どうぶつと生きる:地域ぐるみで猫を管理
2015年06月05日 毎日新聞
適正な餌やりを続けることで、飼い主のいない猫をこれ以上増やさために重要な不妊手術も円滑に進められる
=東京都中野区で、池乗有衣撮影
誰もが猫を好きなわけではない。
そのため飼い主のいない猫(野良猫)が増えすぎると、大きな鳴き声やふん尿被害といった地域トラブルを招くことがある。
解決への取り組みとして、「地域猫活動」というものがある。どんな活動か、実情を探った。
●V字耳は不妊の証し
地域猫活動とは、飼い主のいない猫を捕まえ不妊手術をした後、元いた場所に戻して地域ぐるみで適正に管理することで、猫起因のトラブルを減らし、一代限りの命を見守るものだ。
飼い主のいない猫の不妊手術に低料金で協力するmocoどうぶつ病院(東京都中野区)の斉藤朋子院長は「猫は交尾すると100%妊娠する」と言う。
早ければ生後半年から妊娠可能になり、年2〜3回のペースで3〜6匹ずつ出産する。
環境省によると、2013年度に殺処分された猫約10万匹のうち、6割が子猫だった。
不妊手術は「不幸な命をなくすためにも欠かせない」と力を込める。
手術日は週2回。
訪ねた日も6匹が持ち込まれ、妊娠中や出産直後のメス猫もいた。
「手術は春の出産ラッシュを迎える前の11月から1月がベスト。今の時期は母猫の負担が大きいうえ、子猫が取り残される危険がある」と斉藤院長。
手術した猫は目印として耳先をV字にカットする。
手術により発情期の鳴き声やマーキングがなくなったり、尿の臭いを軽減したりするなどのメリットもあるという。
●当事者意識が必要
「猫の耳先のV字カットを当初はケンカの傷痕だと思っていた。地域猫の情報はまだ身近ではない」と話すのは、映画「みんな生きている〜飼い主のいない猫と暮らして〜」を監督した泉悦子さんだ。
身の周りにいた不幸な猫たちを見過ごせず自ら保護すると共に、「どうすればいいのか」を調べ始めた泉さん。
地域猫活動に携わる人々を訪ね記録し、映画化した。
欧米における飼い主のいない猫の取り組みも紹介する。
昨年の公開以来、活動の基礎知識が詰まっていると注目されている。
「『助けたい』と独り悩み隠れて活動しても、本当の意味で猫を守ることにはつながらないと思う」と話す。
今春、京都市が猫被害に対する市民の苦情を受け制定した野良猫への不適切な餌やり行為を罰則付きで禁じる条例は、地域猫活動関係者らに議論を呼んだ。
東京都練馬区の地域猫推進ボランティアらで構成するNPO法人「ねりまねこ」副理事長の亀山嘉代さんは「餌やりが問題視されがちですが、根本的問題は外で生きざるをえない猫がいること」と指摘する。
解決するためには、地域住民と実動するボランティア、行政の3者が当事者意識を持ち協力し合えれば、スムーズに進みやすいという。
「猫がごみを荒らさないためのルールに沿った餌やりなど、地域の環境を良くする視点で努力し続けることで、猫嫌いの人にも理解される活動にする必要がある」と強調する。
●時間決めて餌やり
5月上旬、05年から中野区で地域猫活動に取り組む「南中野地域ねこの会」の餌やりに同行した。
村野君枝会長ら2人が専用ベストを羽織り、夜9時ごろから許可を得た公園などの餌場5カ所を約2時間かけ回った。
各餌場で待ち構える猫の姿があった。
頭数分の皿に餌を乗せ、食べる様子を見守る。
村野会長は「毎回同じ時間帯にたっぷり1日分の餌をあげれば、その時間帯以外、猫はその場をうろつかない」と説明する。
個体確認もでき、頭数管理に不可欠な不妊手術も進めやすいという。
置き餌では意味がないのだ。
猫が食べ終わると、持参した道具で周辺の掃除も忘れない。
村野会長らは猫と一定の距離を保っていた。
「必要以上に人なれさせては、危険な目に遭う可能性もあるから」と話す。
活動当初、団地建て替えに伴い、置き去りにされた猫約50匹がいた。
「周辺住民には不妊手術を施すことを条件に説得し、餌やりを認めてもらった」という。
至る所にふん尿をしないよう、プランターに猫が好む軟らかい土とマタタビを混ぜた猫トイレも整えた。
10年ほどかけ、4匹まで減った。
今では住民に「ご苦労様」と声をかけられる。
「最後の1匹まで見届ける。息の長い活動が欠かせない」と語る。
【池乗有衣】
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地域ぐるみで猫管理
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