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80歳を超えて犬を飼う 最期まで幸せに暮らせる仕組みを

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80歳を超えて犬を飼う 最期まで幸せに暮らせる仕組みを

2016年5月5日(木) sippo(朝日新聞)


父の愛犬・犬士

実家には4歳になるミックス犬がいる。
父は大の犬好きで、私は子供のころからたくさんの犬とともに暮らした。
そんな父も70歳を超え、飼っていたハスキー犬が亡くなった時、もう年だからと犬を飼うことをあきらめた。
実家では初めて犬のいない生活が何年か続き、いつの頃からか明るかった父は、ほとんどしゃべらなくなった。
周囲の者はみな、それを年のせいだと思っていた。
そんなとき、私の犬が出産した。
父は時々私の家に来て、犬のいるサークルの前に座り込んでは飽きもせず、じっと子犬たちを眺めていた。
3頭の子犬たちはみな里親が決まっていたが、そのうちの1頭に脊椎(せきつい)の奇形が見つかった。
うまく育たないかもしれないので、うちに置いておこうと思うと父に話した。
するとその時初めて、父は、それならば自分がその子犬を飼いたいと言った。
さいわい最初に決まっていた人が、それを承知で飼ってくれることになり、そこで子犬は無事に成長した。
そして父は、これをきっかけに80歳を超えてもう一度犬を飼う決心をした。
次に我が家で生まれた子犬が実家にもらわれることになり、父が「犬士」と名付けた。
犬士は誰よりも父を慕い、いつも父のそばを離れなかった。
両親は犬のしつけ教室(パピークラスとジュニアクラス)に通い、ひととおりのしつけもした。
犬士と暮らすようになってから、父は周囲が驚くほど元気になった。
犬士に笑顔で声をかけ、いろいろなことを話すようになった。
実家に電話をするといつも電話口の声が明るく弾んでいる。
間違いなく今の父はしあわせなのだと思う。


80歳を超えて犬を飼う決断をした父

最期まで一緒に暮らせる仕組みを
ペットの飼育は、高齢者にとって精神的にも身体的にも良い効果があり、笑顔が増え、病院に通う回数が減り、認知症の進行が抑えられたなど、多くのポジティブな報告がある。
一方で、高齢者が飼うペットはしつけやケアが行き届かず、行動や健康上の問題が見られることが少なくない。
また飼い主が病気になり、飼い続けることが困難になるケースもある。
最近私が経験した例では、90代の飼い主が高齢者施設に入所することになり、愛犬を手放した。
新しい飼い主は知人を介してこの犬を引き取ったが、自宅に来たり散歩中に出会ったりする人に、ことごとく吠えたり攻撃したりすることに困りはて、相談に来た。
聞けば子犬期から3歳まで室内のみで飼われており、知らない人に会う機会を与えられていなかったという。
さいわい新しい飼い主は、この犬を放棄することなく、積極的に行動治療に取り組んだ。
そのかいあって、他の人に攻撃しないよう、コントロールすることができるようになった。
しかしそもそも、子犬期に適切な教育を受けていればこのような苦労をすることもなかっただろう。

高齢者がペットを飼うことを、一概に良い悪いと言い切れない。
人はその人らしく生きている時が最も幸せで輝いている。
真の犬好きとは、犬がいなければその人らしく、幸せな生き方が出来ない人だと私は思う。
私自身も人生の中でペットと一緒に生活していなかった期間は、唯一大学入学後のわずかな期間だったが、この間はいつもどこか物足りなさや寂しさを感じながら過ごしていたことを覚えている。
また私の父やホスピスへの犬を連れての訪問活動などで高齢者と犬のふれあいを見るにつけ、真の犬(猫も!)好きの人は、犬と暮らすことで生涯幸せを感じながら生きることができると思う。
「動物好きはしあわせになる素質がある」とさえ思っている。
だから犬好きの人には、高齢になったからといって犬と暮らすことを諦めないでほしい。
もちろん飼い主に先立たれて犬が不幸になることがあってはならない。
人と動物が最期まで幸せに暮らせるような仕組み作りが必要だろう。
アメリカのミズーリ州には「タイガープレイス」という、ペットと暮らせる高齢者用施設がある。
ここではペットの世話が出来なくなっても、ボランティアが散歩や食事などの世話をしてくれる。
また飼い主が先に亡くなっても、適切な飼い主を探してくれる。
日本ではまだこれからの課題であるが、たとえ高齢者でなくとも、何らかの理由でペットと暮らせなくなることはありえる。
それがペット自身の問題行動によることもある。
したがってペットには、人間社会でしあわせに暮らすための教育が必要であることを、すべての人に知ってもらいたい。
子犬や子猫の頃から社会化をし、人や他の動物とコミュニケーションができるように育て、人に対する信頼感を育てておけば、万が一の時にも里親を見つけやすく、里親になった人も幸せに暮らすことができる。
子犬・子猫の時期からの教育が常識となれば、高齢者のペットの飼育問題だけでなく、多くのペットにまつわる問題が解決しやすくなるだろう。
(もみの木動物病院副院長・村田香織)


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