都内殺処分203匹をゼロ公約した小池知事の本気度
2016年10月13日 経済プレミア 駅義則 / ジャーナリスト
築地市場移転問題で連日、トップニュースを飾っている小池百合子・東京都知事。
選挙期間中に「待機児童ゼロ」「満員電車ゼロ」など「七つのゼロ」を公約に掲げて当選した。
その一つが「ペット殺処分ゼロ」だ。
小池百合子・東京都知事=2016年10月7日、森田剛史撮影
当選から約1カ月後の8月26日、小池都知事は都内でのイベントで、2015年度の都内でのペット殺処分数が実質的に203匹まで減っているとして、20年の東京五輪までにこの数を「ゼロ」にする意向を示した。
都の殺処分数は比較的少ないほうだが、全国では年間約10万匹の犬や猫が、都道府県の施設や保健所で、引き取り手のないまま殺処分されている。
数は年々減っており、すでに神奈川県や熊本市で殺処分ゼロを達成した例もある。
ただ、それはあくまで行政が処分する数がゼロになるだけ。
問題解決というわけではないし、行政が目標達成にこだわって引き取りに消極的になれば、ひそかに捨てられる例が逆に増える可能性もある。
今回は「猫ブーム」の陰の部分、殺処分について報告する。
殺処分を待つ子猫たち=和歌山県の動物愛護センターで2015年8月28日、稲生陽撮影
飼い主の病気や死亡で飼えなくなったペット
戦後、国内では狂犬病が広がっていた。
1950年施行の狂犬病予防法に基づいて野犬狩りが行われ、殺処分されるのは猫より犬が圧倒的に多かった。
例えば74年度の全国殺処分数は犬115万9000匹に対し、猫は6万3000匹だった。
その後、野犬の減少や飼い犬登録が徹底され、2000年度は犬25万6000匹まで減り、猫は27万4000匹と比率が逆転した。
14年度は犬が2万2000匹、猫が8万匹で、8割近くを猫が占める。
現在は野良猫や野良犬は少なく、飼い主が何らかの理由で飼えなくなって自治体の施設に持ち込まれることが大半だ。
14年度に東京都が引き取り理由を調査したところ、「飼い主の高齢化」25%、「飼い主の病気」24%、「飼い主の死亡」18%で、こうした「飼い主の健康問題」が67%を占めた。
それ以外では引っ越しが17%、経済的理由が6%だった。
都は、引き取りについて「やむを得ないと判断した場合」(担当者)に限っているという。
行政は、ペットの飼い主に対して、その動物が命を終えるまで飼うことや、むやみに繁殖させることのないように不妊・去勢手術などをすることをパンフレット等で啓発している。
しかし、無責任な飼い主がいるのも事実だ。
筆者の周りでも、拾ってきた猫を不妊手術しないまま大量繁殖させてしまい、面倒を見きれなくなって捨てる例が相次いでいる。
餌を食べる野良猫=2015年9月19日、稲生陽撮影
殺処分の多くは幼い猫・・・
東京都によると、15年度に都の施設で収容した犬猫は1786匹。
このうち飼い主の元に戻ったのは254匹(犬236、猫18)。そして、引き取って飼い主を探すボランティア団体や個人に引き取られたのは716匹(犬234、猫482)だった。
引き取られずに残ってしまえば殺処分ということになる。
都の場合、83年度が殺処分のピークで5万6400匹だったが、15年度には816匹(犬24、猫792)まで減った。
この数字には、収容時にひどいケガや病気にかかっていて死なせる方がいいと判断されたケースや、収容前後で死んだ数も含まれ、それを差し引いた「実質的な殺処分」が、冒頭に紹介した203匹というわけだ。
小池都知事の「20年東京五輪までに殺処分ゼロ」宣言を受けて、都はこの実質処分203匹のうち犬は10匹、猫は193匹であることを公表した。
殺処分せざるを得なくなった理由を担当者に聞いたところ、「離乳前であったり、高齢のため引き取り手がなく、処分せざるをえなかった」とのことだった。
大半は24時間体制のケアを要し、職員の手にあまる幼齢の猫だったという。
殺処分の減少は、ボランティアの活動が支えている。
そのボランティアから「今の猫ブームに乗って飼い始めた飼い主が、何らかの事情で飼えなくなることも多いだろう。それを見越した行政の長期的な計画が必要では」との声が上がる。
一時的に「殺処分ゼロ」が達成されたとしても、それがゴールとは言えないのだ。