厳罰化しても後を絶たない動物虐待
悪質な保護団体で働いていた人たちが明かす「生き地獄」
2023年4月16日(日)
新型コロナウイルスが世界で流行した3年前、ペットブームも世界中で起きた。
ならば、ペットと暮らす生活について理解が広まったかといえば、そうとは言えない現実がある。
厳罰化された改正動物愛護法が2020年から施行されているが、度重なる行政指導にもかかわらず逮捕に至るケースが後を絶たない。
そのなかでも悪質と注目を集めているのが、動物の愛護や保護を訴えながら、実際には虐待しているケースだ。
俳人で著作家の日野百草氏が、動物のための善意を悪用する団体の元職員たちに実態を聞いた。
* * *
◆「気をつけてくださいね。なにがあるかわかりませんから」
東京都八王子市、16号線沿いに大きな大学があるだけの閑散とした土地に、その犬たちはいた。
甲斐犬という日本犬、まだ2022年のこの段階では事件化していなかったが、近所の協力者の方は本当に心配そうな様子で筆者を見送ってくれた。
筆者はこの段階で噂を耳にしていた。
甲斐犬や柴犬など日本犬のブリーダーが劣悪な環境で飼育、繁殖させられていることを。すでに心あるボランティア団体らが動いていたが、東京都のほうでもこのブリーダーに指導を繰り返していた。
その数、48回。
そして2023年3月、ついにそのブリーダーは警視庁保安課に逮捕された。
逮捕の段階ではすでに「元」ブリーダーと称していた。
「売れないままに増えてしまった」「甲斐犬を普及させたいと思った」
逮捕された元ブリーダーは容疑を認め、こう供述した。
犬舎はすでに2022年10月に廃業。
100匹以上の犬はボランティア団体らが保護した。
1月には東京都が刑事告発、家宅捜索では犬たちの多くが狭いケージに入れられ、足は曲がったままだったり、皮膚病まみれだったりの状態にあった。
48回もの指導の間に苦しみの中、亡くなった犬もいた。
「甲斐犬を探しています。見かけませんでしたか」
2023年4月、すでに元ブリーダーは逮捕され、閉舎となった施設の近くで女性に声をかけられた。
先の保護したボランティア団体ということで、甲斐犬が1匹行方不明だという。
受け取ったチラシには可愛らしい甲斐犬の姿。
詳細は置くが、どこでどうしているのだろう。
これまでこの地で、多い時で170匹以上が劣悪な環境にあったとされる。
「気をつけてくださいね」
かつて掛けられたのと同じ言葉。
言い方が難しいが、劣悪な環境でブリーダー業を手掛ける業者や一部の悪質な保護団体は「シノギ」なので何をするかわからないというのが現実だ。
筆者は長野県で起きたブリーダーの事件『虐待が日常だったペット絶望工場 1000頭の犬はどこに消えたか』や『ペットショップの「お年玉セール」に違和感 命が叩き売られていいのか』『犬を連れた街頭募金活動にトラブル増 あわれむ前に確認すべきこと』など、いまだ日本の闇とされるペット産業の取材を続けてきたが、匿名の「何者か」に脅されもする。
一部の悪質なブリーダーは無理やり子犬を増やす「パピーミル」(子犬工場)で稼ぎ、一部のペットショップは売れれば構わないと闇雲な仕入れと無責任な販売、そして売れ残りはどこに行くのやらを繰り返し、一部の保護団体は街頭に犬や猫を連れ出して募金詐欺を働く。
すべて「一部」のしていることだが、「全部ではない」「一緒にするな」と言ったところでその「一部」がこれまでも告発、逮捕されている現実がある。
犬を虐待したとして逮捕された元ブリーダーが飼育していた犬[警視庁提供](時事通信フォト)
◆譲渡だけが目的ではなく募金のために保護
「保護した犬を「しつけ」の名目で虐待する団体もあります。棒で殴ったり足で蹴ったり、そんな犬たちを「かわいそう」に仕立てて街頭募金に使うのです」
神奈川県藤沢市にある、悪質な動物保護団体をよく知る元スタッフとボランティア2名に話を伺った。
3名いらっしゃるので、仮にAさん、Bさん、Cさんとする。
この保護団体は2022年11月、代表が動物愛護法違反で逮捕されている。
その際の横浜地検は不起訴としたが、翌2023年3月23日、同地検は改めて同代表を起訴した。
まずAさん、元はその保護団体で働いていた。
先の「棒で殴ったり足で蹴ったり」はAさんの証言である。
「募金に使う前提で保護する犬もいます。団体によって保護といってもいろいろで、譲渡だけが目的ではなく募金で使うために保護します。募金に使えそうな犬は手元に置きます」
これは筆者が『犬を連れた街頭募金活動にトラブル増 あわれむ前に確認すべきこと』で書いた通りのことだ。
団体は違うが、犬や猫を使った募金活動、街頭募金に関して、すべてではないにせよ「グレーゾーン」どころか「真っ黒」で、今回のように告発や起訴、逮捕に至る現実がある。
「一生募金だけで生涯を過ごします。募金は例えば、2019年の12月に集まった額はひと月で360万円でした」
この団体は年間で2000万円ほどの「募金」が集まっていたという。
12月は師走で募金も集めやすいため額が大きいのだろう。
「その犬を虐待していました。とてもおりこうなゴールデンレトリバーでしたが、募金活動中にけいれんを起こして病院に連れて行ったところ、膵臓に腫瘍がありました。すぐに亡くなってしまいました」
その他にもハスキー犬のミックスやボーダーコリーなども募金活動に「道具」として利用していた。
動物がこの団体に返還されれば再び募金に駆り出され、そうして一生を終える。
