先日掲載の記事に関連した内容で、獣医師さんによる詳細内容です。
【多頭飼育崩壊】
フンが蓄積された一軒家で柴犬が122匹、高齢の飼い主の悲惨な飼い方とは?
2022年1月25日(火) 石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
猫の多頭飼育崩壊のニュースは過去に何件もありました。
猫は繫殖力の旺盛な動物なので、多頭飼育崩壊は、飼っている猫の不妊去勢手術をしていないと起こりやすいできごとです。
今回は、犬で多頭飼育崩壊を起こしています。
一軒家に柴犬が122匹も発見され、その数の多さに驚きました。
飼い主は高齢で介護が必要だったなどの理由がありますが、それを差し引いても、犬の多頭飼育崩壊は猫より起こりにくいのです。
犬の多頭飼育崩壊はより悪質ではないか、と考えています。
今回の柴犬122匹の柴犬が頭飼育崩壊の異常さを深堀していきましょう。
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)
◆一軒家に一軒家に柴犬が120匹超・・・飼い主に何が?長野・東信地域 ボランティアレスキューの現場へ
この多頭飼育崩壊を詳しく見ていきましょう。
abn長野朝日放送によりますと以下のように報道しています。
「一匹でも犬・ねこを救う会」副代表・横山さん
「もう手に負えない。全国的に知られている大きな団体さんに声かけないと」
その後、住民が引き続き飼育する雌2匹を残し県外の団体が協力してすべての犬の保護を終えました。
2階建ての一軒家から引き取った柴犬は、その数、122匹…。
Q.個人宅で122頭というのは?
横山さん:「全国的にも結構上のランクだと思います」
すべての引き取り作業が終わった先週、飼い主を訪ねました。
飼い主:「ちょっとお待ちくださいね」
高齢の夫婦が2人で暮らしていました。
一体なぜ、ここまで増えてしまったのでしょうか…
夫:「(他のケースの)役に立つようだったらいいよ、(取材は)構わない」
妻:「夫が介護の、介護になっちゃったんです。私が(犬の)面倒見られなくなったんで、それでボランティアの方に引き取ってもらったんです」
夫婦は7~8年前、ここに引っ越してきました。
展覧会などに出す柴犬のブリーダーで、環境のいい土地を選んだのだといいます。
夫:「俺も若い時はお金も欲しかったからさ柴犬、すごく健康で元気でしょ、丈夫だからね柴犬はね、だから柴犬に手を出しちゃった」
まとめると、個人宅(元柴犬のブリーダー)で122匹の柴犬が飼われていました。
家の内部は、劣悪な環境で約30センチのフンが堆積していて、その中に柴犬がいたというのです。
中には目にけがをしている子もいましたが治療はされていないし、下半身麻痺の子犬もいたということです。
この動画は見るに堪えない状況で、よくこんな環境を作り出してそこで飼い主は生活をしていたな、と思います。
排泄物の処理を怠り、柴犬のネグレクト状態です。
飼い主は高齢で介護が必要になったから、犬の世話を怠ったことは仕方がない、ではすまされません。
そのしわ寄せが、すべて柴犬や近隣住民にいっています。
122匹の柴犬の多頭飼育崩壊は、なにが問題かを見てきましょう。
◆「劣悪な環境で122匹」はなにが問題なの?
(写真:アフロ)
多頭飼育崩壊が起こると飼い主の問題だけでは済まされないので、以下のような複合的な問題を孕みます。
■動物の状態の悪化
フンが約30センチも蓄積された環境で柴犬を飼っていると、衛生状態の悪化は、飼い主のみならず、動物の健康にも関係してきます。
このようなネグレクト状態は、動物愛護管理法などに該当します。
つまり100匹以上の柴犬を適切な環境で飼育していないのは、動物愛護管理法違反の疑いになるのです。
叩いたりするだけが虐待の定義ではなく、ネグレクトなども虐待に当たります。
そのうえ、密室で柴犬が増えているので、近親交配による先天的な異常のある動物が生まれるリスクの増大も出てきます。
映像のなかで、下半身麻痺の子が出ていますが、ひょっとしたら先天的な異常かもしれません。
今回のケースにはありませんでしたが、犬や猫の数が増えて十分なフードが与えられていないと場合は、飢餓状態に陥った動物による共食いを引き起こすこともあります(他の多頭飼育崩壊のところでは骨が見つかっています)。
■周囲の生活環境の悪化
多頭飼育崩壊は、飼い主の家だけではなく近隣の住民にも被害を及ぼします。それは以下です。
・悪臭
・犬の鳴き声による騒音
・ゴキブリやハエなどの害虫が大量に発生する
・ネズミが大量に発生する
・動物が逃げ出し周辺家屋への侵入や、咬傷事故が発生する
近隣の家が多頭飼育崩壊を起こすと、感染症が広がる可能性もあるのです。
■飼い主の生活環境の悪化
多頭飼育崩壊になると、動物のフン尿や食べ残しのエサなどの清掃や処理ができない環境になり、飼い主もそこで生活することになります。
そのため、生活環境の汚染のほか、悪臭やゴキブリやハエが多量に発生し、そのうえネズミなどの発生にもつながり、飼い主の生活環境における適正な衛生状態を保つことが難しくなります。
飼い主は、感染症などの病気にかかりやすくなります。
この家は、夫の介護が必要だったのですが、ヘルパーさんなどを依頼しにくい状態だったと推測されます。
◆猫の多頭飼育崩壊より、犬のほうがより悪質では?
