浅田美代子と杉本彩が見た、繁殖のためだけにケージに閉じ込められた犬たち
FRaU編集部
◆コロナ禍のペットブームの背景にあるもの
在宅勤務が増え、増加しているのがペット需要だ。
2020年のペットフード協会の全国の犬猫飼育実態調査によると、2020年に新たにペットと暮らし始めた人は、犬が前年比約14%増、猫が16%増で、犬も猫もともに6万匹以上飼育数が増加したことがわかっている。
コロナ禍はペットを求める人が多いことから、ペットの価格も高騰。
このブームに乗って始める繁殖業者もいるという。
しかしその反面、動物愛護団体には、「購入したけど鳴き声が思った以上にうるさい」「こんなにトイレがくさいと思わなかった」「在宅勤務から通勤に変わったので飼えなくなった」など、身勝手な理由での飼育放棄の依頼も後を絶たないという。
そういった問題と長年向き合い、活動を続ける女優の杉本彩さん。杉本さんが主宰する『公益財団法人動物環境・福祉協会Eva』のYouTube「Evaチャンネル」で、同じく動物愛護活動を続ける女優の浅田美代子さんをゲストに迎え対談を行った。
YouTube「Evaチャンネル」の浅田美代子さんと杉本彩さんの対談(前編)
壮絶な現場を自らの目で見てきたお二人。
だからこそのリアルな現状はとても心に刺さるものがある。
動物たちが一体どのように扱われているのか、ペットショップの動物たちの厳しい現実……。
YouTubeの対談に、解説などを加えてまとめた。
今回は、浅田さんが動物愛護活動を始めた理由と、想像を絶する悪徳繁殖業者の実態についてお伝えする。
※記事では、動物たちの現実を多くの方に知っていただくために、浅田美代子さんから劣悪繁殖業者の現場写真をお借りし掲載しています。
衝撃的な内容も含まれておりますので、ご覧になる際にはご注意ください。
◆女優・浅田美代子が動物愛護を始めた理由
「今から12年前、生まれて初めて保護犬を飼いました。千葉県の動物愛護センターで殺処分寸前になっていた犬を引き取ってきたのです。アヴィと名付けたその子は推定年齢5、6歳のメスで、歯が折れているなど、体に虐待された形跡がありました」
女優の浅田美代子さんは近年、熱心な動物愛護活動家としても知られている。
浅田さんを動物愛護活動に導き、その原動力になっているのが、このアヴィさんとの出会いだったという。
浅田さんを動物愛護に導いたアヴィさん。12年間、浅田さんと過ごし、今年5月に推定17~18歳で旅立った。浅田さんにとってかけがえのない愛犬。写真提供/浅田美代子
「以前、私の母が亡くなったときに、当時、飼っていた2匹の犬たちが何よりも私の心の支えになり、その存在の大きさを痛感したことがありました。そのときの想いから、『私も犬や猫に対して、何かできることをしたい』と、保護犬を引き取ることにしたのです。それがアヴィさんとの出会いでした。
虐待を受けていたせいか、アヴィは最初のうちは近くに人がいるとご飯も食べられないほど警戒心が強かった。それが、少しずつ、少しずつ慣れてきて、うちに来て半年が経つか経たないか、というある日、私が仕事から帰宅した時に、しっぽを振って玄関まで出てきてくれたんです。その姿を見て、ああ、心を開いてくれたんだ! と思ったら涙が止まりませんでした。
この子はあのまま引き取り手もなく動物愛護センターにいたら殺されていたのか、と思うと、いてもたってもいられなくなって……。そこからですね、犬猫の殺処分ゼロを目指す活動に参加して、全国各地で講演をしたりするようになりました」
(浅田さん)
写真提供/テアトル・ド・ポッシュ
浅田美代子さん 女優、歌手。
73年ドラマ『時間ですよ』でデビュー。
国民的人気者に。映画『釣りバカ日誌』シリーズ(94年~09年)、河瀬直美監督『あん』(15年)、『朝が来る』(20年)など多数出演。動物愛護活動にも熱心に取り組んでいる。
◆浅田さんも街頭でビラ配りを。進まない法改正
「動物の愛護及び管理に関する法律」、いわゆる動物愛護法は、5年に一度、見直されるように定められている。
直近では2018年が改正の年だったが、このときの改正に向けて、浅田さんは2017年2月に署名活動をスタートさせた。
2018年の改正の際には、浅田さんは自ら街頭に出て署名活動も行った(2017年12月当時)。写真提供/浅田美代子
浅田さんは「今の法律では動物たちをしっかり守ることができていない。これ以上、不幸な動物を増やさないために、動物虐待の定義をより明らかにして、それに応じた罰則規定を設けてほしい」と訴え、14項目にわたる細かい要望をまとめた。
