冬毛でもふもふ北海道のキタキツネ、愛らしさの一方で“餌付け”が問題に
「可愛いからこそ“おねだりギツネ”に何もあげないで」
2022年1月28日(金) ORICON NEWS
SNSでも数多く写真が投稿され、広く愛される北海道の野生動物たち。
なかでもキタキツネは、北海道を代表する人気者として昔から知られている。
愛知県から名古屋に移住したというフォトグラファー・平井葉月さん(@hazuki.h.photography)も、キタキツネに魅了された一人だ。
たくましく可愛らしいキタキツネだが、その人気ゆえに観光客からの“餌付け”が問題になっているという。
平井さんが見た、“おねだりギツネ”が及ぼす影響、観光客に伝えたいこととは?
冬毛でもふもふのキタキツネ(平井葉月さんInstagram@hazuki.h.photographyより)
■キタキツネに魅了され、愛知県から北海道に移住したフォトグラファー
平井さんは、もともと愛知県を中心に風景写真の撮影に熱中。
あるとき訪れた北海道の絶景、野生動物たちに魅了され、2018年に上富良野町に移住したという。
現在は、薬剤師としてフルタイムで働きながら、撮影に勤しんでいる。
彼女がInstagramなどに投稿する野生動物たちの写真は生き生きと可愛らしく、多くの反響を集めている。
―平井さんが北海道に移住するきっかけともなった、最初に撮影した野生動物がキタキツネだったそうですね。
「はい。冬毛のキタキツネでした。季節によって夏毛と冬毛に衣替えするのですが、冬毛になると毛皮がもふもふですごく可愛いんです。移住前の真冬に訪れた北海道の東の果て、野付半島という野生動物が多く観察できる場所で、もふもふのキタキツネが3匹戯れあっている場面に遭遇したのですが、その姿があまりにも愛らしく、そこで夢中になった気がします。それから4年ほど経ちますが、いまだにあの時のキツネたちが忘れられません」
――Instagramにもありましたが、本当に可愛らしいですね。
「私はもふもふ冬毛のキタキツネと同じくらい、キタキツネの赤ちゃんが大好きで。子育てを始める春頃から子ギツネばかり探して撮影しています。小さい頃のキタキツネは子犬にそっくりで、間違えて拾ってくる人がいるほど愛らしい見た目をしています。そんな子ギツネのあどけない表情と、いろんな経験をして大人のキツネに成長していく過程がすごく好きなんです。特に、無防備にあくびをしてくれたりするともう…可愛くてたまらないですね」
■孤高で警戒心強いキタキツネ、撮影時は「彼らが存在を許してくれるまで風景の一部に」
冬毛でもふもふのキタキツネ(平井葉月さんInstagram@hazuki.h.photographyより)
――どんな生態なんでしょうか?
「彼らは群れを作らず単独で行動し、雪の中に頭からダイブしてネズミを捕り、真っ白な雪原のど真ん中で丸くなってお昼寝をしています。そんな自由で一匹狼のキタキツネですが、子育ての時期だけは巣を持ち家族で行動します。普段は孤高なキタキツネが家族を持ち、愛情いっぱいに戯れる姿が大好きなんです」
――知れば知るほど、愛が湧いてくるようですね!撮影する際はなにか大変なことはありますか?
「キタキツネは警戒心が強いため、出会ってすぐに逃げられることばかり。出会いは多いのに写真を撮るのは難しい、それがキタキツネ撮影の大変さであり醍醐味だと思います。キタキツネと出会ったら、彼らが存在を許してくれるまで風景の一部になりきり、キツネが少しリラックスしてきたところで撮影するのがポイントです」
■観光地はキツネの餌場、車に近づく“おねだりギツネ”の悲しい最期
――出会いは多いとのことですが、観光地や街中にもいるんですか?
