日本で「ニワトリ」はこんな風に殺されている…知られざる現実
2019年12月12日(木) 現代ビジネス
採卵鶏のオスひよこが誕生したその日に殺されることは有名だが、肉用の鶏も同じように生まれたその日に選別され、「規格外」のひよこが日々殺されていることを知っている人は少ないだろう。
弱っていたり、足が多すぎるなどの形状異常であったり、小さすぎたり、炎症があったり、汚れていたりというヒナが「規格外」とされる。
100羽のうち2羽くらいが殺されるため、日本では毎年約1,400万羽が生まれてすぐに殺されている計算だ。
写真:現代ビジネス
日本でよくある殺し方は生きたままの袋詰。
つまり圧死か窒息で長い時間をかけて殺されていく。
外にそのまま出されたり、産廃業者が取りに来るまで冷蔵庫に入れられたりもするので、凍死している可能性もある。
ピヨピヨともがき叫ぶヒナの上にヒナを重ねて入れ続け、徐々に押しつぶされ見えなくなっていく様子はまさに地獄絵図だ。
しかし、これは鶏肉の最初の犠牲にすぎない。
ここで殺されるヒナはラッキーだとすら言える苦しみが生き残ったヒナたちには待っている。
◆自然の姿からかけ離れた鶏たち
選別を生き残ったヒナたちは農場に運ばれ、その農場で40~50日過ごし、屠畜場に"出荷"され屠畜される。
養鶏場は1年間でこのサイクルを6回も繰り返す。
この異常に早いサイクルは、品種改変を繰り返してきたために、本来120日かけて大きくなる鶏が、体だけ40日で大きくなるように作り変えられてきたことによる。
この極度の品種改変が、ヒナたちをひどく苦しめる。
骨格の成熟するスピードよりも早く体重が増加するため、腰や膝の関節が体を支えられなくなる。
足がうまく動かなくなり、歩行困難になり、立ち上がれなくなることは珍しくない。
30%のヒナたちが脛骨(けいこつ)に異常を抱えており、これも立てなくなる原因だ。
歩けなくなったり立ち上がれなくなれば、水にも餌にも届かず、衰弱し、死ぬ。
必死で水を飲もうとしても、給水口に届かないのだ。
生後1ヵ月たつころから、鶏たちはあまり動かなくなってくる。
関節が痛いからだ。
急速な体重増加に心肺機能が追いつかなくなり、腹水がたまり死に至ることもよくあることだ。
心臓に負担がかかり、不整脈で突然死する。
突然死と言ってもすぐに死ねるわけではなく、七転八倒して苦しんで死ぬ。
この突然死が起きる確率は、肉用鶏は採卵鶏の27倍(1)にのぼる。
ブリストル大学名誉教授ジョン・ウェブスターは「ブロイラーが42日間で殺されなかった場合、さらに2週間は生きられないだろう」と述べる。
ギリギリまで鳥たちは作り変えられている。
◆日本はブラジルの1.8倍詰め込む
従業員は1日2回ほど、鶏舎の端から端までの約50~90mを往復し、死体を拾い集めなくてはならない。
あなたはこの写真の密度のヒナの中、死体を探してこいと言われたら、躊躇しないだろうか。
足の踏み場がなく、どうやって前に進んだら良いのか不安に思うのが普通だ。
人が来れば、ヒナたちは怖くて必死で逃げる。
しかしヒナたちは足が悪く、機敏に動けない。
従業員たちは足でヒナを左右に払いのけながら前に進む。
蹴ったり、足を踏んだりすることは避けられない。
どんなに気をつけても、ヒナを傷つけずには前に進めないのだ。
1羽が水を飲もうと思っても、周りのヒナがどいてくれなければ水に到達することができない。
1羽が動けば、周りの十数羽が一緒に動かなくてはならないのだ。
高密度の飼育はヒナの眠りや休息を阻害し、これがさらに骨の異常に拍車をかけるし(2)、ストレスも増していく。
密度が高すぎて死体や立てないヒナは踏み潰されしまう。
鶏は狭いスペースで大丈夫だなんて考えるのは人間の都合の良い思い込みに過ぎない。
世界中が同じ飼育密度ではない。
日本の平均飼育密度はEU規制の1.4~1.7倍、日本が最も多く鶏肉を輸入しているブラジルの平均飼育密度の1.8倍にのぼる。
この記事で掲載する写真はすべて日本だ。
この半分程度の密度だったらどれほどマシか……。
ヒナがまだ小さい20日齢くらいまでは動くスペースもあり、地面もまだそこまではひどくない。
