「猫の日」に考える…なぜ「多頭飼育崩壊」は全国で後を絶たないのか?
目立つ高齢、単身世帯の飼い主7割が「近隣住民とトラブル」
2022年2月22日(火) 南日本新聞
鹿児島県志布志市の民家の一室に昨秋、猫が入った捕獲器がずらりと並んでいた。
住人男性が餌を与えていた猫たちが不妊・去勢手術を待っていた。
「半年の間に一気に増えて困っていた」と胸をなで下ろす男性。この日、50匹近くが手術を受けた。
1月下旬、薩摩半島の住宅地にもたくさんの猫がいた。
猫の侵入を防ぐため緑のネットで駐車場や庭を覆う家も。
住民によると、これらの猫はある1軒の家で飼われている。
よく世話をしていた女性が数年前に死亡。
同居していた高齢男性が屋外で餌を与えるようになり、急に増え始めた。
近所の女性は猫が側溝で死んでいたり、車にひかれたりするのを見聞きした。
「猫に罪はない。トラブルが怖くて男性には何も言えない」と頭を抱える。
別の住民の説得で昨夏までに20匹以上手術したが、餌の放置による悪臭など問題は続く。
捕獲器の中で不妊・去勢手術を待つ猫たち。安心できるよう親子同士は近くに置かれている=2021年11月、志布志市
■強い繁殖力
猫の繁殖力は強い。
栄養状態がよければ年3回ほど、一度に平均2~6匹を産むとされる。
環境省によると、雌猫1匹がいれば1年で20匹、2年で80匹以上に増える計算だ。
その結果、繁殖しすぎて世話ができなくなる「多頭飼育崩壊」が全国で後を絶たない。
環境省が都道府県や政令市などを対象としたアンケート(2019年10月)によると、多頭飼育者は60代以上が56.1%と過半数を占め、単身世帯が45.7%で最多だった。
「近隣住民との間でトラブル・苦情が発生している」としたのは71.4%に上った。
多頭飼育崩壊などをきっかけに引き取られて殺処分された猫は20年度、全国で約1万9000匹。
うち6割超の約1万3000匹が離乳前の子猫だ。
■分かりづらい実態
霧島市の無職の60代男性は、3年前から家に居着いた野良猫を飼い始め、約1年間で12匹に増えた。
生活に余裕がなく、1匹数万円の不妊・去勢手術費用を払えそうになかった。
親戚に相談し、ボランティアで支援活動に当たる動物愛護団体や獣医師の協力を得て、ようやく手術にこぎつけた。
「(多頭飼育)崩壊してしまう人の気持ちが分かった。自分にもその可能性があった」。
保健所などに相談しても解決できず、どこを頼っていいのか分からなかったと振り返り、「支援団体につないでくれる仕組みがあると助かる」と語った。
「予想を超えるペース」。
鹿児島市の獣医師浜崎菜央さん(44)はここ数年、鹿児島県内で多頭飼育崩壊の状態に陥る飼い主が増えていると実感している。
約10年前は年間に数件程度だった相談が、現在は月数件に。
高齢者の孤立世帯が目立ち、帰省した身内や民生委員らによって発覚するケースが多いという。
「県内では屋内外を行き来させて飼う例も多く、多頭飼育崩壊が分かりづらい実態もある」と指摘する。
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人間の勝手な都合で捨てられた野良猫や、増えすぎる飼い猫を巡るトラブルが鹿児島県内で後を絶たない。
2月22日は猫の鳴き声にちなむ「猫の日」、2月は県が定める「猫の適正飼養推進月間」でもある。
人と猫が共生するためには何が必要か。
県内の現状や、鹿児島市の地域猫活動をはじめ各地の取り組みを探る。