ウクライナ政府から勲章を授与された“英雄”犬 危険地帯で数多くの命を救う
2022年5月9日(月)
一頭のかわいい犬がいま、戦争で疲弊するウクライナ人に癒やしを与えるだけでなく、たくさんの命を救ってもいる。
その犬の名前は、パトロン。
ウクライナ語で「銃のカートリッジ」を意味する。
この2歳半のジャックラッセルテリアに与えられた「任務」は、ウクライナ北部でロシア軍があちこちに残置した地雷や不発弾を探知することだ。
嗅覚の鋭い犬は、地雷などに含まれる爆薬のにおいを嗅ぎ分けられるため、これまでもアフガニスタン、カンボジア、コロンビアなどで、訓練を受けた犬が地雷探知の任務を担ってきた。
独「シュピーゲル」誌によると、パトロンは人間が知らずに触れたら爆発して命を落としてしまうような爆発物をこれまで100個以上発見してきたという。
地雷探知犬パトロン Photo: STR / NurPhoto via Getty Images
ウクライナのヒーロー
ロシアによる侵攻が開始した直後から活躍ぶりが注目されたパトロンは、瞬時にウクライナの人々の英雄となった。
その任務の様子を紹介するインスタグラムのアカウントには20万以上のフォロワーがいる。
また、SNS上には絵やマンガ、さらにはぬいぐるみなどの「ファンアート」が数多く投稿されているという。
パトロンの人気はウクライナ国外にも広まっている。
アメリカやイギリスの複数のメディアでとりあげられたほか、英語版ウィキペディアのページも作られている。
そんなパトロンは5月8日、ウクライナ政府から正式に表彰された。
ゼレンスキー大統領とカナダのトルドー首相の合同記者会見の場に招かれたパトロンは、その「無私の奉仕」を讃えられ、勇敢勲章勲三等を授与されたのだ。
ゼレンスキーに勲章を見せられると、パトロンはうれしそうに尻尾を振って吠える。
つかの間の微笑ましいひとときに、ゼレンスキーとトルドーも和やかな表情を見せていた。
地雷の危険は長く続く
だが、地雷探知犬の活躍に微笑んでばかりはいられない。
地雷探知犬が必要なほど、ウクライナは危険な状態ということだ。
ロシア軍はウクライナ北部から撤退する際、地雷を人口の密集地周辺に無差別に設置した。
過去の紛争で地雷が使用されたアフガニスタンやカンボジアなどの国と同じように、戦闘が終わって長い期間が経過しても、住民が地雷の被害を受け、復興の妨げになるおそれがある。
人間を殺傷することが目的の対人地雷は、民間人に対する被害が特に問題視され、オタワ条約で禁止されたが、ロシアはその締約国ではない。
米「ワシントン・ポスト」などの報道によると、実際にウクライナでロシア軍が対人地雷を使用したり、対戦車地雷を対人用に改造したりした証拠が存在するという。
ゼレンスキー大統領は、パトロンへの勲章授与の後、子どもたちに地雷の危険を教えて被害に遭わないようにすることが「いま最も急を要する課題だ」と述べた。
パトロンの活躍を称賛しつつも、パトロンに頼らなくても安心して外を歩ける日が来ることを、ウクライナの人々は願っている。
爆発物探知犬、チェルニヒウで活躍 ウクライナ侵攻 - YouTube
COURRiER Japon