河川敷で餌、保護の野犬140匹 譲渡進まず殺処分も、愛護センターの苦悩
2022年3月14日(月) 京都新聞
京都動物愛護センター(京都市南区)が、保護した野犬の譲渡先探しに苦心している。
警戒心が強いために飼育には配慮が必要なことに加え、野犬に対し偏見を持つ人が多いためだ。
センターは飼育に関するサポートを強化しているが、スムーズに譲渡へつながらないのが現状だ。
京都動物愛護センターで収容している野犬。警戒心が強く、部屋の奥でじっとしている犬が多い(京都市南区)
市内の桂川河川敷では、人の餌やりが原因で野犬が繁殖している。
行政が捕獲し、同センターに収容された桂川の野犬は2017年~21年9月に計140匹。
うち70匹は攻撃性が強いなどと判断されて殺処分となり、収容中に死んだ例などを除き、譲渡に結び付いたのは47匹にとどまった。
人に飼われたことのある犬に比べ、野犬の譲渡希望者は少ない。
2月末時点で収容中の27匹のうち、19匹は野犬だ。
希望者は若い犬や小型犬を望む傾向があり、伊東大輔所長は「まずマッチングする方がなかなか見つからない」と悩む。
また、警戒心が強い野犬は、同じ場所から動かなかったり、散歩や人との触れあいを望まなかったりする。
飼い主にはむやみに犬との距離をつめないことや、専用の飼育スペースを用意するといった配慮が必要になる。
河川敷で保護された野犬
伊東所長は「通常のペット犬の生活とはどうしてもギャップがある。『野犬でもいい』という希望者でも、詳しく説明をすると断念するケースが多い」。
結果、野犬の収容は長期化しやすく、噛みつきや遠ぼえをしない犬でも引き取り先が何年も決まらないこともあるという。
譲渡希望者の不安を解消しようと、センターは希望者へのサポートを積極的に進めてきた。
トレーナーと協力して餌のやり方や接し方を説明し、家の見取り図をもとに飼育スペースの適切な場所を助言している。
伊東所長は「犬との暮らしをしっかりと考えてもらうためにも、丁寧な説明は欠かせない。
譲渡後も体調の変化などがあれば相談に応じている。選択肢として、野犬の受け入れを考えてもらいたい」と話す。
譲渡先の決まった野犬はその後、飼い主のもとでどのように過ごしているのか。
飼い主の一人、中川昌彦さん(63)=京都市西京区=を訪ねた。
柵で囲まれ、天井を半分ほどタオルで覆った飼育スペース(サークル)の奥に「いなり」(雄、1歳半)はいた。
「おやつだよ」。
長女はづきさん(31)がチーズを差し出すと、そろりと立ち上がった。
食べ終えると、体をすり寄せ始めた。
いなりは2020年11月に桂川で保護され、翌年3月、京都動物愛護センターから譲渡された。
センターから「一生サークルから出ないかもしれない。散歩にも行けないかもしれない」と念を押されたが、受け入れた。
当初、いなりは日中、柵の中で全く動かなかった。
トレーナーの助言でドッグフードを手で与えたが、1食に30分以上かかった。
妻の容子さん(59)は「引き取ることが、いなりにとって本当に幸せなのか。不安はあった」と振り返る。
半年ほどたって、次第に変化が表れ始めた。
サークルの外に出て歩くようになり、はづきさんを見ると尻尾を振って近づくようにもなった。
昌彦さんは「ささいなことでも喜びを感じる場面は多い」。
中川さん一家では「いなりのペースに合わせる」ことを心掛け、必要以上に距離を詰めないよう注意している。
「気持ちを考えながら接して信頼関係を築くことは、他の犬と変わらない」と昌彦さん。
「桂川の野犬も人間に捨てられたのが原因。人には最後まで飼う責任があり、引き取りがより広まってほしい」と願う。
中川さん一家に引き取られた「いなり」。当初は警戒心が強かったが、今では長女のはづきさんに近づくようになった(京都市西京区)