ペットと入居、心もあたたか 保健所から引き取り世話 横須賀の特養ホーム
朝日新聞・朝日新聞デジタル
犬とくつろぐ入居者と若山三千彦施設長(左端)=神奈川県横須賀市の「さくらの里山科」
殺処分されそうな犬や猫を引き取っている特別養護老人ホームが神奈川県横須賀市にある。
「動物の命を少しでも救いたい」との思いで始めた取り組みは、入居者の心の支えにもなっている。
横須賀市西部の山あいにある「さくらの里山科(やましな)」。
2階では、入居者40人が犬6匹、猫8匹と過ごしている。
このうち12匹は、保健所に保護されたり、飼い主が死亡して取り残されたりしていたのを引き取った。
原発近くで保護
2012年4月の開設時から引き取りを続け、入居者が連れてきたペットも受け入れている。
若山三千彦施設長(49)は「高齢や病気など、里親が見つかりにくいペットを優先して引き取っています」と話す。
えさ代などは施設が負担し、地域のボランティア15人が散歩を手伝う。
犬の「むっちゃん」は、東日本大震災後の11年夏ごろ、福島第一原発の近くで保護された。
心臓病だったが、職員たちの看病で回復し、昨年5月に死ぬまで施設で過ごした。
これまでに施設でみとった動物は犬3匹、猫2匹。
最期は入居者や職員で見送り、献花台やお墓を設けた。
動物担当の職員、畠美佐子さん(54)は「人間も動物も入居者。同じように接します」と話す。
動物と共に暮らす入居者の中には、徘徊(はいかい)など認知症の症状が緩和したり、関節が硬くなる「拘縮(こうしゅく)」が改善したりする人もいるという。
「アニマルセラピーの効果もあるんです」と畠さん。
犬と再会し食欲
入居者の小原(こはら)勇さん(90)は肺に水がたまり、昨年9月に病院に入院した。
全身が衰弱したまま回復せず、11月中旬に施設に戻った。
最期の時を過ごすつもりだった。
ところが、犬の「あらし」と再会すると、食欲が出て症状も改善した。
四女の裕子さん(59)は「父の心の支えになっています」と話す。
保健所から引き取られたあらしには、てんかん発作がある。
控えめな性格で、いつもえさをもらい損ねる。
最近は裕子さんがお見舞いに行くと、小原さんは開口一番、「あらしにえさをやってくれ」と声をかけるという。
神奈川県の調査によると、保健所が犬を引き取る理由の約3割は「(飼い主の)高齢などによる病気・死亡」だ。
若山施設長は「自分で世話ができなくなると、やむなく手放す高齢者も少なくない」と話す。
環境省によると、13年度に保健所などが引き取った犬や猫は全国で年間約17万6千匹にのぼり、うち約12万8千匹が殺処分されている。
若山施設長は「犬や猫が幸せに暮らせる社会は、人間にとっても豊かな社会です。ペットの命を少しでも救い、それがお年寄りの喜びにつながれば本望です」と話している。
(佐藤陽)
施設の敷地内には死んだ動物のお墓がある=神奈川県横須賀市の「さくらの里山科」
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ペットと入居、横須賀の特養ホーム
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