「かわいい」の裏側で 被害者だらけの野良猫問題、餌をやる人が悪いのか・・・
2016/07/20 BuzzFeed News Reporter:井指啓吾(Keigo Isashi)
敷地内での排泄、マーキング、発情期の鳴き声・・・
見ている分には可愛い野良猫だが、実際、猫が暮らす地域では、様々なトラブルが発生している。
問題の原因の一つは、野良猫の多くが避妊去勢手術を受けないまま繁殖していることだ。
これを防ぐために、周辺住民が野良猫を飼育管理する「地域猫」活動に取り組む自治体もある。
しかし、猫の殺処分数ゼロを達成した東京都千代田区や神奈川県などのケースがある一方、成果の見えない自治体も多い。
そんな中和歌山県は、トラブルの増加を受けて「県動物愛護管理条例」を改正。
2017年4月から、京都市などに続いて“野良猫への餌やり”を規制している。
この条例では、繁殖の可能性がない不妊去勢手術済みの野良猫に限り、排せつ物を適正に処理し、周辺住民に事情を説明すれば、餌を与えられる。
ルールを守らず、勧告や命令で改善しない場合には、5万円以下の過料が科せられる。
条例の改正とは別に、県は今年度から、地域住民が野良猫に不妊去勢手術を受けさせる、いわゆる「地域猫」の取り組みに助成を開始する。
実施計画を知事が認定すれば、不妊去勢手術費用などを県が負担する。
県担当者はBuzzFeed Newsの取材に対して、「何も考えずに餌やりをしている人に、考えを改めてもらうのが大きな目標。野良猫との関わり方を見直して、猫と人とが共生できる社会を目指したい」と話した。
「餌やり」規制は効果的?
餌やり規制で、野良猫の繁殖を抑えられるのか。
京都市では、2015年7月に餌やりを規制する条例を施行。
その後1年が経ったが、効果を確かめるのに十分なデータはまだ揃っていない。
市担当者はBuzzFeed Newsの取材に対して、野良猫の数を正確に把握するのは難しいため、現状、市民からの苦情件数などの推移で条例の効果を確かめていると説明。
しかし、条例ができたことで「新たな苦情が掘り起こされた面もある」とし、客観的なデータを得るにはまだ時間がかかる、と話している。
現状、「不適切な餌やり」の指導のために、市長が勧告や命令を出した事例はないという。
専門家の意見は
まだ明確な効果が見えない餌やり規制。
専門家はどう考えているのか。
野良猫問題に取り組む「THEペット法塾」代表の植田勝博弁護士が、BuzzFeed Newsの取材に応じた。
植田氏は餌やり規制に反対の立場だ。
「野良猫の繁殖を抑えるために必要なのは、避妊去勢手術。餌やりを条例で禁止・規制することは、猫を飢えさせる虐待行為です」と話し、規制は、動物愛護法に違反するとの考えを示している。
どうしたら問題は解決するの?
結局、野良猫問題はどうすれば解決するのか。
植田氏は、餌やり規制の代案として、「不妊去勢手術の徹底」「里親探し」を示す。
「助成金を出すなどして、野良猫でも飼い猫でも不妊去勢手術がしやすい社会にしなければなりません」
「家庭猫にしやすい幼猫や成猫は、里親を探す。愛玩動物である猫は、本来、人と暮らすことが望まれます。給餌はもちろん、病気予防や治療をして愛情を注いでくれる飼い主が必要です」
実際、猫の殺処分数ゼロの千代田区では、一般社団法人と連携することで、野良猫を保護して避妊手術や治療をした後、里親を探す取り組みをしている。
ただ、千代田区の担当者は「自治体によって、面積やボランティア基盤などの状況が異なります。すべての自治体で運用できるかはわかりません」とBuzzFeed Newsに話す。
成果の出た取り組みだが、すべての自治体に応用するのはハードルが高そうだ。
植田氏は、野良猫の増加を防ぐために、「捨てさせない」ことも大事だと説く。
「新たな遺棄防止策が必要。警察が捜査、目撃情報の収集を徹底し、遺棄犯罪を許さない社会を目指す。『遺棄を目撃したら通報を』と警察や行政の電話番号記載看板を設置し、誰もが、遺棄が刑事犯罪だと認識して通報する社会になれば、野良猫問題の解決につながります」
餌を与える人が受ける誤解
賛否が分かれる野良猫への餌やり。
その裏側には、餌を与える人と、それに反発する人の、こんな構図がある。
野良猫に餌を与える人の中には、計画を立てて、自費で不妊去勢手術をしている人も多くいる。
しかし、駆除を主張する人にとっては、餌をやっている人は加害者のように感じる。
結果的に、すべての人に利益になるであろう「野良猫をゼロにする活動」に協力するどころか、被害を主張して責任を求め、対策が進まない。
こうした現状を憂い、植田氏はこう語った。
「猫も、その猫の空腹に同情し餌を与える人も、猫を捨てた人の被害者です。責任を負うべきは、捨てられた猫でもなく、餌を与える人でもない。捨てた人に責任を負わせられない以上、野良猫問題は、社会全体で担うべきことなのです」