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世界遺産・奄美大島の「猫3000匹殺処分計画」はなぜ止まらないのか

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人間の傲慢さの極地…
世界遺産・奄美大島の「猫3000匹殺処分計画」はなぜ止まらないのか

2022年2月23日(水)  PRESIDENT Online

日本では年間2万匹を超える犬や猫が殺処分されている。
この殺処分を減らすため、全国で「不妊去勢手術」の活動が広がっている。
しかし、この動きに逆行する、殺処分ありきの猫捕獲計画が、世界自然遺産に登録された奄美大島で今も続いている――。
(第3回)


ノネコの譲渡認定人の服部由佳さん - 撮影=笹井恵里子

■10年間で4億円超を投入も、科学的根拠が弱い
環境省は2018年7月、鹿児島県・奄美大島で野生化した猫(=ノネコ)を年間300匹捕獲する目標を掲げて「ノネコ管理計画」をスタートさせた。
計画は2027年度までの10年間行われる。
つまり10年で3000匹の猫を捕獲するということだ。
捕獲された猫は、奄美大島にある「奄美ノネコセンター」に収容され、飼い主を募り、1週間で引き取り手がいなければ「安楽死(殺処分)」が認められている。
私は現地や計画にまつわる関係者に取材を進め、『週刊文春』で2019年、「奄美大島「世界遺産」ほしさに猫3千匹殺処分計画」(2019年4月18日号)と題した記事を発表した。
その後も「文春オンライン」で「世界遺産のために猫を殺すのか」などを執筆した。
「猫の命を守る」という視点からのみ記事を出してきたのではない。
2019年度の予算案をベースにすると、ノネコ管理計画の遂行には10年間で4億円を超える多額の税金が投入されることになり、その計画を実行するだけの科学的根拠が弱いと考えられたため、取材執筆を進めた。
そして今回は、やはりこのノネコ管理計画そのものの存在意義、また計画がスタートして3年半経過した今も、遂行の仕方が当初と変わらず強引である点を疑問に思い、記事を書いている。


奄美ノネコセンターへの看板

■アマミノクロウサギは減るどころか、増えている
計画の概要と、これまで私が執筆した記事の内容について大まかに説明する。
環境省は「ノネコ管理計画」をスタートさせた理由として、「近年、ノネコが国内希少野生動物種であるケナガネズミ、アマミノトゲネズミ、アマミノクロウサギなどを捕食していることが自動撮影カメラや糞分析により確認されるなど、生態系への被害が明らかになっているため」と応えている。
たしかにアマミノクロウサギは環境省レッドリストに絶滅危惧種として記載され、奄美大島と徳之島にしか生息しない国内希少の野生動物だ。
だが、環境省が発表したアマミノクロウサギの死因調査をみると、犬や猫に捕食されたと断定されたものはわずか一割で、原因が判明している死因では交通事故が最多となっている。
しかもアマミノクロウサギの数は減るどころか、実際には近年、増えていた。
私もたった一晩、森に出かけただけで目にすることができた。
3年前、「アマミノクロウサギが増えているのに、猫を捕獲する必要があるのか?」という私の問い対し、環境省は「アマミノクロウサギがノネコに捕食されているのは間違いありません。危険があれば科学的な根拠が不十分でも、早めに対策をするというのが保全生物学の鉄則です」と回答した。

■「増えていようが減っていようが、マイナスになる」
さらにこうも言っていた。
「世界遺産の価値というのは、顕著で普遍的な価値といわれる。その一つにアマミノクロウサギをはじめとするこの地域にしか棲んでいない生き物というのがある。その数が増えていようが減っていようが、個体が食べられている。それ自体が世界自然遺産登録にマイナスになると我々は感じています」
この言葉だけでもわかるように、「ノネコ管理計画」の遂行は、「世界自然遺産登録」と深く関与していたのだ。
私は犬猫を飼育した経験がないのでなじみがなかったが、世界ではノネコのような外来種(もともとその地域にいなかったが、人の活動によって他の地域から入ってきた生物)は100%排除・駆除する考え方が主流だ。
実際にユネスコの諮問機関の役割を持つ国際自然保護連合(IUCN)が作成した「世界の侵略的外来種ワースト100」にノネコは選ばれている。