「観光地に関わらず、山の上から市街地まで全道的に広く生息しています。本州ではよく野良猫を見ますが、それよりちょっと少ないかなくらいの感覚で、移住したときはキツネの多さに驚きました。ただ、人から餌をもらえることが多い観光地は、キツネにとって餌場みたいなもの。その近くに住み着く場合も多いため、観光地に多いという印象になっている気がします」
――野生動物が人から餌をもらう…、あまり良いこととは思えませんが。
「はい。餌付け問題は、とても心が痛いですね。本来警戒心の強いキタキツネが自ら車に近づいて、上目遣いで『何かちょうだい』と運転手に訴える、そんな場面に何度も出くわしています。一度車から食べ物をもらう経験をすると、またもらえるかもしれないと車に近づいてしまうのです。私は“おねだりギツネ“と呼んでいますが、彼らのほとんどは車両にひかれて命を落としてしまいます」
――そんな悲しい結果になってしまうのですね。でも、おねだりされたら餌をあげたくなる気持ちもわかります。
「私は野生動物の専門家でも研究者でもないため、すごく詳しいわけではないですが、人間の食べ物は他の動物にとっては塩分が多すぎたり、消化できない成分だったりします。犬や猫にも人間の食べ物は時に毒となることがありますが、キタキツネにも同じことが言えるということです。キタキツネは本来、ネズミや鳥、昆虫、野菜など食べる雑食ですが、加工品を食べたキタキツネの免疫が低下して、命を落とす場合もあるということを知ってほしいです」
――餌付けを禁止する看板やお知らせなどはあるのでしょうか?
「観光地を管理する団体や地域の取り組みで、看板が設置されているところも多く見かけますが、すべてではありせん。看板もないところだと、食べ物をあげてはいけないことに気づかない場合もあると思うので、今回理由を知ってもらうことで不慮の事故を一件でも減らせたらとても嬉しいです。おねだりギツネの仕草はとても可愛いのですが、可愛いからこそ何もあげない。これを知って、実践してほしいなと思います」
――ゴミの問題も顕著になっているようですね。
「そうですね。ゴミの中に食べ残しや食べ物の匂いが残っていると、それを見つけた動物たちは人間が美味しいものを持っていることを覚えてしまいます。間接的な餌付け行為になってしまう場合もあるので、ゴミを放置しないことも徹底して欲しいです」
■エキノコックスの不安も…「近づいてしまったら必ず手を洗う」
冬毛でもふもふのキタキツネ(平井葉月さんInstagram@hazuki.h.photographyより)
――動物への影響はもちろんですが、キタキツネというとエキノコックス(寄生虫)の心配もあります。近づいて餌付けすることは、観光客自身にも良くないことですよね。
「そうですね。北海道では家庭や学校でエキノコックスの教育が盛んですが、本州にいる間、少なくとも私は北海道に行くまでほとんど知りませんでした。エキノコックスは寄生虫の一種で、キタキツネや野犬が主な宿主となり、糞便を介して人間に感染、長い潜伏期間を経て重い肝機能障害を引き起こします。北海道は魅力的な観光地がたくさんありますが、各地で愛らしい仕草をするキタキツネに出会っても、不用意に近づかず、近づいてしまったら必ず手を洗う。そうして北海道観光を楽しんでほしいと思います。 というのも、キタキツネは警戒心が強いだけでなく好奇心も旺盛で、私自身キタキツネを撮影するとき、石のように固まっているとキツネの方から近寄ってくることがあり、緊張することもあるんです。そういう時は撮影後必ず手を洗うようにしています」
――最後に、名古屋から北海道へ、異なる環境から移住してきたからこそ見えたことは?
「生まれも育ちも名古屋の私が一念発起して移住した北海道で、自然を身近に感じながら生活して3年が経ちました。北海道で当たり前なことが私にはとても新鮮で、日々驚きと発見だらけです。例えば先日、朝に立ち寄ったコンビニの駐車場でダイヤモンドダストが出ていました。そんなことって名古屋では絶対経験できません。特別でない日常が特別になることが多く、毎日が楽しい北海道の生活を、SNSを通じて伝えていけたらと思います。そして、少しでも北海道の魅力を知ってもらい、移住や旅行のきっかけになれたらと思います」