その中で、たとえば犬猫の繁殖業については「繁殖年齢や繁殖回数の制限」、「ケージなど設備の数値規制」、「繁殖業者の定年制や管理者一人あたりの頭数制限」、「幼齢(生後56日以内)動物の親からの引き離し禁止」などを求めている。
浅田さん自ら街頭に立ち、道行く人たちに呼びかけ、当時そのことはニュースでも報道された。
また、オンラインの署名サイトも立ち上げ、その結果、翌2018年4月までに約20万近くの賛同者が集まり、署名は環境大臣に提出された。
こうして2019年6月に成立した改正動物愛護法(2020年6月1日施行)では、犬猫の繁殖業者などへの規制はかなり強化されることになった。
これは浅田さんをはじめ多くの人の声が届いた結果といっても言い過ぎではない。
女優の杉本彩さんも、当時、声を上げた一人だ。
杉本さんは2014年2月に動物たちの環境や福祉の向上に寄与することを目的に『一般財団法人動物環境・福祉協会Eva』を設立。
ここ数年、二人は動物愛護の活動の場や法改正の議論の場で、アドバイザリーとしてもしょっちゅう顔を合わせている間柄なのだ。
しかし、2019年の改正動物愛護法で、浅田さんや杉本さんらが提示していた改正案がすべて通ったわけではなかった。
さらに環境省令の飼養管理基準においては、悪質な繁殖業者を食い止めるための
(1)犬の繁殖回数は6回まで、(2)犬は繁殖業者1人当たり15頭、猫は25頭までに制限、(3)ケージを適切な広さに定める、といった項目に、経過措置がついてしまった。
これらの項目が早々に施行され適正に運用されない限り、不幸なペットたちは減らないと浅田さんも杉本さんも訴えているのだ。
写真提供/公益財団法人動物環境・福祉協会Eva
杉本彩さん 女優、作家、ダンサー、実業家、リベラータプロデューサー、公益財団法人動物環境・福祉協会Eva理事長。
2014年「一般財団法人動物環境・福祉協会Eva」を設立し、理事長になり、動物愛護活動に力を注ぐ。
『動物たちの悲鳴が聞こえる – 続・それでも命を買いますか?』(ワニブックスPLUS)が話題を集め、今月『動物は「物」ではありません! 杉本彩、動物愛護法“改正"にモノ申す』(法律文化社)を出版されたばかり。
◆繁殖のためだけ、狭いゲージで一生を終える
活動を続けていくうちに、浅田さんは悪質な繁殖業者の存在を知ることになった。
それはペットショップで売られる犬や猫を繁殖させる業者で、優良なブリーダーに対して“悪徳繁殖業者”と呼ばれている人たちだ。
ペットショップの店頭に並ぶ子犬や子猫たちの大半は、ペットオークションを経てやってくる。
ブリーダーが持ち込んだ犬や猫を販売業者が競り落とすのだ。
ただ、そのブリーダーの中には“悪徳繁殖業者”も存在していて、狭いケージで大量飼育するなど、その繁殖環境が以前から大きな問題となっている。
「ボランティア団体の人たちと一緒に悪徳繁殖業者の“繁殖場”を何軒も見に行きましたが、それはもう地獄。 そこにいる雌犬は、子供を産むためだけに存在しているのです。あの子たちは人間から撫でてもらったこともなければ、おやつをもらったこともない。もちろんシャンプーなんてしてもらったこともないまま、ただ繁殖のための道具として扱われ、産むことができなくなったら処分されてしまう。 初めてその実態を知ったときは、とても現実とは思えず、夢なら早く覚めて欲しいと思ったほどでした」と話す浅田さん。
現場で撮影したという写真は目を覆いたくなるほど壮絶だ。
日の当たらない部屋の中、3段、4段と積み重ねられたケージの中でじっと座っている犬たち。
ゴールデンレトリバーが2頭一緒に入れられたケージもあり、その2頭には立ち上がることも、体を伸ばして寝る姿勢をとるスペースも与えられていないため、背骨が曲がってしまっている。
もちろん、彼女たちは散歩に連れ出してもらうようなこともない。
全く掃除されてない糞尿にまみれた狭いケージの中で繁殖だけさせられる犬たち。写真提供/浅田美代子
ドッグフードも糞尿にまみれた状態に。給水機にも苔が生えている。写真提供/浅田美代子
ラブラドールなどの大型犬を立つことができない狭いケージに2頭入れ、背中が曲がっているケースも。写真提供/浅田美代子
また、別の現場の写真では、ケージの中だけでなく、床一面まで毛玉と汚物で埋め尽くされている。
そこに大きな茶色いモップのようなものがあると思ったら、それは毛玉と糞がダマになって覆い尽くしている犬の体だった。
「これ、犬種は何ですか? ちょっと見ただけでは判別できない……」と杉本さん。
