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衝動買いを促すペットショップ

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「抱っこさせたら勝ち」衝動買いを促すペットショップの事情

WEDGE Infinity

成田 司 (なりた・つかさ)
ブリーダー、ペットショップ、ドッグカフェなどに勤務し、ペット業界を幅広く知り尽くす。現在は日本版ティアハイム(保護施設)建設を目指すGiraf Project(http://somode.info/giraf/)を主催。

ペット業界の舞台裏
ペットブームという言葉と共に、ペットや伴侶動物などと呼ばれる生きものたちとの生活が身近になっている。ペットショップは、休日ともなると相変わらずの盛況ぶりを見せる一方、今年は5年に1度の“動物の愛護及び管理に関する法律”の改正年とあって、沢山の動物愛護団体や動物に関わる仕事を生業としている人間たちが改正の内容に関して意見を戦わせている。
なぜこんなにもペット業界は不透明と言われ続けているのか。
業界の川上から川下まで関わり、内情を知り尽くした著者が、業界の浄化作用の必要性、問題点や解決策を提言する。

私もかつて勤務していた生体販売を行っているペットショップ。
足を運ぶと、たくさんの子犬や子猫がケージのガラス越しから愛らしい仕草で来店者を迎えてくれます。
やはり幼い動物はかわいいもので、新しい家族を迎え入れようとする目的以外に癒しを求めて来店する方も多いようです。
あるショップでガラス越しにその仕草や寝顔を眺めていると・・・

愛くるしい子犬たち。しかしその「売り時」は短く・・・(写真:筆者提供)

店員:「こんにちは、どんな仔をお探しですか?」
私:「いや、家には先住犬がいるから見学です」

店員:「ワンちゃんは複数で育てた方が楽しいですよ! この仔は特別かわいいですし親もチャンピオン犬で血統も特別ですよ!」
私:「いや、既に3頭いてこれ以上は・・・」

店員:「そうですか、でも3頭も4頭も一緒ですよね、セール中なのでお安くしておきますよ!」
私:「いや、増やす気もないし持ち合わせもありませんので・・・」

店員:「でも、取りあえず抱っこしてみませんか?ぺろぺろ舐めてきたら相性が良い証拠です! 明日にはもういないかもしれませんし、今日は内金だけでも構いませんから! 価格も特別に交渉しますよ!」

こんな接客を受けた経験をお持ちの方も多くいるのではないでしょうか?
小売り店舗なので接客をするのは当たり前ですが、問題はトークの内容。
犬や猫を育てるためには家庭環境や家族構成、収入や飼育経験の有無などの条件が重要なはずですが、金額や支払い方法以外は“かわいい”や“良血統”のみで、その犬種の性格や飼育方法などが全く含まれていません。
さらに多頭飼いを勧め、即決を誘導。
とにかく衝動買いを促すトークが続くのです。
極めつけは“抱っこ”。
実はこれ、今も昔も生体販売の奥義として販売員が使う方法です。
“迷っている客には抱っこさせたら勝ち”これも業界の常識です。

「売り時」が短い犬猫
生体販売を行っている店舗の収支で一番上位に来るのが生体の売上です。
売上金額も利益率も、他の商材と比べて格段に良いのです。
反面、在庫を抱えていると経費がかかり続けるため、仕入れから販売までの時間を短縮することが店員に求められます。
子犬や子猫の商品としての旬は生後45日から60日という業界の常識があります。
この時期の子犬・子猫は幼さが残っていて、仕草も外見も一番可愛い時期と言われ価格も高く設定されています。
特に犬は生後4カ月ほどで、毛の生え換わりで少し貧相に見えてしまい、生後8カ月で大人サイズにまで成長するため、“売り時”はとても短いのです。
そのため旬を過ぎ、幼さが薄れていくにつれ、価格は安く設定されます。
経費はかかり続けるのに価格は下げないと購入してもらえない。
これが衝動買いを促す小売店の事情です。
残念ながらこの衝動買いの先には理不尽に処分されている多くの命が存在します。
「思っていたより大変だった」「流行りが過ぎたので」「頭が悪いから」「他の仔より大きくなったから」「大家さんに見つかったから」。
信じられないような内容ですが、ある動物愛護センターの担当者から聞いた処分を依頼する理由の一部です。
販売時に説明することで救われたはずの命があるのです。

