「我が子」と散歩 高齢化で乳母車に愛犬
2016年8月30日 毎日新聞
複数の犬を乗せられる多頭用ペットカート。
「外出先が広がる」として普及が進んでいる=東京都台東区で
ベビーカーに乗せて赤ちゃんと移動するように、ペットカートを利用して愛犬といつでもどこでも一緒−−。
そんなライフスタイルが急速に進んでいる。
ペットの高齢化が背景にあるが、人と犬の関係の変化も影響しているようだ。
東京都渋谷区の代々木公園のドッグラン。
柵で囲まれた広場を犬たちがうれしそうに駆け回っていた。
ペットカートを押して遊びに来る飼い主も目立ち、カートの中から顔をのぞかせてドッグランを眺めている犬もいる。
「一緒にカフェに行くのに便利だし、電車に乗っていろんなところに行けます」。
小型犬のケアンテリア2頭を連れてきていた主婦(50)はカートの利点を語る。
ピクニックランチを楽しむ市民でにぎわう台東区の上野公園では、2匹の小型犬が多頭用カートに乗って芝生の上を気持ち良さそうに“散歩”していた。
ペット用品大手のジェックス(東大阪市)によると、ペットカートの普及が急速に進み出したのは5年ほど前から。
同社マーケティング部の担当者は「人の多いところではカートは犬の休憩所になる。カートに乗せて皆にかわいい愛犬を見せたいという心理もあるようです。複数の犬を乗せることができる多頭用も人気です」と語る。
ペット保険を手がけるペット&ファミリー少額短期保険が一昨年に犬の飼い主1000人を対象に実施したアンケート調査では、カートの使用経験者が3割を超えた。
理由としては小型犬の飼い主は「外出先の幅を広げるため」、大型犬では「愛犬が高齢になったため」が最多だった。
ペットフードの質や医療技術の向上で犬の寿命が延びていることに加え、飼い主自身の高齢化が進んでいることも普及の要因になっている。
また、東京スカイツリーの商業施設東京ソラマチや六本木ヒルズなど「キャリーバッグやカートに全身が入っていればペット同伴可」という施設も増え、おしゃれなペットカートで旅行やショッピングを促すウェブサイトも人気だ。
こうした新たな需要を見逃さなかったのが、育児用品大手メーカー「コンビ」だ。
「ペットも赤ちゃんと同じ大切な家族です」を宣伝文句に、2012年にペット用品業界に参入し、カートの販売を開始。
ベビーカーのノウハウを生かし、衝撃吸収素材や温度調整機能を充実させた5万円前後の高価格帯を中心に、売り上げを毎年約2割伸ばしている。
調査会社の富士経済は「ベビーカーメーカーの市場参入で、乗り心地や収納のしやすさを追求した高価格帯の製品が台頭している」と分析する。
ただ、公共の場での利用には注意も必要だ。
JR各社は列車への乗り入れを原則的に禁じている。
犬を入れるケースを取り外してカートを折りたためるタイプは例外だが、大きさや重さの制限があり、一定の料金もかかる。
東京メトロなど同様の対応を取っている電鉄会社は多い。
代々木公園に散歩に来ていた愛犬家の中には「犬に対する価値観の変化を感じる。犬を犬としてみていないのではないか」と、ペットを赤ん坊のように扱うことへの違和感をもらす声もあった。
人と動物のふれあい活動を推進する赤坂動物病院(東京都港区)の柴内晶子病院長(52)は「不快に思う感情も分からなくはないが、カート利用者には高齢化などそれぞれの事情があり、人間と犬との絆は近年、より深まってきている。一方で、カート利用者は犬の種類に応じて必要な運動量や特性を勉強する必要がある」と指摘している。
【木島諒子】
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