高齢者は動物を飼ってはいけないんだろうか 【きみといきる】
2015年 10月20日(火) オーヴォ
全国各地で、少子高齢化・過疎化が進んでいます。
そんななか、ひとり暮らしのお年寄りや高齢者だけの世帯で、家族としてペットを迎え入れたいという声を多く聞きます。
ペットを飼うことで高齢者の生活に規則正しいリズムが生まれたり、生きることの張り合いを得ることができますし、ペットにとっても長い時間飼い主が家にいてくれることはよいことです。
ペットを飼うことで健康寿命が伸びる、ということもよく知られています。
しかしそういった思いとは裏腹に、高齢者がペットを飼うことは簡単ではありません。
たとえば保健所や動物保護団体からペットを引き取ろうとしても、年齡や家族構成を理由に断られることがあります。
ペットの生涯の最後まで責任をもって飼うことができないおそれがある、飼い主になにかあったときにペットが取り残されてしまう、などがその理由です。
高齢者はペットを飼う自由さえ制限されてしまっているのです。
たしかに高齢者はペットを最後まで飼うことができないかもしれません。
しかしそれは高齢者だけの問題でしょうか?
そうではないと思います。
だれだって(私だって)、いつ体調を崩してしまうかわかりません。
体調だけでなく、住まいや経済的な理由で、ある日突然ペットを飼えなくなってしまうおそれは、だれにだってあります。
完璧なペットがいないように、完璧な飼い主もまた、いないのです。
高齢者がペットを飼うことは「難しい」ことかもしれません。
でも難しいことと「できない」ことは違います。
そして周囲がサポートすることで「難しい」を少しでも軽減することができたら、高齢者世帯であってもよき伴侶としてペットと暮らすことはできるのではないでしょうか。
ふくしまプロジェクトでは、そんな思いから、高齢者世帯でのペット飼育の支援活動を行っています。
活動を通じて見えてくるのは、いろいろな苦労をしながらも、命ある仲間であるペットを愛し、慈しんでいるみなさんの姿です。
たとえばTさん。
ひとり暮らしのTさんは昔から犬を飼ってきました。
Tさんがそのとき飼っていた犬は、秋田犬の血の混じった雑種で、中型よりも少し大きいくらい。
当然ながら力もあります。
ある日散歩の途中でTさんの手から離れ、近くを歩いていた近所の方に駆け寄り、転倒させてしまいました。
この犬では力が強くて自分では手に負えないかもしれないかもしれない、と悩んだTさんから連絡があったので、私たちはTさんのお宅を訪ね、様子を確認してお話を聞きました。
Tさんは犬のことをよく理解し、十分な自由を与えながらも節度をしつけできる、よい飼い主でした。
そこで我々は飼っていた犬を引き取り、代わりにシェルターにいた、二回りほど小さい、おとなしい犬を預かってもらうことにしました。
一度はもう犬を飼うことをあきらめたTさんの自宅では、今は以前と同様に犬が穏やかに暮らしています。
そして、Tさんが飼っていた秋田犬の血が混じった犬には、その行き届いたしつけのおかげで、引き取りたいと申し出てくれた家族が現れ、現在はその家庭で迎え入れる準備が進められています。
できればずっと同じ家で過ごすことが、動物にとってはベストなのかもしれません。
しかしあまりにもそのことを強要することは、人にとっても動物にとっても決して幸せでないこともありえます。
人も動物も少しでもよい環境で暮らすこと、それこそが我々の目指す姿です。
これからも高齢者からの相談はあるでしょう。
なかには希望を叶えることはできないこともあるかもしれません。
しかしこれからも、少しでも多くの人が動物との豊かな共生ができるよう、進んでいきたいと思っています。
筆者:藤谷玉郎(ふじやたまお)
一般社団法人ふくしまプロジェクト理事
東北大学大学院卒業。福島県庁・秋田県庁を経て2014年4月より現職。東日本大震災後に被災地派遣で福島県庁に出向し動物保護行政に携わる。その当時の日々をブログ「福島日記」に記録。
web:http://fukushimaproject.org/
ブログ「福島日記」:http://fujkushimanikki.blogspot.jp/