売れ残りペットはどこへ行く?
とはいえ、たくさんの生体を扱っていると当然売れ残ってしまう仔も出てきます。
価格を下げたり、売上の良い他店舗へ回したり、セールの目玉にしたりと販売努力の結果ほとんどの仔は何とか売れてしまうものですが、それでも残った仔はどうなってしまうのでしょうか?
例えばスタッフの家族になる仔もいます。
長く世話をしていると情が移ってしまうもので、そんな仔を抱え込んでしまうショップスタッフが多くいます。
お店側も「維持費がかかるよりも」と希望者に無償で譲ることが多いようです。
例えば常連のお客さん。
こちらも長く売れ残っているのを見ていると、気の毒に感じて育ててくれる方がいます。
繁殖を行っている店舗の場合、繁殖用に使う場合もあります。
その仔にかかった経費を生まれてくる子犬・子猫の売上で取り戻すことが出来ます。
多くの店舗ではこれらのような方法で命を繋ぐ努力をしています。
しかし一部の業者では無情にも“処分”してしまうケースがあります。
それも一番安上がりな方法で。
素人を装い拾得物として愛護センターへ連れて行く。
郊外の山林に繋いで遺棄。
さらに許せないのは、箱に入れたまま放置。
袋に入れ冷蔵庫へ。
そんな業者も存在します。
残念ながら利用する側が店の品位や内情を確認して利用するのは難しいことです。
これから新しい家族を迎えようとするのなら、少なくても育てようとする生き物のことを少し勉強して下さい。
そして可能であれば動物との生活を体験して下さい。
それから迎え入れても遅くはないはずです。
人間の子供を育てる時もマニュアルはありません、育児書通りには育たないものです。
そして準備が出来たならばブリーダーやショップを訪れて疑問点を質問してみて下さい。
納得のいく説明が聞けたならきっとそこが良いお店です。
少なくとも衝動買いを勧めることはないでしょう。

オスよりもメスの方が高く売れる
お店を訪ねると、気になるのが生体の価格ですが、実は季節や流行で価格が決まります。
同じ犬種・犬質であれば雄は雌よりも2~3割安い価格に設定します。
住宅事情や雄特有のマーキングがあるためで雌の方が好まれるという業界の常識からです。
面白いことに、純血種と言われる犬や猫の価格は約30年前からほぼ変わっていません。
生体市場(オークション)などなかった時代、生体の仕入れは専門誌の広告や仲間内の情報を頼りに全国を巡り集めるという手法でした。
当然価格も高価で、生活に余裕のある顧客がターゲットでした。
クレジットカードで購入できるようになり、流通も整備され価格も比較的安くなり現在に至りますが、この頃から犬や猫が一般的なペットとして人気になってきました。
犬猫は儲かると思っている方が多いようですが、儲かるのは前述の通りですが仕入れてすぐに販売出来た時のみです。
仕入れ価格は飲食店と同じ程度、3割位が理想です。
もちろんお店によっても、種によってもまちまちですが、人気の犬猫は5割以上になることも珍しくはありません。
極端に高くても買い手はつきませんのでバランスが大切なのは他の業種と同じです。
ボリュームとして見ると単価が高いので儲かるように見えるのでしょうが、手間や労力、品質が安定しないなど特有の条件がありますので総合してみると難しい商材だと言えるのではないでしょうか。
一部に、思い切り稼ぐ方法もあるようですが命をないがしろにする内容ですので、今回はあえて話題から外そうと思います。
今のペットブームは約10年前から続いており、矢野経済研究所の調査によると、2010年の業界全体の市場規模は1兆3794億円でした(http://www.yano.co.jp/press/press.php/000830)。
しかし最近では他の業種同様不景気の波に飲み込まれ、店舗によっては前年比50%減というところもあるようです。
売上が減ったのは生体・洋服・フード・おやつなどの物販が主で、顧客の懐具合に余裕がなくなってきたことが原因と言われています。
トリミングやホテルなどのサービスはそれほど影響されていないようですが、最近好調なのはペットシッターと言われています。
老犬・老猫が増え、飼い主が旅行の時など慣れている自宅でのお世話や、飼い主の高齢化により散歩や通院などの代行に需要があるようです。
このような事情から、生体販売や物販を縮小し、サービスに力を入れようと変革を試みるショップが増えています。
業界のこのような変革は現在の日本のペット事情からも大変喜ばしいことだと考えます。

提携病院以外保証しない?
生体販売をしているショップに入ると未だに“生命保証制度付き”という言葉に出会うことがあります。
ペットブームの初期に考えられた制度で、購入した価格の15%程度を支払うと、購入から一定期間内にその仔が死亡した場合、同種同色の仔と交換しますというものです。
この制度が作られた経緯は、“あるお店で販売した生体の7頭に一頭が何らかの理由で死亡するという統計が出た。
15%×7頭=105%なので、1頭無料で交換しても8頭分の売り上げが立つ”ということで作られた仕組みだそうで、昔私がいたショップでも導入していました。
ある時このような状況で購入した愛犬を亡くした飼い主が制度を不服に思い提訴したところ、法改正でただの“物”だったペットが“命ある物”と言う解釈に変わった直後で、かかった金額全てを取り戻したという事例があり、制度自体成り立たなくなってしまいました。
しかし、驚いたことにいまだにこの制度を取り入れているお店があるようです。
実はこの制度にはさらに裏があり、私がこの文言を見たショップでは、“体調に変化があった場合お店指定の提携病院で診察・治療を行い、死亡した場合に初めて実行される”ということも書かれていました。
それ以外は認めないし実行しないという内容でした。
このお店は東京都内でしたが、指定病院は遠い他県の住所で緊急時に使うにはとても現実的ではありません。
つまり実質的には“買ってすぐ死んでしまってもクレームは一切受けません”の意味だったのでしょう。
現実的に命を保証することは神様しかできないだろうし、「生命保証制度があるから安心」ということには決してなりません。


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