猫返し神社:家出猫の帰宅祈願 山下洋輔さんが演奏奉納も
2015年06月22日 毎日新聞
猫返し絵馬の前に立つ宮崎宮司=阿豆佐味天神社で
狛犬ならぬ狛猫=阿豆佐味天神社で
お参りすれば、家出した猫が戻ってくる−−。
「猫返し神社」とも呼ばれる東京都立川市砂川町にある阿豆佐味天(あずさみてん)神社には、全国各地から愛猫家が「帰宅祈願」に訪れ、奉納される絵馬は年間約1000枚にも上る。
調べてみると、事の起こりは同市に住むジャズピアニスト、山下洋輔さん(73)の「ニャンとも」不思議な体験だった。
【賀川智子】
「あの夏にミオがいなくなったんです」。
新宿のビルの会議室で、山下さんは振り返った。
愛する白猫が姿を消したのは、30年ほど前、神奈川県葉山町から立川市に転居した直後だった。
炎天下、汗を滴らせながら探し続け、電柱に張り紙もした。
17日目。
家から2キロほどの同神社にも「隠れているのでは」と足を伸ばしたが、いなかった。
それでも「帰って来ますように」と祈った。
翌日、勝手口から「ミャオ」とか細い声がした。
白毛がすっかり灰色に汚れたミオがうずくまっていた。
「あの声を聞いた時ほどうれしいことはなかったねえ」。
山下さんの顔がほころんだ。
この体験をエッセーに書くと、愛猫家が次々と参拝し、宮司の宮崎洋さん(71)も仰天する事態に。思い当たったのが、境内にある養蚕の神様を祭る「蚕影(こかげ)神社」のことだった。
養蚕では、蚕を食べるネズミを捕ってくれるからと、猫を大切にしてきた歴史がある。
「つながった」と納得した。
12年前には、息子で祢宜の慎(まこと)さん(43)がデザインした三毛猫が振り返る「猫返し絵馬」を制作し、さらに蚕影神社前にミオがモデルの「狛猫(こまねこ)」も置くとまた参拝者が増えた。
境内で奉納された絵馬を見た。
「1日も早くクーが見つかりますように」「たまちゃーん、かえっておいで〜」−−。
一枚一枚に、飼い主の切なる願いがこめられていて、猫のイラストや写真を付けたものも。
郵送されてくる絵馬も今年で200枚を超えた。
郵送して猫が帰ってきた長崎県の飼い主が「お礼参り」に来たこともあったという。
山下さんは10年ほど前にミオとは別の猫が戻って来た時、感謝を込めて神社でピアノ演奏を奉納した。
「僕が『言いふらしっぺ』だから、遠いところからお礼の手紙があったりすると聞くとうれしい」。
ちなみに宮司の愛猫ナナ(13歳)は、日々浴びる「猫返し」パワーゆえか、一度も家出したことがないそうだ。
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猫返し神社
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