しかし限られたスペースの中、1万羽以上のヒナが急激に大きくなっていくと急激にスペースが無くなっていく。
一度ヒナを入れたら屠畜まで一度も糞尿を取り除くことはない。
サラサラだった地面の砂は、ベトベトになり、粘土状になり、さらにその上に糞尿と抜けた羽が溜まっていく。
新しいおがくずを撒くとヒナたちは嬉しそうにもするし、たまたま乾いた場所があると必死にその少ない砂で砂浴びをしようとする。
体重の異常な重さ、過剰な密度、そして地面の悪さにより、ヒナたちの足の裏と、膝の部分に炎症がおきる。
趾蹠皮膚炎(しせきひふえん)と呼ばれるこの炎症は、擦り傷のようなものではなく、「潰蕩を伴った化膿性皮膚炎(3)」であり、足の裏が真っ黒に焼けただれたようになる。
生まれてからたったの1ヵ月の赤ちゃんの足の裏と膝が真っ黒に焼けただれているのだ。
しかもその傷口は治療されず、糞尿に接し続けるため、悪化していく。細菌に感染することもある。
当然ながら、痛みもある。
疼痛による歩行困難、発熱ストレスでヒナたちは苦しむ。
この皮膚炎はどの程度発生しているのかによって、管理の悪さがわかる。
2011年の調査(3)では農場により大きく異なったが平均では87%のヒナに皮膚炎が認められ、趾蹠周辺にまで炎症が及ぶ重度のものは20%にも及んでいる。
どの認証基準に照らし合わせても、最悪な状態だ。
養鶏場のある元従業員は、「壁際の鶏を見るたびに心に刺さるものがあった、彼ら彼女らはほとんどの時間を壁を見てただただ時が過ぎることに耐えている」という。
なにもやることがないということもまた、ヒナたちを精神的に追い詰める。
本来なら、昼間は走り回り飛び回って、夜お母さんの羽毛の下に潜って眠るという生活をしているべき時期に、養鶏場にいるヒナたちは痛みと異常な体重で動きが鈍り、過密状態の中で、換気扇と給餌器の騒音を聞きながら、壁を見つめ、痛みに耐えながら息をしている。
◆薬剤耐性菌保有率は日本が高い
糞尿が床一面に敷かれた閉鎖された空間の中で1万羽がぎゅうぎゅう詰めで生活する。
病気にならないはずがない。
ヒナたちが短い50日の一生をなんとか生き延びられるのは、複数のワクチンと抗生物質のおかげだ。
詰め込んで、ワクチンと抗生物質を与え、ギリギリ大量死しない程度の環境を用意して、屠畜するという今の鶏肉生産のシステム――弊害はすでに出ている。
鶏肉からの薬剤耐性菌(ESBL産生菌やAmpc産生菌)の検出率が、国産の場合59%、外国産の場合34%であったことが厚生労働省の答弁で明らかになっている。
別の調査でも似たような数値だった。
このことを知ると多くの人が驚き、これまで一体なにを根拠に国産のほうが安全だと思いこんでいたのか首をひねる。
すでに腸内にこの菌を保有しているかもしれず、いつかなにかの病気になったときに、必要な抗生物質が効かないかもしれない。
薬剤耐性菌による死亡者数が、2050年にはガンの死亡者数を超えると予測され、つい先日国立国際医療研究センター病院(東京)などの研究チームは薬剤耐性菌により国内で8,000人が死亡していると発表し、国連も厚生労働省も対策を呼びかけているほどなのだから、そうなる可能性はおおいにある。
また、足が多すぎたり体の一部が欠損したり脳が変形するなどの先天的異常を示す割合が、この10年で急増しているという研究もある(4)。
異常を持つ動物が増えれば疾患も増え、生き残れない鶏の割合も増える。
効率を追求してきた現代の鶏肉生産から離れるべき時が来ている。
少しでも自然な形に戻していかなければ、動物は今よりさらに、そして人も苦しむことになる。
◆ベターチキンの流れ
2019年、一部の国(ベルギー、ドイツ、英国、アイルランド、オランダ、スウェーデン)のケンタッキーフライドチキンが、2026年までに「ベターチキン」に切り替えることを宣言した。
これはヨーロピアンチキンコミットメントと呼ばれるもので、以下のような取り決めをしたものだ。
----------
・今主流の鶏種よりも成長が遅い種類を選ぶ
・飼育密度を緩和させる(30kg/1平方メートル)
・とまり木と、ヒナたちがつついたり遊んだりできる素材を2種類以上与える
