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日本人が知らない「家畜の虐待死」の残酷な現実

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エサをもらえず、餓死していく…
日本人が知らない「家畜の虐待死」の残酷な現実

2022年7月16日(土)  

◆横行する家畜への虐待
ペットブームで犬や猫を家族同然に思う人が増えている。
一方で安易にペットを飼い始めた結果、飼育できず捨てたり、飼育放棄(ネグレクト)するケースも後を絶たない。
そうした背景もあって、これまでにも動物愛護管理法の改正が行われ、ブリーダーやペットショップ等の業者に対する規制が強化されるとともに、動物虐待に対する罰則も強化されてきた。
現在、同法44条1項は、「愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は 5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処する」と規定する。
また同2項は、みだりに給餌もしくは給水をやめるなどして愛護動物を衰弱させること等についても、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処すると規定している。
同法に「愛護」の文言もあるのでペットを対象にしているとの誤解も多いが、この規定は畜産動物(家畜)にも適用される。
罰則が適用される愛護動物として「牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる」が指定されている。
しかし、牛、豚、鶏などの家畜に対するこうした虐待は、過去にもたびたび報告されてきた。
病気になった豚を処分するために、悲鳴を上げてもがき苦しむなか首にロープをくくってリフトでつるし上げて殺していたケースや、病気で弱った鶏を生きたまま火の中に放り込んだ事件も明らかになっている。家畜はそもそも食用等に飼育して殺すものであるが、みだりに殺したり、傷つけることは犯罪に当たる。
餌や水を与えないネグレクトも同様だ。

◆21頭の豚が餓死、35頭が飢餓状態

アニマルライツセンターが告発した動画の一部

しかし、またしても悲惨な事件が内部告発であきらかになった。
2019年、四国愛媛のとある町の養豚場で人知れず、35頭の豚が飢餓で苦しむ映像が公開されたのだ。
豚たちは痩せ細り、骨が浮いて見えた。
餌箱はからっぽで水が与えられている形跡もない。
35頭のうち、生まれて間もない赤ちゃん豚は13頭で、同じ檻に入れられている大人の豚たちに踏み潰されないように逃げ惑っていた。
動画の中ではすでに21頭の死体が放置されていた。
生き残っていた35頭の豚たちもこのあとすべて死亡したという。
動画の状況から見て、餓死したと考えられる。
この事件は、アニマルライツセンターに情報が寄せられたことで明らかになった。
豚たちが死んでしまった後の2021年に、同センターはこの事件の詳細を告発者から聞き、すぐさま刑事告発の準備に入った。
実はこの告発者は、まだ豚たちが生きている時点で警察にも行政にも相談をしていたが、双方ともこの虐待を無視したり、指導しなかったりと散々な対応だったという。
そこで検察への告発が行われた。
松山地方検察庁西条支部は2022年はじめにこれを受理し、捜査を行ったが、不起訴処分(起訴猶予)の決定を下したという。
アニマルライツセンターの岡田千尋代表理事は、検察から「証拠はあり、虐待があったことは認められるため違法ではあるものの、諸事情を考慮して起訴を猶予した」と聞かされたとして、憤りを見せた。
「違法であるが諸事情を考慮」とはどういうことであろうか。
岡田氏によれば、「証拠はそろっているのに、これまで畜産動物への虐待に対する告発で、起訴されたものはない」という。
2020年には和歌山県産のブランド鶏肉「紀州うめどり」を育てる有田養鶏農業協同組合(同県有田川町)が経営破綻し、約14万羽の鶏がネグレクトで餓死しているが、この時も不起訴処分になっている(その後16万羽と判明)。
現場は惨憺たる状況であった。
ネグレクトによる餓死は明らかに虐待だろう。
そこに考慮すべき事情などあるのだろか。


「紀州うめどり」餓死の惨憺たる現場(提供:アニマルライツセンター)

◆なぜ起訴されないのか?
ペットと畜産動物は扱いが違うのだろうか。
前出の岡田氏によれば、愛媛の事件について検察は「畜産動物だからではない」と言っているが、ペットを扱うブリーダーが犬や猫で同様なネグレクトを行ったら、現在の動物愛護の世論に押されて、検察は不起訴処分では済まさないだろう。
毎日のように畜産動物の「いのち」をいただいている消費者が、「いつかは殺すのだから仕方ない」と考えているから、検察も動かないということであろうか。
こうした状況に異を唱えるアニマルウェルフェア(動物福祉)という考えが、日本でも浸透してきている。
人間が動物を利用することは否定しないながらも、「いのち」の尊厳に配慮して飼育環境を改善し、と畜するときは苦しみの少ない方法で行うべきという考えで、具体的には以下の「5つの自由」が主張されている。

 ----------

飢え・渇きからの自由 不快からの自由 痛み・負傷・病気からの自由 本来の行動がとれる自由 恐怖・抑圧からの自由

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そもそも家畜に対して主張され始めたものだが、今ではすべての飼育下の動物へと範囲が広がってきた。
犬や猫などペットへの飼い主の愛着に比べ、家畜に対する消費者の関心は低い。
カットされて見た目もきれいな肉がスーパーに並んでいるのを見て美味しそうと思う消費者は多いが、少し前まで彼らが生きていた「いのち」であったことを想像する人は少ない。
自らが食べているお肉となった動物たちが生きていたときに、彼らの目に映る人間がどのような振る舞いをしていたかについて、消費者はもっと関心も持つべきだろう。
動物はモノを言えない。
彼らの代わりに意見を言えるのは人間だけだ。
人間の豊かで便利な消費生活の裏で、犠牲になっている動物たちの実態にもう少し関心を持ってもらいたいと思う。
日本人の肉の消費量はますます増えており食べ放題の焼き肉やしゃぶしゃぶなども人気だが、同時に「いのちを消費する者の責任」が問われている。

細川 幸一(日本女子大学教授)

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