動物園、実は役に立っていない?
─研究によると「生きた動物を見ることは教育に良いわけでもない」
2019年9月4日(水) COURRiER
Photo: Ignasi Pi-Sunyer / Getty Images
かわいく楽しい動物園のブラックすぎる裏側
動物園の動物たち、特に大型のネコ科動物が、檻の中でウロウロと前後する様子を見たことはないだろうか。
「反復行動」と呼ばれるこの行動は、何もない小さな囲いの中、どうにかして気を紛らわそうとしていると考えられている。
これでは済まず、精神を病んでしまう動物も多い。
例えばチンパンジーのなかには、閉じ込められたストレスから自分を噛む、叩く、毛を抜くなどの行動を起こすことがある。
孤独も動物たちにとっては致命的だ。
1羽だけで飼育されたヨウムは、そうではない個体に比べて遺伝子損傷に苦しむ確率が高い。
さらに、ゾウは動物園の保護下で激しいストレスを抱えていることも最近の研究でわかった。
研究者によると、運動不足、そして幼いうちに家族から引き離されてしまうことが大きな原因だという。
そのため、動物園のゾウたちはとても早く死んでしまうのだ。
そもそもほとんど役立っていない動物園
「希望の方舟(はこぶね)である動物園は、生き物たちを保護し、絶滅から守っている」
動物の保護や福祉に携わる「American Humane」のCEO、ロビン・ガンザートは、米メディア「USAトゥデイ」にそう語った。
動物園はこれまで「保護、教育、研究」という3つの目的をもってその存在を認められてきたが、果たしてその役割を果たしているのだろうか。
【保護】
例えばヨーロッパの動物園では、飼育されているうち70~75%の生き物は絶滅の危機にさらされていない。約850種の生き物がいるが、うち500種は絶滅の心配がない種に認定されている。
ちなみに、絶滅危惧種に分類されている種はわずか45種だ。
またワシントンDCのスミソニアン国立動物園で飼育されている動物のうち、絶滅の危険にある種は全体の5分の1のみだという。
そのうえ保護されていた動物は、自然に返されても結局生きていけないことが多い。
【教育】
「生きた動物を見ることは教育に良く、次世代の保護活動家を育てるのに役立つ」と何十年も言われてきた。しかしガイドもなく動物園を訪れた結果、生物多様性に関する知識が向上した来園者はわずか3分の1程度に止まる。
動物園教育の専門家によれば、動物園ではなく学校で学んだ方が知識の向上が見られたとの研究結果が出たそうだ。
さらに子供達を対象とした2014年の研究によると、動物園を訪れて「良い学びがあった」のは34%のみ。そのうえ15%は「誤った知識を得ていた」という。
【研究】
研究は動物の保護に繋がる、という意見は確かに一理ある。
しかし「動物がたくさんいる状況下でも病気や交配、遺伝的生存率の研究が充分にできていなかったことを踏まえると、動物園の必要性は疑わしい」と、長年動物の保護に携わってきたダミアン・アスピナルは英紙「インディペンデント」で主張する。
歴史を見れば、動物園の飼育・研究によって野生動物の危機が救われることもあった。
ヨーロッパのバイソン、モウコノウマ、アラビアのオリックスはその例だ。
しかし、その功績はあまりにも少ない。
逆にマウンテンゴリラは、環境破壊と内戦の影響でにより密猟者に囲まれたコンゴの森で、現地オリジナルのプログラムにより絶滅の危機から脱したという例がある。
おかげで1981年には世界でわずか242匹しかいなかったものが、今では1000匹に近づいているそうだ。
動物園のあり方は変わるか
「動物園の生き物は、動物園以外の場所を知らない。ならば、そもそも不自由や不幸を感じないのではないか」。
そんな意見もあるだろう。
しかし、動物たちは何千年もかけ、自然の中で生きるために生態を変化させてきた。
そのため「本来とは違う人工的な環境の中で暮らすことはストレスになってもおかしくない」と「ファスト・カンパニー」は書く。
もちろん、野生動物を捕獲して動物園に入れる場合も同じだ。
それでも、やっぱり動物を目の前で見たい……そんな罪深い私たちに同紙が提案するのが「バーチャルの世界」だ。
例えば2017年、様々な海洋生物のインスタレーションを楽しめる「Encounter: Ocean Odyssey」がニューヨークでオープンした。
ナショナルジオグラフィックが監修したこの「バーチャル水族館」は現在、かなりの人気を博しているという。このようにデジタルを駆使した水族館でも、人は楽しめる。
そうであれば「バーチャル動物園」はどうだろう?
せっかくデジタル技術がこれだけ発達しているのだから。
動物たちに犠牲を払わせることなく、人間の知識欲を満たす方法はあるはずだ。
COURRiER Japon