重症の野良猫を動物病院に連れてきて「タダで手術して」と言った猫好き女性…
愛犬の亡骸すら引き取りに来ない男性…
獣医師が驚愕したヤバすぎる「モンスター飼い主」たち
2022年12月29日(木)
「飼い主の体臭が猫のオシッコの10倍くらい臭い」
「犬の肥満について指摘したらビンタをされた」
「悪性腫瘍が見つかったのに『気功で治してもらう』と言ってきかない」
「治療方針に納得がいかなかったらしく、診察室を出るときにグレート・ムタばりの首切りポーズをされた」
これらは知り合いの獣医師たちから教えてもらった実話である。
動物病院では犬や猫でなく、飼い主に手を焼くことも少なくない。
時にはモラルが崩壊した輩もやって来る。とくに獣医師を困らせるのは、診療費の未払いや犬猫の置き去りだ。筆者が聞いた実例を3つ紹介する。
photo by gettyimages
◆「社会貢献をするべきじゃないですか」
「交通事故に遭ったみたいで瀕死なんです! 助けてください!!」
平田篤(仮名)さんが院長を務める埼玉県内の動物病院に、猫を抱えた親子が飛び込んで来たのは土曜日の11時ごろだった。
5、6名ほどの飼い主が待合室にいたものの緊急性が高いと判断し、優先的に診察をすることにした。
猫は内臓にこそ損傷が見られなかったが、骨盤を粉砕骨折しており、手術が必要な状態だった。
聞けば、自分の猫ではなく、自宅付近の道路でうずくまっていたところを保護して連れて来たという。
平田さんは手術費用に30万円程度かかることや、手術をしても歩行や排泄が困難になる可能性があることを伝えた。
すると、猫を連れて来た女性は「お金は払えない」「先住猫がいるから、この猫の世話はできない」と言い出した。
「まれにですが、飼い主のいない猫の治療や世話は、動物病院が無償でしてくれると思い込んでいる人がいます。100歩譲ってタダで診療するとしても、世話や里親探しは連れて来た人がするべきでしょう。動物病院に丸投げしようとする考えが理解できません」
平田さんが「手術代は安くするが、猫の世話や里親探しは自分でしてほしい」と伝えたところ、女性は激高してこう言った。
「犬や猫のおかげで生活できているんだから、社会貢献をするべきじゃないですか」
自らは負担を負わず、他者に社会貢献を求めるとは、なんとも身勝手である。
平田さんは動物の保護や里親探しを続けている団体・個人の場合、かなり診療費を安くしている。
それは彼らが身を削って活動しているからだ。
「手術代を3万円にして、猫の世話に必要なケージやフードなどもろもろの用品を提供する提案をしたら、やっと承諾してくれました」
◆うちの猫が病気になったから引き取れない
女性は持ち合わせがないため、猫を引き取りに来る際、診療費を支払うことになった。
しかし、退院日になっても姿を現さない。
電話をしたところ「うちの猫が病気になって、その看病が必要だから引き取れない」とのことだった。
「約束を破りそうな予感はしていたので、そんなに驚きませんでした。腹立たしいですが、あのような人と関わっているとストレスになるし、ほかのトラブルも起きそうだし……。うちで世話をすることにしました」
その後、猫は問題なく歩行ができるほど回復。無事、里親も見つかった。
平田さんは不運だったが、猫は件(くだん)の女性と異なる人に飼われて幸運だったかもしれない。
平田さんのケースでは、置き去りにされた猫がペットでなくノラ猫だった。
しかし“愛犬”を引き取りに来ないケースもある。
東京都の開業獣医師・岡本徹(仮名)さんが受けた被害を紹介しよう。
◆症状が出ているのに半年間も放置
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その日、男性が連れて来たミニチュア・ダックスフンドは、腹部が垂れ下がっているほどの肥満だった。
半年くらい前からあまり動かなくなり、最近は後ろ足を引きずりながら歩くようになったという。
「診察したところ椎間板ヘルニアで、後ろ足にマヒが見られました。半年も前から症状が出ているのに治療を受けさせていないなんて呆れました」
椎間板ヘルニアは犬に比較的多い病気で、とくにダックスフンドやコーギーなど胴長短足の犬種によく見られる。
