犬への「虐待」で起訴された動物愛護団体と代表「体罰は虐待ではない」
民間ボランティアが「組織全体で”暴力”を容認」3回目の刑事告発
2023年5月18日(木)
今年3月下旬、横浜地検が動物愛護法違反の罪で、一般社団法人「レスキュードアニマルネットワーク」(横浜市神奈川区)と同法人代表理事を=神奈川県藤沢市=を起訴した事件。
同法人は、5年ほど前から動物の保護活動やかむ犬の矯正訓練に取り組んでいるという。
写真は「レスキュードアニマルネットワーク」から押収されたという白いチワワ。4月、民間ボランティアが同団体に3度目の刑事告発をした(民間ボランティア提供)
起訴状などによると、被告の代表理事は2020年8月、藤沢市内の同法人が運営する施設で、犬数頭の体を棒で突くなどの虐待をしたとされるが、まいどなニュースの取材に対し、代表理事は「かむ犬の矯正訓練のために体罰を使っている。ただ本気で叩いたり、棒で突いたりしているわけではない。棒を振りかざすときは寸止めにするなど手加減をしており、虐待ではない」と、否認している。
一方、4月に入り、民間ボランティアが、同法人などに対して「代表理事だけではなくスタッフも含め組織全体で体罰、虐待している」として、神奈川県警に再度刑事告発に踏み切った。
両者の主張は食い違い、同法人が説く動物への「矯正訓練」が虐待行為にあたるのかどうか、司法の判断がどう下されるのか注目される。
◆2020年以前から代表理事らが叩いたり蹴ったり…犬への「体罰」を行っていた
民間ボランティアによると、今回の刑事告発は3回目とのこと。
2020年以前から代表理事がSNS上で犬を叩いたり蹴ったりしている動画を確認し、同法人の元スタッフからも「犬を叩いている」との情報が寄せられ、21年1月に初めて刑事告発(受理)を行った。
同年9月、藤沢北署が動物愛護法違反容疑で施設を捜査し、収容されていた100匹を超える犬猫を押収。
翌年の22年3月、同法人などは動物愛護法違反(虐待)容疑で横浜地検に書類送検された。
しかし、同年10月、「嫌疑不十分」として不起訴処分に。
また1回目の処分が出る前の同年7月には2回目の刑事告発を行い、11月に藤沢北署が4月に団体の敷地内で中型の柴犬を棒で突いたことなどの虐待容疑で、代表理事を再び逮捕、犬を複数押収した。
そして今年3月、一部の容疑が起訴処分となったという。
◆民間ボランティアが「スタッフも日常的に”暴力”」と刑事告発
3回目の刑事告発に踏み切ったのは「同法人側は体罰を虐待と認めておらず、代表理事だけではなくスタッフも日常的に殴るけるなどの”暴力”を振るっていることが分かりました。今回スタッフも含めて組織全体で体罰と称し、虐待をしていたと疑われる新しい証拠動画を提出し、告発しました」と民間ボランティア。
さらに、3月に起訴処分となった虐待事案について「22年7月に県動物愛護センターも個々に刑事告発したものです。ただ私たちが全て告発した分が起訴されたわけではありません。ですので、不起訴となった犬たちへの暴行などに対して、横浜検察審査会に不服申し立てをしました」と説明している。
また警察が押収した100匹を超える猫を含めた犬たちは、現在民間ボランティアらが一時保護をしているという。
「押収された当時、100匹余りの子たちのほとんどが狭い30畳くらいのスペースに、檻に閉じ込められていました。中には、かむからという理由で24時間口輪されている犬も。犬たちの多くが棒を見るとおびえたり、荷物を取ろうと手を上げる動作をしたらこわがったりしています。こうした犬たちの様子を見ていると、代表理事は服従させるために叩いたり棒で突いたりと”暴力”を振るっていたとしか思えません。 押収時は猫たちにフリーな時間は見受けられず、常にケージの中で過ごす子が多かったことから、常同行動をする子もいました。小さい1段ケージ1つに子猫が数匹入っていたり、トイレの中で寝るしかない子や、足元が細い金属のすのこになっているケージに入れられている子もいました。とにかく当時は猫の環境も良いものではなく、また犬猫に不妊去勢手術をほとんど行っていないため、施設内で保護犬同士の繁殖をさせてしまっている状況でした」
【写真】チワワは、男の人を見るとほえたりおびえたりする後遺症を持っているという
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◆代表「体罰はかむ犬に対する矯正訓練」 押収された100匹を超える犬猫の返還求める
一方、「体罰であって虐待ではない」と主張する同法人の代表理事は一連の刑事告発や逮捕、起訴などを受けてこう訴える。
「スタッフも含め私たち団体は、犬がほえまくったり暴れたりしたら、矯正訓練の一環として叱り、叩いています。訓練の基本は簡単にいえば、アメとムチです。いいことをしたら褒めて伸ばす。悪いことをしたら嫌悪刺激を与えて止める。もちろんいきなり叩くのではなくて、言っても散々聞かなかった子たちに対して、体罰を加えるのです。 ただ本気で叩いたり蹴ったりしているわけではなく、通常は寸止めで軽く当たる程度で、けがをしないように細心の注意を払っています。その証拠に、これまで体罰をきっかけに死んだ犬たちはいませんし。本気で暴力を振るい続けていたら犬から嫌われますから。もともと指一本触れなかった犬たちが最後は私の股の間に首突っ込んでとてもなついているんです。また、かむ犬の保護を依頼した元飼い主から訓練を受けた犬を見た際に『うちにいたときは指一本触れなかったのにこんなに人に甘えるようになって奇跡だ』と感謝されたこともあります。 繰り返しますが、私たちは日常的にいじめをするために体罰をしているわけではありません。そもそもうちに集まってくるのは、よその訓練所に出したが、生まれつき凶暴で直しようがありませんという子たちが行き先がなくて。保健所に相談したら殺処分しかありませんと言われて、うちに『保護してください』と依頼されて引き受けているんです。その子たちをかまないように矯正するために体罰を利用しています。いらつくとか、ストレス発散のために間違ってもやっていない。今回の起訴については、訓練上の体罰が虐待に抵触するのか否かという裁判なんだと受け止めています」
代表理事によると、現在同法人の施設には約40匹の犬猫などを保護・収容。押収された100匹を超える犬猫たちの返還を求めているが、返還後は現在犬猫たちを預かっている人に譲渡も検討しているという。
また民間ボランティアのコメントに対し、次のように反論している。
「まず飼育環境について『100匹余りの子たちのほとんどが狭い30畳くらいのスペースにいた』といいますが、犬のスペースだけで30畳あり、押収当時は運動場も15畳ほど犬猫のスペースになっていて、さらに2階の20畳も猫のスペースになっていましたので、全く違います。もちろんずっとケージに閉じ込めているわけではなく、犬がケージから出て遊ぶ時間も設けています。 このほか猫の飼育状況も良くないと指摘されていますが、猫は飼育数の規制が始まってからもフリーにする必要性は法で決められていません。床に金属のケージを使用したことがなく、使用したというのであれば証拠を提示していただきたく思います。不妊去勢手術に関してもほとんど行っていないと批判されていますが、施設で犬などの不妊去勢手術も順次行っており、動物愛護センターにも既に届け出ています」
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