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「幼なすぎる動物の販売」をなぜ続ける?

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「幼なすぎる動物の販売」をなぜ続ける?ペットショップ論争の大問題

2018年9月12日(水) 現代ビジネス

8月22日に、イギリス政府は南部のイングランド地域を中心に「6ヵ月未満の子犬・子猫の店頭販売を禁じる」という方針を発表した。
日本でも“ペットショップの是非”に関して長く論議されるが、残念ながらなかなか改善はされない。
例えば、HIKAKINが飼い始めた猫種についての記事が大きな反響を呼んだが、SNSではヒカキンが子猫を飼ったことについて、「影響力のある人なんだからペットショップで飼うより保護犬や保護猫を飼ってほしい」という声が集まり、それに対して「どこで選ぼうが個人の自由。保護動物を選べというのは押し付け」、「ペットショップだろうが大切にすれば問題ない」などの反対意見も集まった。
確かにこの問題は、保護動物が○で、ペットショップが✖という簡単な図式ではこの問題は語れない。
しかし、現在のペットショップのあり方には問題点が多いのも事実だ。
そして、ヒカキンはじめほとんどの購入者たちは、その実情を知らないだろう。
過去にペットショップ勤務や動物病院勤務など動物関連の業界に長く携わり、現在は保護動物の活動をしている一般社団法人ランコントレ・ミグノンの友森玲子さんに、冷静に“ペットショップでの販売”の現状と、今一番何を論議すべきなのかを教えてもらった。



保護犬・猫は話題だが、まだ少数派
「動物といっしょに暮らしたい」と決めたときに、みなさんはどこで入手しようと考えるだろうか?
猫は保護するケースも多いが、犬の場合は、圧倒的にペットショップやブリーダーでの購入が多い。
また、動物愛護団体からの入手は、下記を見てもまだまだ少ない。
【犬の場合】
ペットショップで購入 47.1%
業者ブリーダーから直接購入 16.7%
友人・知人からもらった 14.6%
シェルター(動物愛護団体など)から譲渡 1.8%
【猫の場合】
野良猫を拾った 37.5%
友人・知人からもらった 26.5%
ペットショップで購入 15.0%
シェルター(動物愛護団体など)から譲渡 1.9%

一般社団法人ペットフード協会(2017年度)調査より



また、犬の飼育者の68.2%、猫の飼育者の63.2%は、動物愛護団体などの保護施設の存在を知らず、犬の飼育者のうち22.3%、猫の飼育者27.9%は動物愛護団体などの保護施設の存在は知ってはいたけれど、入手の検討はしなかったと答えている。
最近、“保護犬・猫”を取り上げるメディアは増えてきているが、現実としては、犬猫と暮らすときに選択肢として多くの人が考えるのは“ペットショップ”なのだ。


Photo by Getty Images

ちょっとでも大きくなるとセールになり、ディスカウントされる犬や猫たち。
「抱っこさせる」が“運命”の販売戦略
過去にペットショップの接客をリサーチしたことがあった。
すべてのペットショップが同様ではなかったが、もっとも代表的なケースをご紹介しよう。
場所は、東京都23区内の繁華街にある某人気のペットショップ。
繁盛店で、店に入ると、壁際にショーケース、店内中央のサークルとかなりの数の子犬・子猫が並んでいた。
サークルの中で飛び跳ねている大きめの子犬と目が合った。
ポメラニアンとプードルのミックスで、売れ残ってしまい少し大きくなり、値札には7万円と書かれていた。
即座に店員が近づいていて「抱っこしますか?」と聞かれた。
これは、ペットショップ業界では、“抱っこ商法”と呼ばれ、多くの店が活用している売り方だ。
ペットと暮らしたいと思っている人が、目が合って抱っこをしたら、そこに“縁”を感じてしまう。
だから、犬種の特性や飼育法などの説明よりも前に、まずは抱っこをさせて、“運命の出会い”を体感させてしまうのだ。
友森「かわいいですね。何ヵ月ぐらいですか?」
店員「ほかの子は2ヵ月弱ぐらいですけど、この子はちょっと大きくて5ヵ月ちょっとですね」
友森「仕事が忙しくて毎晩11時ぐらいに帰宅するから、犬を飼うのは難しくて・・・」
店員「そんなこと問題ないですよ、子犬はほとんど寝ているので、お仕事でいらっしゃらなくても大丈夫なんですよ」
友森「でも、子犬は何回もゴハンを食べるでしょ? 不在だとできないし・・・」
店員「3食はあげていただきたいですが、朝起きてあげて、お仕事から帰ったらあげて、寝る前にあげれば、3食ですから。それで全然平気です」
友森「・・・、そんな3食でも問題はないんですね。でも、散歩に行く時間もないし」
店員「お散歩は、むしろ小型犬は体力がないのであまりしないでください。お休みの日に家の周りをぐるっと一周まわるだけで、十分なんですよ」
子犬の飼育法としてはありえない情報を次々と告げられ唖然とするばかりだった。
小型犬でも適度な運動は必要であり、屋内に閉じ込めていては精神的な発達も妨げてしまう。
成長期の食餌が朝、夜、夜の3食では問題であることは、説明の必要もないだろう。
何より、大切な成長期に無人の孤独な環境では、体も心も健康的に育つはずがない。

