Quantcast
Channel: 動物たちにぬくもりを!
Viewing all articles
Browse latest Browse all 3575

飼い犬・猫へのマイクロチップ装着「悩む」飼い主

$
0
0

飼い犬・猫へのマイクロチップ装着「悩む」飼い主
 6月1日から義務化スタート、普及や理解が課題

2022年6月1日(水)  

2019年に「動物の愛護及び管理に関する法律」が改正され、第一種動物取扱業者(犬猫等販売業者)が取り扱う犬や猫へのマイクロチップ装着の義務化が、6月1日からスタートします。
譲渡前までに装着し、環境省のデータベース「犬と猫のマイクロチップ情報登録」へ所有者登録を行うことが義務付けられます。
ペットショップなどからマイクロチップを装着した犬や猫を迎え入れた場合は、飼い主が所有者変更の届け出を行う義務が生じます。
また、6月1日以前に犬や猫を所有している飼い主には、マイクロチップの装着は努力義務とされています。
新たに犬や猫を拾ったり、譲り受けたりした場合も同様です。
これまでの啓蒙活動で、マイクロチップに対する認知や有用性の理解は進んできたものの、一般の飼い主からは根強い抵抗感も聞こえてきます。
実際に普及が進んで、目的とする効力は発揮されるのでしょうか。


6月1日に始まったペットへのマイクロチップ装着義務化。災害などで迷子になったペットを救うのにも役立ちます(写真:yuzu48/PIXTA)

■マイクロチップが義務化された背景
マイクロチップが大きく注目され始めたのは、2011年の東日本大震災の後です。
震災では多くの犬や猫が飼い主と離れ離れになり、自治体などに保護されました。
迷子札や鑑札などを首輪に付けていた場合は100%飼い主が判明しましたが、首輪だけだったり首輪が外れてしまったりした場合は、飼い主探しに困難を極めました。
「マイクロチップを装着していれば再会できたのに」と悔やむ飼い主も多かったようです。
熊本地震で被災したペットや飼い主を支援していたPIACKの会(熊本動物取扱業専門委員会)が、のちに作成した『飼い主とペットの為の防災ガイドブック』にも、「災害時ペットが逃げ出したり、避難時にはぐれた時にいち早く探し出すことができます」と、マイクロチップ装着の重要性が明記されています。
筆者が熊本地震で被災した飼い主を取材した際には、「マイクロチップを装着していたので、すぐにわが家の子と再会できました」との声もいくつか耳にし、装着の有用性を感じていました。
マイクロチップ装着の義務化は、大規模災害時や、平常時の迷子や盗難、事故に遭ったときなどに、速やかに身元を証明することを目的としています。
被災した飼い主の経験などから、「もしものときに役に立つ必需品」と位置づけられているのです。
また、社会問題でもある「飼育放棄」や「遺棄」などを未然に防ぐという効力も期待されています。
動物愛護先進国に追いつくためには、マイクロチップ装着は必須条件ともいわれています。
そのような理由から義務化に至ったのです。

■マイクロチップ装着の利点と欠点
マイクロチップは直径約2ミリ、長さ約8~12ミリ程度の円筒形の電子標識器具です。
一度体内に埋め込んだら脱落する可能性は低く、電源なしで半永久的に使用可能です。
国内では、国際規格(国際標準化機構)であるISO11784/5のチップに統一されています。
チップごとに15ケタの番号(識別番号)が記録されていて、専用のリーダー(読み取り機)で読み取ります。
この番号は所有者情報などさまざまな情報が紐付けられ、環境省のデータベースに保存されます。
照会することで、個体識別や所有者情報などがわかる仕組みです。
チップの埋め込みは、獣医師が行います。
使い捨ての埋め込み器で装着します。
埋め込み部位は背側頸部(首の後ろ)が一般的で、犬や猫が感じる痛みは注射と同じとされています。
費用は2500~5000円程度で、装着後に「マイクロチップ装着証明書」が発行されます。
この証明書を添付のうえ、装着後30日以内に環境省のデータベースに登録します。
申請方法には、パソコンやスマートフォンなどで行うオンライン申請(300円)と、専用用紙による郵送申請(1000円)があります。
登録情報は、所有者が変わるたびに変更が必要となります。
変更時にも同様の手数料がかかります。完了すると登録証明書が発行されます。
この指定登録機関への登録制度は、日本獣医師会が民間事業として行っているマイクロチップ登録制度(AIPO)や、その他の民間業者が行っているマイクロチップ登録制度とは異なります。
そのため、すでにこうした事業者に登録したデータは、移行する必要があります。
装着の最大のメリットは、保護されたとき身元証明が容易かつ確実で、飼い主と再会できる可能性が高くなることにあります。
「首輪やハーネスに迷子札や鑑札を付けているから大丈夫」という飼い主もいますが、首輪が外れてしまうと意味をなしません。
また、自宅では首輪やハーネスを外していることが多く、突然の災害などには対応できません。
盗難時には、保護されたとしても自分のペットだと証明するのは困難で、「似ているだけだ」と主張されたら、取り戻すことはできません。
しかし、マイクロチップを装着していれば、再会の可能性を高めることや自分が飼い主だと証明することができるのです。
また、保護されて他の人に譲渡されたり、殺処分されたりするリスクも避けられます。
そして、飼育放棄や遺棄など「安易にペットを捨ててしまうことを思いとどまらせる抑止効果がある」と期待されています。
デメリットは、体内(皮下)に埋め込む際に「通常の注射程度」の痛みがあることです。
埋め込む際に使われる注射針が若干太いので、痛みが強いのではないかと考える飼い主も多いようです。
さらに気がかりなのは、装着による健康への影響でしょう。
しかし、海外における膨大な装着実績では、現在まで装着後の副作用の報告はほとんどなく、また外部からの衝撃による破損の報告はありませんでした。
健康被害でわかっているものは英国小動物獣医師会による報告で、370万頭以上のマイクロチップ装着実績のうち腫瘍が認められたのは2例でした。
マイクロチップの安全性は「高い水準である」と世界的に評価されています。
装着による健康への影響は、心配のないレベルといえるでしょう。