■最大の問題は「ノネコが捕まらない」
ここで疑問をもつ人もいるかもしれない。
昨年、奄美大島は世界自然遺産登録が決定したのに、いまだにこの計画は続いているからだ。
ノネコ管理計画の策定に関わったある専門家は、奄美大島が世界自然遺産に登録される前にこのように述べていた。
「(奄美大島が世界自然遺産に登録されたら)数年後にIUCNの監査が入りますから。その時に猫をどれくらいコントロールできているか、それ以外の外来種のリスクは発生していないかが重要です」
要するに世界自然遺産の資格を剥奪されないためにも、また予算を集めるためにも、この計画をこれまで通り遂行していく必要があるということなのだろう。
だが、冒頭から述べている通り、ノネコ管理計画は科学的根拠が弱い。
その決定的ともいえる根拠は、「ノネコが捕まらない」ことだ。

■年間300匹の捕獲数を見込んでスタートしたが…
これまでの捕獲数は、以下の通りだ。
---------- 2018年(7月~)43匹 2019年 125匹 2020年 27匹 2021年 97匹 2022年1月(1カ月) 7匹 ----------
計画書には「森林内においてノネコの目撃頻度が増加」し、「早急にノネコを生態系から排除する対策がある」と記され、年間300匹の捕獲数を見込んでスタートした10年計画であったのに、実際にはこの程度しか捕まらない。
しかも、2021年に捕獲された97匹中、26匹の猫は「さくらねこ」だった。
「さくらねこ」とは前回記事に書いた通り、不妊去勢手術を行った目印として耳先をさくらの花びらのようにV字カットされた猫だ。
つまり、さくらねこには生殖機能がない。
一代限りの命であるにも関わらず、捕獲されているのだ。
もちろん、その一代限りの命の猫が「アマミノクロウサギをどんどん捕食している」というのであれば問題だ。
まるでそうであるかのように、ノネコ管理計画書には<ノネコ一頭が一日に摂取している餌の量の平均は378グラムと見積もられ、この量はケナガネズミとアマミノクロウサギでは1頭ずつ、必要になる>という論文が引用されている。

■森にノネコがいないから街の野良猫を捕まえている?
しかし、これまで奄美大島からノネコを引き取ってきた獣医師の齊藤朋子氏は「体重4キロの成猫でキャットフードなら1日約90グラム前後が標準量」と述べている。
また個人的感想になるが、アマミノクロウサギを間近で見ると、それなりの大きさがある。
これを猫がつかまえ、闘いに勝利して頻繁に食するようにはどうしても思えない。
言葉は悪いが、せいぜい交通事故によって道路に死んでいるアマミノクロウサギを捕食する程度ではないだろうか。
そもそも本来は自然豊かな森を守るため、森の奥に生息する“野生の猫(ノネコ)”を排除するための計画だったはず。
捕獲される猫に、さくら耳カットが増えているというのは、「森にノネコがいないから街の野良猫を捕まえている」と疑われても仕方がない。
それが違うというなら、環境省は機密事項としている「ノネコの捕獲場所」を明らかにするべきだろう。
そして冒頭に書いたノネコの収容施設「奄美ノネコセンター」では50匹が収容上限にもかかわらず、譲渡可能期間(殺処分へのカウントダウン)は、たった1週間しか設けられていない。
例えば今日猫が収容されたとしたら、1週間後の今日は殺処分してもいいとされるのがノネコ管理計画だ。
せめて収容施設が半分程度埋まる25匹までは「殺処分を待つ」というのがなぜできないのだろうか。

■「ノネコを生かそうという気持ちがゼロです」
「とにかく1週間の期限なんて短すぎる」  と、前出の齊藤氏も憤る。
齊藤氏はノネコ管理計画がスタートした当初から譲渡認定人(奄美大島で猫を引き受ける資格を得た人)として、捕獲された奄美のノネコを保護する活動を継続している。
「どの譲渡認定人も皆、家庭や仕事を抱えている。どうやっても1週間以内に陸のつながっていない奄美大島にノネコを迎えに行けるわけがないでしょう。1週間の期限がきて誰も引き取らなければ安楽殺処分費用が約3万円が支払われて殺処分されるのに対し、引き取りたいと手を挙げた人がいたら、(譲渡可能期間を超えた1週間後から)1日330円の飼育費代が発生します」
チリも積もればで、その飼育費代が1カ月数千円におよぶことがあるという。
「ノネコを生かそうという気持ちがゼロです」と、齊藤氏(※)。
※「ノネコ管理計画」の詳細については、獣医師の齊藤朋子さんのインタビュー動画を筆者のYouTubeチャンネルに掲載している。

