捨てられていた猫を拾ったが…飼えなかったので、すぐ捨てた
→それって犯罪です「遺棄罪の成立は免れない」【弁護士が解説】
2023年3月11日(土)
「里親さんを探すまで家においておけないと思い、こちらにつれて来ました」―。
そんな手紙とともに、保護猫団体の施設玄関に、子猫を入れた段ボール箱が遺棄され、「身勝手すぎる行為」だとネットで話題になったことがありました。
「まいどなニュース」の記事よると、段ボール箱に入っていたのは、生後2カ月くらいの三毛猫1匹。
段ボール箱は空気穴も設けられずガムテープがすき間なく貼られていたといい、発見された時の猫はとても痩せていて元気がない状態だったそうです。
施設の防犯カメラが、午前5時ごろ段ボール箱が置き去りにされる様子を映していました。
捨てられていた猫を拾ったあと、また捨てたケースはどのような犯罪になるのでしょうか ※画像はイメージです(irissca/stock.adobe.com)
「保護猫ふれあいサロン」前に手紙が貼られた段ボール箱が置かれていたという(「LYSTA」代表鈴木さん提供)
遺棄した人は子猫を一度保護をした後に、保護団体の施設前に捨てに来たのではないかと思われますが、「捨てられていた猫を拾ったが、飼えなかったのですぐ捨てた」ようなケースは、犯罪に問われるのでしょうか。
ペットに関する法律問題を取り扱っているあさひ法律事務所・代表弁護士の石井一旭氏が解説します。
◆動物の遺棄とは?
猫を遺棄する行為は、動物の愛護及び管理に関する法律(以下「動物愛護法」といいます。)44条3項に違反する行為であり、1年以下の懲役または100万円以下の罰金を処せられる可能性がある立派な犯罪行為です。
動物愛護法における「遺棄」の概念は必ずしも明確ではありませんが、人間の「遺棄罪」を処罰対象としている刑法の議論を参考にすると、「対象動物を場所的に移動させて対象動物の生命、身体の安全に新たな危険を創出する行為」と考えるべきでしょう。
要するに、「わざわざ危険な場所に移し置くこと」が「遺棄」と考えられます。
◆どのような犯罪になるのか?
そうすると本件では、遺棄した場所が保護を引き受けてくれそうな愛護団体の玄関前ですので「危険な場所に移したわけではないから遺棄罪にはあたらない」との弁解もありうるかもしれません。
しかし、本件の場合、移したのが午前5時という、人通りもなく愛護団体も活動していない時間帯であることや、団体になんの事前連絡もすることなくそそくさと置いていったという行為態様から、人間による速やかな保護が期待できないので、やはり危険な場所に移し置いたものとして、遺棄罪が成立すると判断すべきでしょう。
また、本件の場合、「子猫が入っていた段ボール箱は、空気穴が全くなくガムテープがすき間なく貼られていた」とのことですから、猫を「みだりに、給餌若しくは給水をやめ・・・その健康及び安全を保持することが困難な場所に拘束」したと考えることもできます。
そうなりますと、動物愛護法44条2項違反(罰則は1年以下の懲役または100万円以下の罰金で、44条3項と同じ)とも考えることができそうです。
空気穴も開けないダンボールに閉じ込めたことで猫が窒息死したりパニックで負傷したりした場合は、虐待行為として44条1項の適用もありえます。
この場合、「5年以下の懲役又は500万円以下の罰金」とされており、かなりの重罪となります。
◆拾った猫の場合は?
本件では一旦保護した猫を遺棄したようです。
保護した=飼い主になった、とは言えないような場合、例えば、「捨て猫を見つけて可哀想になり、いったんは拾って帰ったものの、家族に飼うことを反対されたためにやむなくまた捨てた」というような場合はどうでしょうか。
前述した解釈を踏まえると、この場合も、「拾った猫を危険な場所に移し置いた」と考えられれば、遺棄罪が成立することになります。
なお「危険な場所」と聞くと、山奥だとか道路などを想像されると思いますが、ここでの危険性は抽象的に判断されます。
河川敷や公園、空き地など一見平穏な場所でも、例えば極寒の真冬であれば「危険な場所」となりうるでしょう。
また、捨てられていた元の場所に戻したとしても、捨てられていた場所がそもそも危険な場所だったのであれば、遺棄罪の成立は免れないでしょう。
◆捨て猫を放置しても犯罪になる?
「捨て猫を見つけて可哀想に思ったが、家では事情があり飼えないのでやむなくそのまま放置した」場合はどうでしょうか。
上のケースとの違いは、捨て猫を一旦引き受けたかどうか、です。これは「移し置き」ではなく、「置き去り」ということになります。
心情的には放置せずともなにかできることがあるのでは、と言いたいところでしょうが、このような行為を犯罪だとみなして逮捕されたり起訴され裁判にかけられたりすることは、さすがにやりすぎだと言わざるを得ません。
刑法の「保護責任者遺棄罪」は、被害者との間に特別の身分関係があることを理由として、「置き去り行為」も処罰対象となるものと考えられています。
例えば、自分の預かった子どもが幹線道路の近くを一人で歩いていってしまったのを放置する行為は「保護責任者による置き去り」として処罰されますが、見知らぬ子どもであれば(道義的な問題はともかく)犯罪にはなりません。
「自分の預かった子ども」であるから保護責任があり、その責任を果たさず放置したから犯罪になる、保護責任がない赤の他人であれば犯罪にはならないという理屈です。
動物愛護法の遺棄についてもおそらくこの議論が当てはまるので、捨て猫を見かけたがそのまま放置した、ということであれば、犯罪には当たらないでしょう。
高栄養の缶詰を食べるなど食欲もあり、元気を取り戻しつつある子猫(「LYSTA」代表鈴木さん提供)
石井 一旭(いしい・かずあき)
京都市内に事務所を構えるあさひ法律事務所代表弁護士。
近畿一円においてペットに関する法律相談を受け付けている。
京都大学法学部卒業・京都大学法科大学院修了。
「動物の法と政策研究会」「ペット法学会」会員。