■飼い主はマイクロチップ装着をどう考える?
2021年12月28日~2022年1月12日、日本トレンドリサーチを運営する株式会社NEXER(ネクサー)が、全国男女計2000名を対象に「犬猫のマイクロチップ装着義務化に関するアンケート」を行いました。
「今年6月に犬猫へのマイクロチップの装着が義務化されることを知っているか」との質問に対し、76.3%の人が「知らない」と回答しました。
マイクロチップを装着していないという飼い主に対し、「今後装着させたいと思うか」との質問をしたところ、55.9%の人が「装着させたくない」と回答しました。
この結果から、多くの飼い主が装着を否定的に捉えていることがわかります。
その理由には「身体に異物を入れるなんて考えられない」という根強い抵抗感のほか、「健康に影響がないのか」「装着費用が高い」「手術は避けたい」「室内飼育なので必要ない」「必要性がまだ理解できていない」など、装着への健康不安や理解不足も多く見受けられました。
2022年4月25日~4月30日にペット保険の「PS保険」を提供する少額短期保険会社のペットメディカルサポート株式会社が契約者2461人(有効回答数379名:犬の飼い主254名、猫の飼い主125名)を対象に行った飼い主の意識・実態調査では、マイクロチップの認知度は9割以上、装着に賛成は8割以上という結果で、義務化について以前よりも浸透していました。
一方で、装着をしていない飼い主に装着予定を尋ねたところ、「悩んでいる」が半数、「予定なし」は犬の飼い主が5割、猫の飼い主は4割で、前述のアンケート結果から大きな変化は見られませんでした。
マイクロチップ装着に賛成し、有用性を理解しつつも、愛犬・愛猫への装着はまだ二の足を踏んでいることがわかりました。
「努力義務」という自らの装着に消極的な飼い主の背中を押すためには、さらなる啓蒙活動と共に、飼い主のニーズに合ったマイクロチップの開発が不可欠だと考えます。

■小型で情報量が多いマイクロチップも登場
例えば、精密設備メーカーのNITTOKUが製造した「スマートチップⅡ」は、「サイズは小さく(約1.5ミリ×8ミリ)、情報は多く」をコンセプトにしたマイクロチップです。
15ケタの個体識別番号だけでなく、種別、性別、名前、ワクチン種類、予防接種日、連絡電話番号先などをチップが記憶します。
世界最高度の生体内強度を持ち、安全を担保。
また、3段階のセキュリティ保護により、他者によるデータ改ざんを防止します。
チップが記憶した情報を読み取るには、ハンディターミナルという専用のリーダーが必要(個体識別番号は他のリーダーでも読み取り可能)で、動物愛護センターや動物愛護団体への寄贈を進めているそうです。
NITTOKUの担当者は、「マイクロチップを小型化したのは、少しでもペットの負担を少なくしたかったから。注射針は国内で最も細く、先端形状も痛みが少なく、傷口が小さくて治りも早いバックカットタイプ(V字加工)にしている」と話します。
従来の「針が太くて痛そう」というデメリットを解消したものです。
また記憶する情報量を多くしたのは、「すぐにワクチン接種日や連絡先がわかることで、大規模災害時の同行避難受付などを迅速に行い、避難受け入れ側も飼い主もペットもストレスが軽減できると考えた」とのこと。
現在、動物病院への販売促進が進められています。
今後はこのような飼い主とペットに寄り添う企業努力が、マイクロチップの普及に一役買うことになるのではないでしょうか。
マイクロチップ装着の義務化には、社会問題でもある「飼育放棄や遺棄などを未然に防ぐ」という目的もあります。
しかしながら、施行以前に犬猫等販売業者がすでに所有している犬や猫への装着は努力義務です。
そのまま装着することなく、繁殖引退後などに遺棄される可能性も否めません。
一般の飼い主が飼う犬や猫への装着も努力義務であるため、飼育放棄や遺棄が減るとは考えにくいのです。
海外においては、犬の体内からマイクロチップを取り出して遺棄した事例もあり、装着がさらに犬や猫を苦しめるのではとの指摘もあります。
それらに対する行政の「監視の目」もアップデートされることを期待します。
筆者は「マイクロチップは飼い主と犬や猫を繋ぐ大切なデータシステム」だと捉えています。
この義務化をきっかけにマイクロチップの正しい情報が多くの人に伝わり、そこに企業努力が加わり、知識や捉え方が進展していけば、根強い抵抗感や不安も払拭されていくと考えます。
これが普及し、効力を発揮するまでには、まだ多くの時間が必要です。
まずは、飼い主の努力義務として「マイクロチップを正しく知る」こと、そして「マイクロチップの装着について真剣に考えてみる」ことが大切でしょう。
もしものときに愛犬・愛猫と離れ離れにならないように、家族としてできることを考えてみる、良い機会かもしれません。 

阪根 美果 :ペットジャーナリスト

【関連記事】
今ペットを飼って「後悔する人」「しない人」の差
「36回ローンで購入された猫」の悲しすぎる結末
本当に「保護犬・猫」?ペット業界の知られざる裏側
避難民の飼い犬「狂犬病予防法の特例措置」のなぜ
ペットショップで懸命に生きる子猫の切実な叫び


Viewing all articles
Browse latest Browse all 3575

Trending Articles