■それでも奄美大島で一度も殺処分が行われていないワケ
同じく譲渡認定人の服部由佳氏は、もともと保健所の猫の里親ボランティアをしていた。
その延長で奄美大島の猫を殺処分から守りたい、しかし個人で多くの猫を引き取ることには限界があると考え、およそ2年前に譲渡型猫カフェ「ケット・シー」を神奈川県横浜市に立ち上げた。
クラウド・ファンディングを通して500人以上の支持を得て、さらに自らも500万円の借金を背負っての開業である。
現在は奄美大島で猫が捕獲されると、齊藤氏、服部氏らが中心となって引き取りの手を挙げ、ボランティアが協力して奄美大島から羽田空港へ、そして検査や不妊去勢手術を行い、ボランティア宅での待機期間を経て、ケット・シーに“デビュー”し、「里親との出会い」を待つ(※)。
※譲渡型の猫カフェ「ケット・シー」の様子は、筆者のYouTubeチャンネルでも紹介している。
こういった努力があったから、奄美大島の猫はこれまで一度も殺処分が行われていない。
「『奄美大島で殺処分は行われていません』という言葉を見聞きするたびに奄美大島でも譲渡認定人を増やす努力をしてほしい、と思います」
服部氏は何度もそう訴える。
「奄美大島には捕獲された猫を引き受ける受け皿、獣医師会や動物愛護団体がありません。だからケット・シーを始めました。でも本当は、この近くの地域の猫も救っていきたいんです」


奄美大島で捕獲され、保護猫カフェ「ケット・シー」に移ってきたノネコ

■ノネコ管理計画では「猫をゼロ」しかゴールがない
神奈川県では犬猫殺処分ゼロを継続しているが、そのために収容施設が保護された犬猫であふれているという報道を聞き、服部氏は胸が痛んだという。
たしかに本来はその地域ごとに、その地域の犬や猫を守るのがベストだと私も感じる。
奄美大島では固有の生態系を守るため、環境省が「森から猫を完全に排除する」と決め、ノネコ管理計画を遂行しているが、齊藤氏は「生態系は絶妙なバランスで成り立っているのではないか」と指摘する。
「たしかに猫が増え続ければ、ウサギは少なくなるのかもしれません。でも反対に猫がいなくなればネズミが増えて、ハブも増えていくかもしれません。森には自然があり、そこにしかいない生き物がいる。そこに人間が持ち込んだ猫が棲み付いた。人間がいる以上、“もとの生態系”に戻すことができるのかどうか……。それぞれのバランスがとれた、ちょうどいい“おとしどころ”を探るのが大切だと思うのですが、ノネコ管理計画では“猫をゼロ”にするゴールしかないのです」

■猫を殺すことで「自然を守る」という発想
ノネコ管理計画に関与したある専門家も「90%ではなく100%猫を排除しないといけないのがこの政策のゴール」と息巻く。
「マングースならワイヤーがしまって窒息させる罠があるけれども、猫は動物愛護法の観点から捕殺ができないんですよ。だから生け捕りにして、誰かほしい人がいるかいないか。誰もほしい人がいなければ早く殺したほうがいい。いわゆる外来種という駆除を前提とする動物に対して、動物愛護法の観点があるのは、わが国だけですよ。海外なら野良猫は人の管理下にはないのでハンティング対象ですし、その場で殺処分」
この発言を聞いて、あなたはどう思うだろうか。
生態系を守る、自然を守るという大義名分の下、人が動物を排除することは傲慢で危険な思想だと私は感じる。
2015年、「奄美の明日を考える」シンポジウムで鹿児島県内の小学生がこう発言した。
<大人のみなさんにお願いです。森で捕まえた猫に新しい飼い主が見つかるまで、猫を飼っておける施設を作ってください>
次世代に受け継ぐものは「自然」ではなく、その地域ごとの「共存の道」ではないのだろうか。


奄美大島のノネコ管理計画で捕獲された猫「まめぼっくり」とボランティアの大学生・佐藤七恵さん

---------- 笹井 恵里子(ささい・えりこ) ジャーナリスト 1978年生まれ。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『週刊文春 老けない最強食』(文藝春秋)、『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(光文社新書)など。新著に、プレジデントオンラインでの人気連載「こんな家に住んでいると人は死にます」に加筆した『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)がある。 ----------

ジャーナリスト 笹井 恵里子

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