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)
猫の多頭飼育崩壊は、ちょっと不妊去勢手術を怠るとだれでもこの状態に陥ってしまう可能性があります。
しかし、犬は、そんなに簡単に多頭飼育崩壊にはなりにくいのです。
それの理由を見ていきましょう。
■猫と犬の発情兆候の差
同じペットですが、猫と犬は発情兆候が大きく違うのです。それを見ていきましょう。
【猫の発情兆候】
早い場合は生後4カ月ぐらいから始まります。
よく鳴きます。
鳴き声は赤ちゃんが泣いているような声です。
発情前は、ツンデレだった猫が飼い主にベタベタと寄ってきたり、外に出たがったりしません。
犬のように、膣から血液のような分泌物が出るようなことがありません。
そのため、よく行動を観察していないとわかりにくいです。
【犬の発情兆候】
生後6カ月ぐらいからあります。
発情期が来ると膣が膨らんで、血液成分を伴った分泌物が出て、床や寝床が汚れたりするので、普通の飼い主ならわかります(まれに、分泌物が少ない子や犬自身できれいに舐めてしまう子もいます)。
つまり、犬の発情は、見た目でわかりやすいのです。
■猫と犬の発情周期
猫と犬は発情周期が異なるので、その辺りもしっかり見ていきましょう。
【猫の発情周期】
猫の発情は、犬のように年約2回と決まっておらず日照時間が発情周期をコントロールしています。
日照時間が長くなると発情が来るわけです。
しかし、いまは、室内飼いの子が多いので、屋内の電気でも発情が来るため、1年中、発情期の子もいます。
【犬の発情周期】
犬は、約半年ごとに発情が来ます。
猫のように、日照時間には関係がないです。
たとえば、1月に発情が来た子は、その半年後の7月にやってきます。
上述していますが、発情兆候も人間が見てわかりますし、このように半年ごとになっているので、犬の発情周期はわかりやすいのです。
■交配時間
交配時間も猫と犬では大きく異なります。
【猫の交配時間】
猫の交配時間は、たいへん短く1回は数秒で終わります。
雄猫が、雌猫の首を噛んで乗ります。
それだけなので、喧嘩やじゃれ合っているだけなのかわかりにくいです。
【犬の交配時間】
猫に比べて犬の交配時間は長いです。
短くても約15分で長い場合は、1時間のときもあります。
始めは雄犬が雌犬の上に乗りますが、やがてお互いのお尻を引っ付けます。
つまりお尻がつながっていて、雄犬と雌犬は、反対の方向を向いているような奇妙な形になります。
猫のように、雄猫が雌猫の上に一瞬、飛び乗っただけでは妊娠しないのです。
つまり、柴犬の飼い主は、これだけの数まで柴犬が増えているので、何回も交配しているのを見ていることになるのですが、その時点でネグレクト状態だったのでしょうか。
つまり犬は、仮に不妊去勢手術をしていなくても発情期が飼い主にはわかる(猫はわかりにくい)ので、隔離をしておくと妊娠することはないのです。
◆多頭飼育崩壊で保護された犬や猫の闇
ネグレクトの飼い主から保護された犬や猫は、それで一件落着ではないのです。
保護された犬や猫は、長い間、人間と暮らすのが難しい状態が続いている子が多いので、新しく里親になった人は、以下のことをする必要があります。
・不健康な状態に置かれた犬や猫の心のケアが必要
・社会性をつける必要
・人に慣れていないため、噛んだり猫の場合は爪を出したりしますので、里親の生活が破綻しないように、きめ細かく、気長に面倒を見る必要
◆多頭飼育崩壊を防ぐためにあなたのできること
(写真:アフロ)
近隣に多頭飼育をしている人がいる場合は、よく観察することです。
自分が飼っていなくても、多頭飼育崩壊し始めると、悪臭や鳴き声がします。
多頭飼崩壊の兆候を感じたら、行政に何度も連絡して、多頭飼育崩壊しないようにしましょう。
そのような意識を持って暮すことは、動物の命を救うこと、そして自分の環境を守ることになるのです。
みんなで多頭飼育崩壊の問題点の知識を共有して、見守ることは大切です。
石井万寿美
まねき猫ホスピタル院長 獣医師
大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は栄養療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医師さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らす。
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