犬とふれ合える子ども食堂
犬をきっかけに打ち解け、心とお腹が満たされる場に
2019年10月16日(水) sippo(朝日新聞)
子どもの貧困対策や居場所作りなどの役割を果たす「子ども食堂」。
そこに、犬との触れ合いを通じて心を癒やす「ドッグセラピー」を採り入れた試みが福岡県北九州市で始まった。
訪れた人同士が、犬をきっかけにコミュニケーションをとったり一緒に食事したりする交流の場を目指している。
犬を通じて、子どもたちの間に会話が生まれていった
「かわいい」「フワフワ」。
9月27日の夕暮れ時、小倉北区片野3丁目の「かたのだ子ども食堂」で、トイプードルを抱いた子どもたちが歓声を上げた。
北九州モノレールの片野駅のすぐそばに立つ小さなビル。
その2階に子ども食堂はある。
普段は犬と触れ合えるカフェとして営業し、毎月の最終金曜日に子ども食堂に変身する。
運営するのはNPO法人「ドッグセラピージャパン」で、理事長の野田久仁子さん(45)はこのカフェとビルの1階にあるペットショップの店長でもある。
これまで、店で飼育している犬を連れて高齢者施設を訪問し、利用者が犬と触れ合う機会を作るなどしてきた。
「子どもたちにも、犬と触れ合い癒やされながら、思いやりや命の大切さを知ってほしい」。
近年、子ども食堂が増えてきていることを知り、7月下旬にオープンさせた。
中学生以下100円、高校生以上300円で参加でき、この日は、近隣の小中学校に通う子どもら17人がやって来た。
共働きの両親が夕食作りに大変という子や、犬を飼いたいがマンション住まいで難しいという子もいた。
初対面同士が多かったが、犬と触れ合ううちに笑顔になり、子犬が近寄ると「わー、ちっちゃいね」とはしゃぎ合うなどして会話を弾ませた。
犬の扱いに不慣れだった子も、自然と両手で包み込むように抱くようになった。
「手をよく洗ってね」。
子どもたちは1時間ほど犬と遊んだ後、野田さんの呼びかけで夕食に。
この日のメニューは野菜たっぷりのカレーライスとコンソメスープ。
食事中も笑顔があふれ、ニンジンが苦手という子も残さずに食べた。
初めて参加した小学2年、坪田悠希君(7)は「カレーがおいしくて食べ過ぎちゃった。楽しかったのでまた来たい」と話した。
夕食を食べる子どもたち。にぎやかな話し声が食卓にあふれた
犬とのふれ合いで「感性を育てられる」
運営には地域の大人たちが関わる。
NPOスタッフのほか、ボランティアや北九州市立大の学生らが犬との接し方や勉強を教えてくれる。
夕食で出た米とフルーツ牛乳は、野田さんの知り合いの業者が提供した。
子ども食堂に関する情報提供や衛生管理の研修などのため、市が立ち上げた「子ども食堂ネットワーク北九州」のコーディネーター、西村健司さん(46)は「子ども食堂は貧困対策だけでなく、地域の人と顔見知りになり、つながりを持てる場所でもある。犬と触れ合い感性を育てられる点で貴重」と語る。
かたのだ子ども食堂は食材を提供してくれる人をさらに募っている。
体に良い食材を使い「食育」にも力を入れたいという。
紙芝居などで命の大切さについて伝えることも考えている。
野田さんは「ワンちゃんの癒やしと栄養ある食事で、心と体が満たされる場所にしたい。地域のコミュニティーづくりも担っていけたら」と話している。