椎間板が脊髄を圧迫し、痛みや足のマヒなどを引き起こす。
重度になると立ち上がることすらできなくなり、排泄にも支障をきたす。
肥満になると発症リスクが高くなるので“太らせない”ことが予防手段のひとつである。
「内科治療では改善が見込めないので、手術をすすめました。50万円程度かかることを伝えたら『そんなにかかるの!? 』『マジかよ、ヤベー』と驚いていました」
犬や猫には社会保険がないので、病気によっては治療費が高額になる。
50万円という金額に驚くのも無理はない。
しかし、貯金をしたりペット保険に加入したりして支払えるよう準備しておくのは飼い主の責務と言える。
◆治療費を踏み倒す
男性は手術代を下げるよう要求してきた。
最初は断った岡本さんだったが、結局40万円に割り引いたうえ、5回の分割払いを認めた。
手術は無事に終わり、犬の退院日がやって来た。
しかし、男性は来院しなかった。
「カルテに書いてある電話番号にかけたら別人につながりました。住所もデタラメでまったく連絡がとれず、お手上げ状態。最初から診療費を踏み倒す腹だったんでしょう」
2か月ほど病院で犬の世話をしたが、男性は引き取りにやって来ない。
現在は岡本さんが自宅で犬を飼育している。
「手術が成功しても後遺症や再発の可能性があることを伝えていたので、飼育するのが嫌になったんだと思います。クズとしか言いようがありません」
千葉県の開業獣医師・井上幸助(仮名)さんも悪辣な飼い主の被害に遭っている。
事件が起きたのは、3年ほど前のこと。
診察室にラブラドール・レトリバーを引き連れた男女が入って来た。
男性は不機嫌で、女性は顔が青ざめている。
聞けば、犬はトリミングサロンに行ってから体調が悪くなり、女性は担当したトリマーだという。
診察したところ、アゴの骨が折れていたうえ末期の腎臓病だった。
「飼い主は『うちの犬のアゴを折りやがって! 』と激怒したんですが、大型犬のアゴはとても丈夫で、大事故にでも遭わない限りまず折れない。犬は歯周病がとても進行していたので、どう考えてもそれが原因でした」
歯周病は放置しておくと、菌がアゴの骨まで溶かしてしまう。
治療しなければ、いずれ骨折する。
しかし、飼い主は頑なに事故による骨折であることを主張した。
結局、診療費はトリミングサロンが負担することになった。
とはいっても犬は重度の腎臓病もあって虚弱状態。麻酔を伴う手術はできず、点滴を打つ程度の処置しかできなかった。
◆愛犬の亡骸すら引き取りに来ない
入院して1週間後、犬は息を引き取った。
井上さんが亡骸の引き取りを依頼するため電話をかけると、飼い主は耳を疑うような言葉を放った。
「死んだのはトリミングサロンのせいだから、俺に連絡されても困る」
愛情も責任の欠片もない言葉に井上さんは愕然とした。
犬を迎えに来るよう説得を続けたが、飼い主は応じない。
仕方なく動物病院で葬儀を手配することにした。
葬儀代の半分は、トリミングサロンが支払うことになった。
飼い主の自宅まで遺体を運び、診療費や葬儀代を請求するべきだと考える人もいるだろう。
しかし、井上さんはこう言う。
「あきらかに持病が原因で骨折しているのに、それを認めない。診療費も払わない。あげくの果てに亡骸すら引き取らない。十数万円のために、そんなヤバい人に立ち向かいたくないんです」
誤解のないように言っておくが、犬や猫の飼い主にトラブルメイカーが多いわけではない。
取材に協力してくれた獣医師の一人は、こうぼやいていた。
「飼い主さんの99.9%は常識人。でも0.1%の人が“モンスター飼い主”で、過剰で理不尽な要求をしてきたりとんでもないトラブルを起こしたりするんです。そのストレスで獣医師を辞めてしまった人もいます」
飼い主は動物病院を選べるが、その逆は難しい。
モンスター飼い主からの被害を少しでも軽減するには、初診の場合は身分証の提示を求める、診療費が高額になる場合は何割かを前払いしてもらう、といった対策をとっておく必要があるだろう。
奥田 直樹(ペット栄養管理士・ペットフード販売士)
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