・屠畜はガスで行われる 等
----------
北米のバーガーキングやユニリーバなど欧米の企業228社がすでにこのベターな鶏肉に切り替えることを宣言している(2019年11月末現在)。
EUは2018年10月の決議で、「アニマルウェルフェアはそれ自体が、病気の予防手段としての役割を持つことを、ここに強調するものとする」と定義しているし、EUほど法整備が整っていない国からの輸入鶏肉を警戒している。
当然日本には鶏の福祉を守る法律はない。
国際獣疫事務局(OIE)は「動物衛生とアニマルウェルフェアの間には決定的な相互関連性が存在する」と規定している。
このOIEには日本も含め182ヵ国が加盟しているし、日本も一緒にこの規約を作っていることを忘れてはならない。
ヒナたちの50日の短い一生、どんな扱いをしてもよいのだともしあなたが考えるのであれば、あなたは鶏肉製品の利用を控えたほうがいい。
それは、人の安全を脅かす要因を助長しようとしていることを意味するし、動物を利用する上での倫理的責任を果たそうとすらしていないのだから。
この倫理的責任は、現代社会のシステムの中で生きるすべての人間が負っている。
弱者に何をしてもよいと考えるのは、いつの時代でも悪だ。
また別の元従業員は、日本の養鶏場の意識の低さ、環境の劣悪さに絶望し、「動物を商品にするということ自体に疑問を持つ人が増えない限りなにも解決しない」と憤る。
日本は、毎年7億羽の肉用鶏(ブロイラー)を育て屠殺し、さらに海外からその半分の量の鶏肉を輸入している(5)。
その量は50年間で10倍に増えた。
日本人一人あたりで換算すると、1年間でおおよそ8羽、採卵鶏の肉も含めると9羽を殺して食べているということだ。
世界の陸生動物の犠牲のほとんどが鶏だ。
だからこそ、肉用鶏のアニマルウェルフェアを真剣に考えることが必要なのだ。
世界は変わろうとしている。
欧米だけでなくタイなどの養鶏企業もベターチキンの考えを取り入れ始めている。
このようにアニマルウェルフェアに配慮した飼育に切り替えていく方法もあるし、大豆ミートなどの植物性のお肉に切り替えていく方法もある。
ケンタッキーが植物性のフライドチキンを売り出し長蛇の列ができたというニュースも記憶に新しい。
身近な鶏肉だが、あなたがいったい何を食べていて、どのような環境から来て、そして将来もこのままでよいのか、一度立ち止まって考えてみてもいいのではないか。
そしてあなたにとっても、未来の子どもたちにとっても、動物にとってもよりよい選択肢を選んでほしいと願う。
なお、この文中、ずっと「鶏」ではなく「ヒナ」と書いてきた。
なぜなら、彼らは見た目は大人のニワトリと同じでも、まだピヨピヨと鳴く赤ちゃんだからだ。
殺されるときも、彼らはピヨピヨと叫んでいる。必死で。
----------
(1)https://www.msdvetmanual.com/poultry/sudden-death-syndrome-of-broiler-chickens/overview-of-sudden-death-syndrome-of-broiler-chickens
(2)https://academic.oup.com/ps/article/91/8/1759/1549889
(3)わが国のブロイラー鶏における趾蹠皮膚炎の発生実態に関する研究 橋本信一郎 2011
(4)https://www.ceva.vn/en/Technical-Informations/Poultry/Other-Informations2/Trends-in-developmental-anomalies-in-contemporary-broiler-chickens-Part-2
(5)faostat
----------
岡田 千尋
【関連記事】
日本人だけが知らない「食用卵」のアブない実態
死ぬまで拘束…日本人が知らない「乳牛の残酷生涯」
女性に大人気「フクロウカフェ」のあぶない実態
なぜ炎上?HIKAKINが飼い始めた人気猫種の、知られざる悲しみ
中国「毛皮産業」のヤバい実態~日本もいまだ132万頭を犠牲に…