高齢者がペットを、安心して飼える“仕組み”作り広がる・・・
一方、環境省は「自分の年齢をよく考えて」
2015年3月29日(日) 産経ニュース
民家で飼われていた約60匹の犬。飼い主には最後まで責任を持つことが求められている
シニア世代にとって、ペットを飼うことは心身の健康維持につながる。
しかし、飼い主の病気や入院で飼育が困難になり、行き場を失うペットは少なくない。
高齢化が進む中、シニアが安心してペットを飼うための仕組み作りが広がっている。
一方で、環境省は新しくペットを飼う前に、自身の年齢と動物の寿命を考えるよう勧めている。(平沢裕子)
もし飼えなくなったら・・・
「緊急事態! 60匹の小型犬 飼い主が飼育不能 里親さん急募です!」
昨年9月下旬、東京都内の動物愛護団体がホームページで約60匹の犬の飼い主を募集する告知を出した。
飼い主の70代の女性が交通事故で入院したため、引き取り手を探していたのだ。
女性は1人暮らしで退院後も歩行が困難になることが見込まれた。
高齢で飼育できなくなった知人らから犬を譲り受けるうち、去勢や避妊の費用が捻出できず、60匹にまで増えてしまったのだという。
自分が入院したり、死亡したりした後、ペットがどうなるのか、心配する高齢者は少なくない。
東京都動物愛護相談センターによると、平成25年度にセンターに引き取りを求めた犬や猫について飼育できない理由を尋ねたところ、「高齢」は8%だった。
飼い主の「死亡」(8%)や「病気」(31%)にも高齢者が含まれている可能性があり、これらを合わせると半数近くに上る。
同センターによると、「体が弱って散歩や食事の世話などができなくなったという高齢者からの相談が多い。飼い主自身だけでなく、離れて住む家族やヘルパーから相談されることもある」という。
体力が・・・散歩代行サービスも
飼い主の高齢化が進む中、ペットの飼育を支援するサービスも出てきている。
全国に約70のフランチャイズチェーンを展開する「愛犬のお散歩屋さん」(本部・東京都武蔵野市)は、犬の散歩や猫の食事・糞(ふん)の処理などを引き受ける。
年会費3020円(賠償保険を含む)で、犬の散歩は1回(1匹)1620~2700円。現在、犬や猫など7万5000匹の登録がある。
加盟店のオーナー、利用者とも9割以上が65歳以上のシニア世代で、地域のシニアがシニアを支える仕組みといえる。
代表の古田弘二さん(73)は「体力的に愛犬との散歩が難しくなった利用者から感謝されることが多い。加盟店オーナーもシニア世代だが、ペットを通じて人の役に立っていることがやりがいや生きがいになっている」と話す。
地域の獣医師が中心となり、高齢の飼い主をサポートする取り組みも始まっている。
平成21年に設立したNPO法人「高齢者のペット飼育支援獣医師ネットワーク」(足立区)は、獣医師や動物看護師が高齢の飼い主宅を訪問し、ペットの爪切りや散歩など日常の世話をしたり、ペットの健康状態をチェックしている。
飼い主が高齢などで飼育が困難になったときには、獣医師のネットワークを通じて新しい飼い主を探す。
現在は東京や神奈川など関東を中心にした約20の動物病院が活動に参加。
無料でサービスを実施している。
今後は会費制にし、活動範囲を関西にも広げたい考えだ。
同NPO代表の佐々木伸雄さんは「海外の研究ではペットを飼っている高齢者の健康寿命が比較的長いという報告もある。
高齢者が安心してペットを飼えるように、全国の獣医師に参加を呼びかけたい」と話している。
自身の年齢と動物の寿命を
平成24年の動物愛護管理法改正で、飼い主の責務に「飼養する動物がその命を終えるまで飼養すること」が追加された。
ペットにエサや水を与えず、不衛生な場所で飼って衰弱させた場合は100万円以下の罰金が科せられる。
環境省は、ペットを飼う前に自身の年齢と動物の寿命を考えるよう呼びかけている。
例えば、犬の寿命は12~20年。
70歳で子犬を飼い始めた場合、犬が寿命を迎えるころには90歳だ。
同省の動物愛護管理室は「寿命の計算は高齢者には少し酷かもしれないが、最後まで責任を持って飼う覚悟が必要。高齢者の場合、子犬からでなく年齢が高い保護犬を飼うという選択肢もある」としている。
さいたま市の場合、犬や猫を引き渡す条件を原則65歳までとしている。
行政がどこかで線を引く必要があるとはいえ、ペットを飼いたい独り暮らしや夫婦二人暮らしの高齢者には厳しい時代といえそうだ。
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高齢者がペットを安心して飼える仕組み
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