「ネコノミクス」や猫ブームの陰、殺処分続く 福岡市、昨年度424匹
2016年3月13日(日) 西日本新聞
センターに収容後、殺処分を免れ、新しい飼い主を待つ猫
ペットショップでの猫人気、関連グッズの売り上げ増など、猫にまつわる特需を意味する「ネコノミクス」という言葉も生まれるほどの猫ブームに湧く昨今。
その裏側で、多くの捨て猫や野良猫の命が殺処分によって消えている。
7年前に殺処分ゼロへ向けた取り組みに着手した福岡市でも、昨年度殺処分された犬と猫は468匹。
このうち、猫は約9割の424匹に上る。
ブームの光と影を考えた。
同市東区蒲田の東部動物愛護管理センター。
市内唯一の動物収容施設を訪ねた日、薄暗い部屋に置かれた猫用ケージには数日前収容された1匹がいた。
奥行き80センチほどのケージの奥に引きこもり、のぞき込むと光る瞳が見つめ返してきた。
収容から原則6日以内に飼い主が名乗り出ず、譲渡先も見つからない場合、成猫は麻酔薬注射、子猫は二酸化炭素で殺す。
ただ、健康で人に慣れた猫は6日を過ぎても譲渡先を探すことにしており、現在は4匹が明るい部屋に移されて、新たな飼い主を待っている。
2014年度にセンターが受け入れた猫は534匹。
負傷して路上などにいたところを回収した猫を除き、約8割の433匹は直接持ち込まれた。
このうち18匹は「増えすぎた」「引っ越すので」などの理由で飼い主が持ち込んだという。
かつて住民から引き取り要請があれば回収に応じていた市は、09年度から成猫の回収をやめ、11年度には子猫もやめた。
これにより09年度は1977匹だった猫の殺処分は8割近く減ったが、依然ゼロにはほど遠い。
しかも、殺処分される猫の約9割が生後3カ月以下の子猫という状況は変わらない。
多い日には20匹近くが持ち込まれる出産ラッシュの春は、センターにとって憂鬱(ゆううつ)な時期だ。
吉柳(きりゅう)善弘所長(46)は「捨てない、増やさない努力を続けるしかない」と語る。
地域の取り組みに温度差
福岡市は09年度、地域の野良猫に避妊・去勢手術を施し、えさやトイレの場所をしつける「地域猫」活動に取り組む地区を対象に、本来1匹1万~2万円かかる手術を無料とする支援策も始めた。
現在は自治会などの単位で69地区が対象となっている。
「地域猫を通し、猫が好きな人と嫌いな人がお互いの意見が分かり、歩み寄る機会になる」。
市内各地で地域猫活動に携わっている山口みわ子さん(38)は力を込める。
山口さんはペットショップ勤務の経験があり、飼い主に捨てられる「不幸な猫」に心を痛めていた。
現在の猫ブームにも「嫌な感じ」があるという。
中央区内で営む飲食店のある地区でも昨年から地域猫活動に乗り出し、現在は手術済みの約30匹が暮らす。
この地区でも当初はふん尿や鳴き声を懸念する反対意見もあったが、面倒の見やすさから徐々に住民の理解が広がり、手術のための捕獲やトイレ掃除への協力も増えているという。
「結局、全ては人間の問題」
吉柳所長や山口さんによると、地域猫に取り組んでいる地区の中にも「迷惑だから」と猫を捕まえてセンターに持ち込む人やルールを守らずにえさをやる人もいるなど、地域猫の趣旨が徹底されていないケースも散見されるという。
また、手術代無料化など市の支援を受けるには地区の合意が必要だが、地区ごとの温度差も否めない。
「人間関係が密な地域では、猫の面倒を見る場合も比較的意見がまとまりやすい。でも、隣の住人も知らないような所では難しいという印象を受けます」
吉柳所長は「10年後に殺処分がなくなっていればいい」と、息の長い取り組みとなることを覚悟する。
「結局、全ては人間の問題なんだなと感じます」
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「ネコノミクス」や猫ブームの陰で・・・
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