また募金活動に際してジュネーヴ条約などで禁止されている「赤十字」を勝手に使っていたとも語ってくれた。
これは筆者も確認済みである。
こうした悪質な募金団体に関して日本盲導犬協会は〈盲導犬普及活動と称して、盲導犬の名前を商売に利用しているグループがあります〉、日本補助犬協会も〈日本補助犬協会の名前を騙った街頭募金活動が行われています。皆様の善意が悪用されることがないようにしていきたいと思います〉と古くから歴史も実績もある団体が警告を発している。
両団体の他、「アイメイト協会」、「日本動物愛護協会」、「日本介助犬協会」、「日本アニマルトラスト」、「動物環境・福祉協会Eva」など、よく知られる大規模な団体は募金活動で炎天下に一日中犬をアスファルトに置くとか、わざと病気の犬や障害のある犬を使って哀れみを乞うような行為はしない。
ましてや団体の幹部が過度の贅沢をするために使い込んだりもしない。
◆犬は強い人間に従う、女も強いオスに従うと代表は言っていた
次にBさん、彼女もまた、短い間だったがスタッフとして働いていた。
「団体の虐待は事実です。スタッフは体罰をしていました。それも募金活動中に傘でつついたりしていました。市民からそのクレームが入ると「つつくなら見られないように」と指示されていました」
そのスタッフの待遇はどうだったのか。
「募金番は有償のボランティアに任せていました。ある一定の金額が集まるとインセンティブがつきます。ノルマはありませんが最低賃金で未払金もありました。報酬が支払われていないまま辞めた元スタッフも多いと思います」
そこには犬猫と同様に人間も搾取する構図がある。
しかし犬の待遇は人間以上に劣悪だ。
Cさんの証言。
「腐ったバナナとか平気でフードに混ぜます。そしてお手、おかわり、伏せのできない子は殴られます。「犬は強い人間に従う、女も強いオスに従う」と代表は言っていました。言うことをきかない子は、狭いケージに閉じ込められたままとなります」
まさに保護でなく「募金犬収容所」である。
以降はすべて、誰がということではなくお三方の話を箇条書きにて記す。
「施設では未避妊や未去勢が平気でまかり通っていました」
「生まれてから成犬になるまで、一度もお散歩すら連れてってもらえず、自由にケージから出してもらえないままだった子もいます」
「ミニチュアダックスの子が踏んづけられたりしていました。吠えたら蹴っ飛ばします。犬だって吠えることもあれば噛んでしまうこともあります。だって保護されたばかりなのですから。それを暴力で矯正します」
悪質なブリーダーやペットショップ、個人の多頭崩壊からようやく救われたはずの犬や猫たちが、こうして一部の悪質な保護団体によって募金の道具に使われる。
譲渡会の問題は今回置くが、一部の悪質な「シノギ」によってトラブルも目立つようになった。
「犬は虐待してくる飼い主でも親のようになつきます。そんな犬を殴ったり蹴ったり、狭いケージに閉じ込めて、真夏や真冬でも一日中、募金のため街頭に晒します。こんな団体はあっていけない団体です。存在してはいけない団体です」
繰り返すが、すべての動物保護団体がそうではないし、街頭募金のすべてがそうではない。
しかし冒頭に書いた通り、このような悪質な団体が告発されたり逮捕、起訴されたりという現実がある。
そうした告発や逮捕、起訴がなければ犬や猫は一生苦しむことになる。
これ以前、そういった団体に対する告発人の話を引く。
「犬や猫はあくまで「物」であり所有物ですから所有権があります。ですから保護しても「返せ」という話になれば返さなければならない可能性もあり、そういう団体にもかかわらず犬猫を取り戻して同じことを繰り返す、ということが起こっています。法律上の話ですからそうなってはどうすることもできません。動物愛護法は改正されてもまだ罰則がゆるく、その扱いも「命」ではなく「物」ですから」
いまだに罪は軽いまま。
改正動物愛護法で昔よりはマシになったとはいえ、不十分な法整備のままという現実がある。
5年以下の懲役または500万円以下の罰金だが実際に起訴されることすら稀で改善指導ものらりくらりでやり過ごしている悪質な団体がある。
現に冒頭のブリーダーは48回も指導を受けた末、今回の悲劇を招いてしまった。
犬や猫を何匹殺そうと他人の「物」なら「器物損壊罪」(3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料)、自分の「物」や所有者のいない「物」(野良猫など)なら「器物破損罪」にすら問われない(例外あり)。
捨てた飼い主が悪い、儲けに走るブリーダーやペットショップが悪い、野放しにしている国や行政が悪い、と「誰が悪いか」ならいくらでも「悪い人間」は挙がるだろう。
しかし確実にわかっていることは、この世に生を受け、人間を頼り、慕うすべての犬や猫に罪はない、ということだ。
そしてその、何の罪もない動物たちが劣悪な環境で一生を終えたり、悪質な連中から保護されても道具として利用されたりする「生き地獄」が、この国に存在し続けていることもまた、現実である。
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)
日本ペンクラブ会員、出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理、生命倫理のルポルタージュを手掛ける。