正しい飼育情報をほとんど知らない店員
「ちょっと考えます」と断って出る前に、「見積もりだけでも」と書類を渡された。
生体代(犬7万円表示)に、ワクチン代+マイクロチップ+生体保証+ケージなどの用品で、合計は、19万8000円。
10回まで分割払い手数料無料と表示してあった。
分割払い中に病気になった場合の医療費はどうするのだろうと聞いたら、生体保証で1年間医療費は無料、万が一死亡した場合は代わりの犬に交換するという。
さらに、店員が耳元で囁いた。
「3万円均一とか1万円均一などのフェアもします。そういったお知らせをすることもできますよ。資金に余裕がなければそういうものを利用する方も多いですよ」と最後まで熱心にセールスされた。
私は、たまたま犬の飼育に関して知識があるので、接客してくれた店員の飼育法におかしな点が多いことに気づくが、初めて犬を飼う人であったら、間違った情報で「自分でも飼える!」と購入してしまうことになる。
本来なら、その品種の特性が自分のライフスタイルに本当に合っているのか、健康上のリスクはどうなのか、時間的・経済的に支えられるのか、終世責任を取れるのか、が検討されるべきだ。
かわいい面だけでなく、飼うときに注意すべき点も説明すべきだと思う。
もちろん、良識的な飼育知識を提供する店もある。
が、飼育リスクも含めてきちんと説明するペットショップは、実際には非常に少ない。
中には、ネガティブな情報はできるだけ言わず、悩む前に衝動買いに持っていけ、と指導されている店もあるという。


Photo by iStock

日本では、日齢が若い子ほど需要があり、ペットショップの販売、繁殖業者の生産が止まらない。
一番の問題点は、犬猫の“幼なさ”
とにかく、仕入れたら動物はできるだけ早く売り切る。
これがペットショップの流通の宿命だ。
私が見ていたミックス犬も5ヵ月過ぎで7万円までディスカウントされていた。
日齢が少ない子犬や子猫ほど売れるため、売り切るためには、“幼なさ”が要求され、犬猫の場合は、離乳してから早い時期に(現在は49日齢)、母親から引き離されているケースが多い。
動物行動学の研究などから、親元から幼ない時期に引き離すことで、犬や猫に問題行動が生じやすいことが指摘されている。
人間と同様に、犬や猫などの哺乳動物も社会性などを身に付けるために、できるだけ長く母親や兄弟と過ごすことが大事だと言われている。
ところが、利益重視の繁殖業者たちは、離乳まもない時期に母親や兄弟から引き離してしまう。
その後、競りや仕入れ業者を経由して、ペットショップに移動し、ケージに陳列される。
ケージは狭く、終始ライトを当てられ、表からは知らない人がジロジロと見るといった環境。
その狭いケージの中で、食餌も排泄も行う。
親や兄弟からの遊びや学び、安らぎもなく、彼らは、社会性を身につけるための大事な時期に、孤独な時間を過ごすのだ。

死亡想定で決まるペットの販売価格
社会性が未発達な状態で販売されると、咬みつき、無駄吠え、四六時中飼い主から離れない分離不安など、問題行動が増えるという報告もある。
「小さくてかわいい」と思って購入したのに、いたずらをする、慣れない、鳴いてうるさいといった事情が発生し、これが“飼育放棄”に結びついてしまうこともある。
早すぎる引き離しは、さまざまな面で動物たちに負の連鎖を生みやすくなってしまうわけだ。
優良ブリーダーは、こういった問題行動を生じないように、生後60日まで親元に起き、社会性を身につけてから購入者に渡す、というプロセスを求めることが多い。
そのため、優良ブリーダーは、ペットショップに卸さないのだ。
ペットショップでも、ブリーダー経由はあるが、日齢数が浅い子を求めることから、管理の悪いブリーダーからの仕入れが多く、これも問題になっている。
質の悪いブリーダーは悪環境で大量繁殖させていることも多く、免疫力が低い幼ない子たちは、寄生虫や感染症を持っているケースも少なくない。
仕入れてもペットショップで死亡する子犬子猫の数は、みなさんの想像以上だ。
嫌な話だが、死亡する個体の代金も乗せて販売価格が決定され、仕入れ値の4~5倍ほどで売値を設定するのが一般的と言われている。

