視覚障害の男性が転落して死亡 駅員が注意直後に転落か
2016年8月16日 NHK News
15日、東京・港区の地下鉄のホームで、盲導犬を連れた視覚障害のある男性が線路に転落して死亡した事故で、男性は線路の方向に近づいてホームの端を歩き、駅員が注意を促した直後に線路に転落したことが、東京メトロなどへの取材でわかりました。
15日午後6時前、東京・港区にある東京メトロ・銀座線の青山一丁目駅のホームで、世田谷区の会社員、品田直人さん(55)が線路に転落し、走ってきた電車にはねられ死亡しました。
警視庁によりますと、品田さんは視覚障害があり、15日は駅の近くにある勤務先の会社から、盲導犬とともに帰宅する途中だったということです。
現場の駅にはホームドアは設置されていませんが、線路からおよそ60センチのホーム上に白線が引かれ、さらに40センチほど内側には点字ブロックが設置されています。
東京メトロによりますと、品田さんは線路の方向に少しずつ近づいて白線より外側のホームの端を歩いたため、駅員が「お下がりください」とマイクで注意を促したものの線路に転落したということです。
駅の防犯カメラの映像には、品田さんが盲導犬に誘導してもらうハーネスという器具を右手に持ちながら左足を踏み外して転落する様子が映っていて、駅員が非常停止ボタンを押したものの、間に合わなかったということです。
当時は帰宅ラッシュの時間帯でしたが、ホームは盲導犬がまっすぐ歩けないほど混雑はしていなかったということで、東京メトロなどが当時の状況を調べています。
事故の状況は
警視庁や知人などによりますと、ホームから転落して死亡した品田直人さん(55)は、数学の教師を務めたり海外でキリスト教の布教活動を行ったりしていましたが、目の病気を患い平成14年に身体障害者1級に認定されたということです。
転落した青山一丁目駅の近くに勤務先があり、ふだんからこの駅を利用していて、15日も盲導犬とともに世田谷区にある自宅に帰る途中だったということです。
当時、駅のホームはそれほど混雑してはいなかったということですが、ホームにあるカメラの映像には、点字ブロックより線路寄りを歩いている様子が映されていました。
映像ではホームの端からおよそ60センチ内側の白線付近を盲導犬が歩き、品田さんは盲導犬に誘導してもらうハーネスを右手に持ちながらさらに線路寄りを歩いていて、左足を踏み外すように転落する様子が映っていたということです。
品田さんの友人「信じられない」
亡くなった品田さんは、以前住んでいた北海道江別市内の幼稚園で、およそ10年前から2年間ほど園長を務めていたということです。
この幼稚園で理事長などを務め、品田さんと40年ほど前からの友人だという千葉市若葉区の村田龍一さんは「品田さんは実直で意志の強い人だった。視覚障害になってから園長を務めたが、毎朝、幼稚園の入り口で園児たちを出迎えてあいさつするなど、障害に負けずに働いていた。亡くなったことが信じられない」と話していました。
また、品田さんはみずからの視覚障害について、「視野が狭く、日中の明るい時間以外はほとんど見えない。数年前には北海道の駅のホームで線路に転落し、電車とホームの間に足を挟んで骨折した」と村田さんに話していたということです。
村田さんは「盲導犬の世話は大変だが、つえをついて歩くよりも生活は楽しい。家に閉じこもりがちだったが、盲導犬と一緒に散歩に出かけるようになったと喜んでいた。本当に残念です」と話していました。
転落場所はホームで最も狭いところ
東京メトロによりますと、事故があった銀座線の青山一丁目駅の渋谷方面行きのホームは全長およそ96メートルあり、品田さんが転落した場所はホームの幅がおよそ3メートルと最も狭くなっているところでした。
品田さんはホームの真ん中付近にある改札を通って右に曲がり、ホームをおよそ10メートルほど歩いたところで、線路に転落したということです。
転落した場所からさらに5、6メートル進んだ点字ブロックの先には柱がありました。
事故が起きた銀座線 ホームドアは1駅だけ
東京メトロによりますと、ホームからの転落事故を防ぐため、9つの路線の合わせて179の駅のうち、およそ半数の85の駅でホームドアを設置しているということです。
しかし、今回、事故が起きた銀座線は昭和2年に開業した国内で最も古い地下鉄で、ホームの拡幅や補強などの大規模な工事が必要になるため、19の駅のうちホームドアが設置されているのは上野駅の一部だけとなっています。
東京メトロは再来年度までに改修工事が行われている渋谷駅と新橋駅を除く、銀座線の17の駅にホームドアを設置したいとしています。
線路への転落事故は増加
国土交通省が全国の鉄道会社から集計した結果、乗客がホームから線路に転落したケースは、平成21年度の2442件から毎年、増え続け、平成26年度には、およそ1.5倍の3673件に上っています。
このうち、視覚障害者が転落したケースも、21年度の38件から増え続けて、24年度には92件に上り、26年度も80件起きています。
さらに、視覚障害者がホームから転落して列車にはねられたり、ホーム上で列車に接触したりした事故も、平成26年度まで毎年1件から4件ずつ報告されています。
国土交通省は平成23年に、1日に3000人以上の乗客が利用する駅について、平成32年度までに原則として、ホームドアやホームの内側の方向が識別できる突起が付いた点字ブロックを設置するよう鉄道会社に求めています。
さらに転落事故が相次いでいることから、国土交通省は1日に10万人以上が利用する駅にホームドアを優先的に整備することなどを決め、対象となる全国の251駅のうち、現在はおよそ30%にあたる77駅に設置されているということです。
現場となった銀座線の青山一丁目駅には、ホームの方向が識別できる突起が付いた点字ブロックは設置されていましたが、ホームドアは設置されていませんでした。
視覚障害者の4割近くが転落を経験
後を絶たない駅のホームからの転落事故、視覚障害者の4割近くが転落したことがあるという調査結果もあります。
視覚障害者などでつくる「日本盲人会連合」が平成23年に行ったアンケート調査では、回答した252人の視覚障害者のうち、「駅のホームから転落したことがある」と答えた人は92人、37%に上りました。
また、どうすれば転落を防げるかという質問に対しては、複数回答で、「ホームドアの設置」を挙げた人が228人と最も多く、「周囲の人の声かけ」を求めた人も160人に上りました。
「積極的に声を掛けてほしい」
今回の事故について、視覚障害者の人たちからは盲導犬を連れていても事故に遭うことはあるので、周りにいる人たちには「危ないですよ」などと、積極的に声を掛けてほしいという声が上がっています。
16年前に失明してから盲導犬とともに生活している、東京・新宿区の高澤節子さん(66歳)は、盲導犬の誘導があるため、ふだんは危険を感じることはないといいますが、交差点で車が急に左折してくるなど、盲導犬がいても対応できない危険があると話します。
そうした場合、周りの人に「危ないですよ」などと声を掛けて欲しいといいます。
高澤さんは「後ろから優しく肩に触れるなどして注意を促してもらえれば、私たちも安心できる。盲導犬も声を掛けられて動揺することはないので、何か気付いたら教えてほしい」と話していました。
東京都盲人福祉協会の笹川吉彦会長は「盲導犬やつえを使っているから大丈夫だとは考えずに、危ないと思ったらためらわず声を掛けてほしい。何も見えない状態で歩くという危険性を理解してほしい」と話していました。
動画 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160816/k10010638191000.html