女優・名取裕子さん 愛犬は大切な家族、生涯を全うさせてあげたい
2016年6月28日(火) sippo(朝日新聞)
名取裕子さんと愛犬
この4年間、毎日かかさず、1日3回つけているメモがある。
今年7月で18歳になるジジ(メス、写真左)の「日誌」だ。
既に目が見えず、耳は聞こえず、歯も悪くなっていて、椎間板(ついかんばん)ヘルニアや心臓病など様々な疾患を抱えている。
そのためわずかな変化も見逃さないよう、朝昼晩何を食べたのか、薬は何を飲んだのか、どんな症状が現れているか、すべてを記しているという。
名取裕子さんはこう話す。
「体調が変化したとき、その前になにが起きていたのかがわかっていれば、原因や対処法がわかります。いろいろな病気を持っているのですが、この子にはまだまだ長生きしてほしい。だから、完璧な介護をしてあげたいと思っています」
ほかにも毎日、コットンを使って歯磨きをしてあげるなど、愛犬たちの健康管理には絶対に手を抜かない。
アレルギー体質のココ(メス、9歳、写真右)については、フードの管理も徹底している。
「この子たちは私の大事な家族です。言葉を話せないのだから、私がしっかり見てあげないといけない。飼い主の責務として、命を守っていきたい」
ジジはドッグショーで50もの賞を取った
犬は人間の鏡
名取さんといえば、芸能界でも有名な愛犬家だ。
子どものころからずっと、犬や猫に囲まれてきた。
テレビに映る「名犬ラッシー」にあこがれて育ち、当時の夢は「犬と一緒に寝ること」だったと振り返る。
中学生のころ、飼っていたフク(クーちゃん)という名前の犬が、急に倒れた。
名取さんはフクを抱え、ためていたお年玉を握りしめ、「クーちゃんを助けて下さい!」と動物病院に駆け込んだ。
獣医師は中学生にも優しく対応し、手術をしてくれた。
それから40年以上がたった現在も、名取さんはその獣医師のいる病院に通っている。
いまは息子さんと一緒に、ジジとココの主治医となって見守ってくれているという。
そんな名取さんにとって思い入れの深い犬がブブ。
ジジの母犬で、2012年6月に17歳で亡くなった。
ブブを飼い始めたのは、名取さんが37歳のとき。
そのころからいまに至るまで、ドラマの撮影で長く京都にいることが多く、撮影の際には東映京都撮影所のそばに「ペット可マンション」を借り、ブブと一緒に過ごしてきた。
「ブブほど東京と京都を往復した犬はないと思います。京都では『犬好きのドライバーさん』を指名して移動用の車を手配してくれていたので、その方にもすごくかわいがってもらっていました。そのせいもあってか、京都が大好きな子でした」
頭がよく、人なつこい犬だった。
ロケ現場に連れて行くと、弁当が入っている段ボール箱に首を突っ込み、じっと弁当箱を見ている。
でも絶対に手を出そうとはしない。
名取さんが地方ロケに行くために荷造りをしていると、「ああ行っちゃうのか」とすぐに察する。
姿が見えなくて探すと、荷造りしたスーツケースの上で寝ていたりする。
「そこで寝ていれば、連れていってもらえると思うんでしょうね。『犬知恵』が働く、やることなすことが本当にかわいい子でした」
いまブブは、京都市右京区の「西寿寺」に建てた墓に眠っている。
高台にある墓地からは、ブブが大好きだった京都の街がよく見え、撮影所も近い。
ブブを迎えた3年後に生まれたジジと、友人宅で生まれて譲り受けたココを連れて時々、お墓参りに訪れているという。
母犬ブブと一緒に暮らしていた娘のジジは、控えめで我慢強い性格に育った。
ドッグショーで50もの賞を獲得した「自慢の娘」でもある。
一方で子犬の時に譲り受けたココは、わがまま放題で「悪魔のよう(笑)」。
自己主張が強く、ジジにちょっかいを出し、「悪さ」ばかりしているという。
「犬は飼い主の鏡です。だから『バカ犬』がいるとしたら、それは犬ではなく飼い主がダメだということなんです。犬に人間の側の都合を押しつけるのではなく、いいことをしたらほめてあげて、それぞれの犬らしい性格を伸ばしてあげたいと思っています」
だから名取さんは、「犬生」をまっとうできるような環境を用意してあげたいと考える。
一方でペットの虐待や遺棄、ペットショップにまつわる生体販売の問題など、様々な課題が人間社会のほうにはある。
「犬は飼い主を選べない。でも犬は、命を大切にするという当たり前のことを人間に教えてくれます。犬や猫などのペットにまつわるすべての関係者が、しっかりと命に向き合ってほしいと思います」