こういった現場を何度も体験している杉本さんですら、その姿に絶句する。
劣悪な繁殖業者から保護されたばかりの犬。写真提供/浅田美代子
一切手入れされず、肉球に刺さるまで爪が伸びてしまっているケースも多い。写真提供/浅田美代子
「ペキニーズでした。顔も毛まみれになっているから、掻き分けないと、どこに目や鼻があるのかすぐにはわからない。足を見ると、巻き爪がぐるぐる肉球を取り巻いて、爪が肉球に刺さっているところも何カ所かありました」(浅田さん)
爪を切ったり、毛をカットしたり、トイレの掃除をして糞尿を片付けることは第一種動物取扱業者の義務。
それが、これらの繁殖場では全く放棄されているのだ。
「何の手入れもされていない……これは医療ネグレクトですね。私たちのように動物と一緒に暮らしていると、彼らには本当に人間と変わらない感情があるということをより身近に感じますよね……だから、なおさらこのような状況は許せないという気持ちが強く湧いてきます」(杉本さん)
◆ペットブームが起きると悪徳業者が増える
こういった劣悪な飼育環境に動物レスキューに入ることがある浅田さんは、過去にネズミやよくわからない小さな虫が走り回っていた現場もあったと話す。
不潔な場所に閉じ込められたまま病気になって、お腹に腫瘍ができても放置されていた犬もいたという。
これらの母犬の中にはボランティア団体にレスキューされて治療を受けることができたものもいるが、発見されなければそのまま死んで放置されたり、多くがよくわからない形で処分されているというのが現状だ。
ネズミやよくわからない虫が大量発生していた現場も。写真提供/浅田美代子
「この繁殖業者の人たちは、母犬に対して愛情のカケラもない。商売の道具としか思っていない。こんなところでただ子供を何度も産まされて、そして、そんな辛い状況にいる母親から生まれた子たちがペットショップで何十万円という値段で売られている。これが日本のペットビジネスの現実。残念ながら、日本ではこのようなひどい繁殖場が決して少なくないのが現状です。この状況を許しておくわけにはいかないし、なんとか改善していくためには、きちんとした法律を作って取り締まってもらうことが必要だと思っています。杉本さんもそのためにこれまで散々、法改正のために行政やペット業界と戦ってきているけど、お互いに満足のいくゴールまでは、まだ遠い道のりですね……」(浅田さん)
チワワやプードルなどは光が入ることがない狭いケージに何頭も入れられ繁殖させられていた。彼らはなでられた経験もなく、狭いケージの中で繁殖させられ、一生を終える。写真提供/浅田美代子
そして今、コロナ禍でお家時間が増えたために、触れ合える新たな家族をと、ペットの需要が増えている。
それによって、犬や猫の値段が高騰し続けている。
「自粛生活が続く中でペットがどんどん売れて、オークションでは値段がコロナの前と比べて倍以上になっているようです。あるショップでは、人気のスコテッシュフォールド(猫)が約50万円、トイプードル(犬)は約80万円以上するとか……。 そうやって迎えた大切なペットの後ろに、繁殖場にいるお母さんたちがいることを考えてみたら、どんな気持ちになるでしょうか? そのような現実があることをなんとか伝えていきたいし、ペットショップで売られている子たちはかわいい、のではなくて、かわいそうだと思える世の中にしたいと思って日々、活動をしています。 また、それだけ高いお金を出して飼い始めたのにも関わらず、躾が出来ていない、吠える声がうるさくて驚いた、などの理由で、わずか数ヶ月で安易にペットを捨てる人たちも増えているというのも……驚きです」(浅田さん)
日本の犬や猫をめぐる状況は、まだまだ数多くの問題を抱えている。
そして気がつけば、また新たな法改正の年が近づいてきている。
二人ともさらに精力的に活動を続けていくことになりそうだ。
文/牧野容子
今回のお話の動画はこちらです。合わせてごらんください。
Youtobe(Evaチャンネル)
公益財団法人動物環境・福祉協会Eva
http://www.eva.or.jp
YouTube Evaチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCB-Qxb4_SZE0SOza34rHWdA
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後編【浅田美代子と杉本彩が断言。安易に買う人を止めない限り不幸なペットは増え続ける】