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手のひらの上の命:無くそう殺処分

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てのひらの上の命:無くそう殺処分
 獣医職員の苦悩 「こんな仕事なくなれば」 生かす側から殺す側に/和歌山

2015年09月22日 毎日新聞


殺処分を待つ子猫たち=和歌山県紀美野町の県動物愛護センターで、稲生陽撮影

野良猫への餌やりを禁じる動物愛護条例の改正案を先月、公表した県に、その後約1カ月間で寄せられた意見は約600件に上り、反対意見が賛成の7倍にも達した。
改正の狙いは、野良猫を避妊・去勢手術を施した「地域猫」にし、殺処分される猫を減らすこと。
一方、ふん尿など野良猫の被害を受ける人には地域猫すら許せないという声も根強い。
動物愛護週間(20~26日)に合わせ、県内を歩いた。
【稲生陽】

紀美野町の山中にある県動物愛護センター。
8月28日朝、大きな遊具がある芝生の広場では夏休み中の子供たちが歓声を上げて遊んでいた。
その奥の建物で犬や猫の殺処分が行われていることは、あまり知られていない。
殺処分が行われるこの日、普段と違う雰囲気におびえた犬はほえ、おりの中から子猫たちがすがるように見上げてきた。
センターでは月2~3回、保健所で処分している和歌山市を除く全県から送られてきた犬と猫を炭酸ガスで殺処分している。
その大半は子猫で、小さいものは1匹ずつ職員が手のひらの上に乗せ、高濃度の麻酔薬を注射して安楽死させる。
死体は施設内の焼却炉で灰にされ、そのまま産業廃棄物として処理される。
獣医師資格を持つセンター職員の前島圭さん(37)は4年前まで、埼玉県内の動物病院に勤めていたが、Uターン就職のために転職した。
「当時は生かすために必死に動物を診ていた自分が、今は淡々と殺す側に回っている。自分自身、認めたくなくてもこれが現実なんです」
幼い頃、飼っていた犬が病気で死んだ。
何もできなかった。
その時の無力感がきっかけとなり、獣医師を志した。
そのはずだった。
この日は犬8匹、猫46匹(うち子猫19匹)を処分した。
「飼えなくなったから」と飼い主が連れてきた犬は、最後まで懸命に尾を振り、ガス室に消えた。
麻酔薬を注射された子猫は、目を見開いたまま動かなくなった。
54匹の命が消え、焼却炉に運ばれた死体をモニターで確認する前島さんはつぶやいた。
「自分たちの仕事がなくなればいいのに、といつも思う。でも誰かがやらなければならない。無責任に野良猫に餌をやることで、その何倍もの数の子猫を他人に殺させていると忘れないでほしい」。
声はわずかに震えていた。

県内で殺処分される猫は年間約2500匹。
人口当たりの処分数は、2013年度まで4年連続で全国4番目の多さだ。
昨年度は2568匹に上り、その7割は子猫だった。
元の飼い主や新たな飼い主に譲渡されたのはわずか64匹。
今年度もほぼ前年並みのペースで推移している。

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◇感想やご意見を
連載や県の条例改正案についての感想やご意見などをお寄せください。
和歌山支局のフェイスブックやメール(wakayama@mainichi.co.jp)へ。
郵便やファクス(073・433・0650)でもお待ちしています。
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◇県動物愛護条例改正案
「殺処分数を減らすため」として、県は12月議会に提案し、来年4月の施行を目指す。
所有者のいない猫への餌やりを禁止する一方、あらかじめ「地域猫」として県に届け出て、周辺住民へも説明すれば、避妊・去勢手術やふん尿の処理などを条件に餌やりを認めるとの内容。
申請者は個人でも可。
餌やり規制や地域猫の制度化は都道府県としては全国初という。


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