【猫の殺処分を減らしたい】
ミルクボランティアが陥りやすい落とし穴とは?
2022年7月16日(土) 石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
猫の殺処分数は、令和2年4月1日~令和3年3月31日では、19,705頭でその中で幼齢猫は13,030頭です。
つまり猫の殺処分のうち6割以上が幼齢猫※になっているのです。
この幼齢猫を減らすことで、殺処分の数が改善されます。
今日は、幼齢猫のミルクの与え方について見ていきましょう。
※幼齢猫とは、主に離乳していない個体のことです。離乳ができずミルクを飲んでいる猫です。
◆理想的なミルクの与え方
ねこナビ編集部@CatNaviDeskのTwitterより 許可を得ています。
最近、ねこナビ編集部に保護された1頭の子猫のまるるちゃんは、満足そうにミルクを飲んでいますね。
もちろん、母猫のおっぱいから母乳を飲むのが理想なのですが、子猫だけ遺棄されるなどの理由から哺乳が必要な子猫はいます。
・子猫の唇と舌を使ってしっかりミルクを飲む
・前脚で哺乳瓶をしっかり握ってミルクを飲む
上記の理由から、動画のような哺乳の仕方が理想です。
動画を見ると、子猫と哺乳瓶の絶妙な角度ですね。
子猫の習性をよく理解している人が、世話をしていることが読み取れます。
◆NGの哺乳の仕方
子猫を保護したときは、1頭ということは少なく数頭ということが多いです。
猫は、ご存じのように1回の出産で、数頭の子猫を産むからです。
そのため、一度に多くの子猫の世話をするのはたいへんなので、時間のかからない方法でミルクを与ることが多いです。
しかし、以下の方法はあまり好ましくないです。
・カテーテルでミルクを流し込む
・シリンジでミルクを飲ませる
もちろん、子猫によっては、ミルクを吸う力もない子もいます。
そのような子は、上記の方法でミルクを飲ませるしかない場合もあります。
だんだんと元気になれば、哺乳瓶でしっかり唇と舌を使って飲むでしょう。
◆なぜ、シリンジやカテーテルでミルクを与えるとよくないの?
以前、子猫に毛布をかけてあげたら命の危険に 知られざる「ウールサッキング」の恐怖とは?というので、ウールサッキングについて書きました。
簡単に説明しておきます。
早い時期に母猫と離れて、母乳をしっかり飲んでいない子に、ウールサッキングが多い傾向があります。
ウールサッキングとは、猫の問題行動のひとつです。
ウールは「羊毛」、サッキングは「しゃぶる」という意味です。
羊毛をしゃぶることです。
猫の中には、羊毛だけではなくて、毛布、絨毯、レジ袋、ひも、輪ゴム、段ボール箱など、いろいろなものをしゃぶったり、噛んだり、あげくは食べたりする行動を取る猫がいます。
ひどい場合は、腸閉塞を起こして、命を落とすこともあります。
猫や人は、哺乳類なので、ミルクを飲んで成長します。
口に入ってきたもの(母親の乳首)を強く吸います。
これを吸てつ反射といいます。
そしてミルクが入ってくると、飲み込みます。
これを嚥下反射といいます。
これがないと口の中でミルクがたまり、よだれとして外に流れます。
これらのことを含めて、哺乳反射といいます。
人の場合は、この反射は、生後4カ月から次第に薄れて、7カ月で消失するといわれています。
猫の場合は、生後2カ月ぐらいから、離乳が始まるので、もっと早い段階になくなるのですが、母猫の乳房からミルクをもらっていない猫に、この吸てつ反射が長く残っているので、このようなことになるのでしょう。
動画のようにしっかり哺乳瓶で唇と舌を使ってミルクを飲んでいると、ウールサッキングになる可能性が少ないです。
◆まとめ
幼齢猫の猫を保護して、ミルクを与えることは、たいへんです。
数時間おきに、ミルクを与える必要があります。
そのうえ、弱っている子は、十分にミルクを飲んでくれません。
そんな状態の子に唇と舌を使って哺乳するというのは難題かもしれません。
しかし、哺乳期にしっかり唇に温かさを感じさせて、強く吸う吸てつ反射をさせておくことが、成猫になってからの「ウールサッキング」の予防になるということを知っておくことは、大切です。
筆者は、小動物の臨床現場にいますが、肉体は健康な猫に育っていますが、ケージや寝床に、敷物やペットシーツを敷くと噛んで食べてしまうウールサッキングの猫がいます。
その子は、成猫になっても安定剤を服用しています。
子猫の命を救うことも大切ですが、のちのちゆったりした猫になるように、ウールサッキングにならないように気を配って育てあげてくださいね。
猫は、いまや30年も生きるかもしれないので、問題行動をする子を作り出さないことです。
問題行動があると飼育崩壊の原因のひとつにもなりますから。
石井万寿美
まねき猫ホスピタル院長 獣医師
大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は栄養療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医師さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らす。
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