<猫ブームの光と陰>
「猫の飼い主探し」ボランティア頼みの限界
2016年10月17日 経済プレミア 駅義則/ジャーナリスト
飼い主の病気や死亡など、何らかの事情で都道府県や市町村に引き取られた犬や猫は、ボランティアが中心となって飼い主探しが行われる。
東京都の場合、48団体が登録してこうした活動をしている。
猫の保護活動を20年あまり続けているNPO法人「ねこだすけ」の工藤久美子・代表理事は、「行政によるペット殺処分数が減ってきた一番の原因は民間のボランティアが引き取っているから。行政がボランティアに『丸投げ』している面もある。許容範囲を超える猫を受け入れたボランティアが『多頭飼い崩壊』に陥る例もある」と指摘する。
増えてしまって飼育放棄に・・・
「多頭飼い崩壊」とは、多数の動物を飼って面倒が見きれなくなり、飼育放棄に陥ることだ。
多様なケースがある。
筆者が猫の保護にかかわるきっかけになった言葉でもある。
約4年前、近所の1人暮らしの男性が拾った猫数匹が、不妊手術を怠って1年足らずで20匹以上に急増した。
男性は猫を公園に捨てた。
筆者は知人のボランティアとともに6匹を保護して飼い主を探した。
虐待や病死の危険が大きかったためだ。
この飼い主探し、子猫はもらわれる率が高いが、大人の猫は非常に厳しい。
別の捨て猫が産み落とした、生後数日の4匹を預かったこともある。
3〜4時間ごとにミルクを作り、専用の哺乳びんで温度をチェックして与える。
姿勢が悪いとミルクが気道に入って死にかねない。
そうした日々が1カ月以上続き、生き残った子猫2匹を里子に出したが、とても長くは続けられないと感じた。行政の殺処分対象の多くは、こうした離乳前の子猫だ。
24時間体制ではない行政の施設では育てられないのもうなずける。
都内では現在、区役所などが野良猫の不妊手術への資金助成を行い、捕まえるのに必要な捕獲器も無料で貸し出している。
だが、ボランティアが引き取って世話することへの資金助成はしていない。
この点を都の担当者に聞いてみたが、「これまで支給した例がないので、現在も検討していない」とのことだった。
SNSが飼い主探しや保護にひと役
現在の猫ブームの背景には、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などで可愛い映像が手軽に見られるようになった点もあるが、ボランティアが保護した猫の情報をSNSで流し、飼い主が見つかったケースも増えてきている。
これも筆者の経験だが、自宅の近所で子猫が虐待されたとの情報を数年前にSNSで見かけ、現場周辺の住民に話を聞いて事実と確認。
知人のボランティアを紹介して付近の猫の不妊手術と監視を徹底してもらった。
以後、その地域で虐待事件は起きていない。
飼い主探しを兼ねた猫カフェも増えている。
その一つ「ネコリパブリック」は2014年2月に岐阜市に店を出し、その後も東京都、大阪市、愛知県に出店してきた。
10月15日にプレオープンした広島市の店も加え、現在は7店を構える。
同店は、「2022年2月22日までに日本の猫の殺処分をゼロに」を合言葉とする。
客がカフェを利用したり、雑貨やペット用品の買い物をしたりすることによって、客と店が「猫助け」という理念を共有し、楽しみながら猫の保護活動をサポートすることを目指す。
今年5月に大阪・心斎橋店の出店費用を「クラウドファンディング」で募ったところ、目標の1000万円を大幅に上回る約1850万円が集まった。
これもSNS時代の威力と言えるだろう。
猫を飼うなら「みとる覚悟」で
だが、飼う側の意識が変わらない限り、問題の根は絶てない。
猫を捨てるのはもちろん、不妊手術をしないまま出入り自由で飼っていると大量繁殖につながり、不幸の連鎖が止まらない。
転勤シーズンに団地の近くで猫が置き去りにされたり、高齢者が死亡して飼い猫が空き家に残されたりするケースは、現在でもよく見かける。
ネコリパブリック経営者の河瀬麻花さんは「単なる猫ブームで命を簡単に買うようなことはやめてほしい。家族として、最期までみとる覚悟で迎えてほしい」と訴える。
確かに、可愛い盛りの子猫を店頭に並べ、衝動買いを誘う販売業者にも問題があるのかもしれないが、やはり最大のポイントは、飼い主の姿勢だろう。
「かわいい いっしゅん せわ いっしょう」。
これは日本動物園水族館協会の動物愛護標語コンクールで、2012年度環境大臣賞を受けた作品だ。
ブームが起きている現在、消費者にはこうした覚悟が改めて求められている。