捨て犬から聴導犬に 「ミミ姫」、訓練重ねて(石川)
2016年12月20日 朝日新聞
東さんのひざに前脚を置き、ベルの音を知らせるミミ姫=内灘町向粟崎
耳が不自由な人の暮らしを手助けする聴導犬が県内で誕生した。
シーズー犬の「ミミ姫」(推定4歳)で、内灘町の東(あずま)義一さん(81)とともに日本聴導犬協会(長野県宮田村)の認定試験に合格した。
厚生労働省によると、県内では唯一の聴導犬という。
東さんは小学校5年の時に流行性脳脊髄(せきずい)膜炎にかかり耳が不自由となった。
やかんのわく音にも気づきにくい。
ひとりで不安を抱えながら生活してきた。
聴導犬のデモンストレーションを見たのがきっかけで育成する日本聴導犬協会を訪ね、昨年12月からミミ姫との歩行や一緒にレストラン、スーパーを訪れるなどの訓練を重ねた。
同協会は捨て犬などの保護犬から聴導犬の候補を選んで訓練する「動物福祉」と、障害のある人に聴導犬を無償貸与する「障害支援」を理念に活動している。
候補犬は環境順応力や特定の音に対する反応力、人や動物への友好性など16項目を訓練士が評価。
条件を満たす犬は300頭に1頭ほどしかいないという。
ミミ姫は捨て犬だった。
大阪の動物保護団体に保護された時は犬種もわからぬほど毛が伸び、体に釣り糸が巻き付いていた。
協会の訓練主任である矢沢昌子さんは「気質は聴導犬向きだが、捨て犬だったこともあり、人を簡単に信じる犬ではなかった」。
そんなミミ姫と、東さんは訓練を通して根気よく向き合った。
今年11月下旬~12月上旬に3日間かけて行われた認定試験に受かり、12日にミミ姫を貸与されたばかりの東さん。
目覚まし時計の鳴る音からファクスの着信音、ガラスをたたく音など8種類の音をミミ姫が聞き分けて知らせ、音の場所まで導いてくれる。
「一緒にいると、安心感がある。以前よりも気持ちが和みます」とほほ笑む。
身体障害者補助犬法は聴導犬、盲導犬、介助犬を連れた障害者が公共施設や飲食店、病院などを利用する際の補助犬の同伴を認めている。
釣りや陶芸などの趣味を持つ東さんだが、ミミ姫との生活で新たな目標ができたという。
「新幹線に乗って、東京の息子に会いに行きたい。将来はヨーロッパ旅行もしたい」
矢沢さんは「東さんとミミ姫は本当によく頑張った。社会的な認識がもっと高まり、希望者が増えてくれるとうれしい」と話す。
(須藤佳代子)
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〈聴導犬〉
聴覚に障害のある人に生活に必要な音が鳴っているのを教えるよう訓練された犬。
盲導犬や介助犬と同じ「身体障害者補助犬」で、厚生労働省によると、聴導犬の実働頭数は11月1日現在で全国に計64頭。
北陸3県を含めた30道県には1頭もいなかった。
育成には1頭約200万円(日本聴導犬協会)かかるという。
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捨て犬から聴導犬に
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