「たった1週間販売を遅らせる」が実行できない
動物愛護に関わっていると、やはりペットショップの存在には疑問を持つことは多い。
でも、だからといって、今「ペットショップはいらない」と極論を訴えても、それは実現にはほど遠く、今現在、不幸に直面する動物たちを救うことにはならない。
まずは、売れ残りが出るほど大量に繁殖される現状、幼さを売りに販売される動物たちの環境を少しでも改善していくことが先決だと私は思っている。
2013年施行の改正動物愛護法では、幼ない動物の販売を食い止める第一歩として、販売目的で“56日齢以下”の犬猫を母親から引き離すことが禁じられた。
しかし現時点で、この改正案はなぜか実行に至らず、「49日齢規制」にとどまっている状態だ。
欧米諸国では、「8週齢規制(生後56~62日)」を行っているところが多い。
ペット事情を語る際に、欧米と比較して日本が遅れていると称されてしまうのは、この販売の日齢規制がいつまでも改善しないことも理由のひとつだ。
私が主宰する団体も署名活動や行政へのディスカッションなどで、法改正実現に働きかけも行っている。
しかし、現実は厳しい。
たった7日母親の元にいる時間を増やしたいという願いですら、実現できない。
この低レベルな成り行きには正直呆れてしまう。
改正実行の足がかりになっているのが、環境省とペットの繁殖・販売業者だ。
環境省は、幼ない動物の行動障害には、動物行動学などの論文もあるが、科学的根拠が弱いことを理由として難色を示している。
しかし、その背景には、ペット業界などの圧力が想像できる。
ペットの販売業者は、幼ないほど購買意欲を刺激し、衝動買いなども起こりやすくなる消費現状を把握している。
そのことから、8週齢の幼齢期を過ぎた生体販売の動きが悪くなることを懸念し、強く反対しているのだ。
また、大量に動物を卸す繁殖業者は、市場やペットショップに卸す時期が遅くなると、その期間飼育にコストがかかり、さらに取引数も低下する可能性があることから、損失増加を考慮し反対している。
49日から56日という“たった1週間”販売を遅くすることにもさまざまな理由をつけて抵抗を続けているのだ。


Photo by iStock

飼う側も「小さいほどいい」の思考を考え直す。これがペットショップを見直す第一歩になる。
“8週齢規制”がペットショップを変える!?
でも、だからこそ“8週齢規制”は重要なのだ。
少し大きくなるだけで、生体販売の動きが悪くなれば、生体販売で利益が取れなくなり、生体販売を重視するペットショップは減っていく可能性も出てくる。
また、繁殖業者も滞在時間を長くしてコストがかかれば、利益優先の悪質な業者は、繁殖をやめることも期待できるからだ。
また、8週齢規制だけでなく、繁殖環境(施設の広さや出産回数)、従業員1人あたりの飼育可能数なども同時に改正してほしいと働きかけを行っている。
先駆けて導入している欧米で出た問題点や解決策を参考にしつつ、日本の動物飼育の状況に合った改正を段階を追って続けることが、大事なのだと思っている。
しかし、今年の法改正を求めて活動を行っていたが、現状では今年の改正はとても残念な結果になりそうだという情報が入ってきている。
なぜ、「8週齢規制」を実施するのがそんなにも難しいのか。
動物たちがすこやかに育ち、その成長が、動物を飼う人にも幸せをもたらす規制だというのに・・・。
なぜ、そんなにも幼ない子をペットショップで販売しなくてはいけないのか・・・。
そこには私たち消費者が、「小さいほどかわいい」、「小さい子でないと慣れない」、「赤ちゃんから育てたい」そんなペットへの思いが根強くあるからではないだろうか。
「ペットショップはなくなればいい」の前に、購入する側も販売側もこの矛盾に、そろそろ気づくことが、まず必要なのではないか。
友森 玲子


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