り添う犬とワンダフルライフ~ | NHK - YouTube


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