台湾「犬・猫殺処分ゼロ」半年、一見順調 課題山積、将来の破綻懸念
2017年8月15日(火) 産経新聞
台湾で公立の動物保護施設での「殺処分ゼロ」が始まってから、今月で半年が経過した。
当初指摘された、施設が「満員」となり成育環境が悪化する懸念は外見上現実のものとならず、政策は順調に進んでいるようにみえる。
だが、民間の動物愛護団体は、水面下で進む将来の破綻の可能性を指摘している。
「殺処分は職員の心理的な負担が大きかった。今は仕事に臨む気持ちが違う」
台北郊外・新北市の動物保護防疫処の陳淵泉処長はこう話す。
「殺処分ゼロ」の改正法が成立したのは2015年2月。
保護施設での殺処分の惨状を描いたドキュメンタリー映画がきっかけだった。
16年5月には、保護施設の責任者の30代女性が心労から殺処分用の薬品で自殺し、世論は「殺処分ゼロ」を後押しした。
アジアではインドに次ぎ2番目として注目された。
当初、施設が「定員オーバー」となる可能性が指摘されたが、行政院農業委員会(農林水産省に相当)動物保護課によると、全土で33カ所ある公立施設の平均収容率は現在約80%で、今年2月6日の法施行の前後でほぼ変化はない。
最大の要因は、施設から一般家庭などへの犬・猫の譲渡率が11年頃から急増し、今年上半期で8割と、各国と比べても非常に高いことにあるという。
譲渡率の高さについて、同課の江文全課長は「『犬は買うものではなく引き取るものだ』という小学校での教育や、雑種でも受け入れられるよう特定の品種犬を宣伝しない意識が普及した成果だ」と話す。
全土の野良犬・猫の総数が推定約15万匹なのに対し、全施設の収容可能数は計7150匹という。
現状では平衡を保っているように見える「殺処分ゼロ」政策だが、財団法人「台湾防止虐待動物協会」は将来の破綻の可能性を指摘する。
かつて譲渡率が上昇したのは、収容犬の多くが捕まえやすい子犬や小型犬だったためだという。
施行後の「入り」の抑制策により捕獲の重点を凶暴な犬や大型犬に移したことで今後、一般家庭の引き取りは難しくなるとみており、「将来、施設が満員になり、犬や猫にとって厳しい環境になるのではないか」(邱于軒専門員)と懸念している。
(台北 田中靖人)
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台湾「犬・猫殺処分ゼロ」半年、課題山積
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