猫サブスク「ねこホーダイ」に断固反対。獣医師が本気で訴える5つの理由
2022年12月26日(月) 石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
猫の保護を行っている「のら猫バンク社」が12月15日から開始した猫のサブスク事業「ねこホーダイ」が、大炎上しています。
このサービスは、月額380円の会費さえ払えば、提携する保護猫シェルターが保護・飼育する猫を審査やトライアルなしに譲渡してもらえるというのです。
猫をもらうのも返すのも費用負担0円で行います。
「人と猫をつなぐプラットフォーム」をうたっています。
いままで高齢者や単身者は、保護猫を飼おうと思ってもなかなか譲渡してもらえませんでした。
しかし、このシステムは、最後まで面倒を見切れない責任を、誰かが代わりに負える仕組みだといいます。
イメージ写真(写真:イメージマート)
◆「ねこホーダイ」の何が問題なの?
このサブスク事業に一番欠如していることは、猫は生きていて命があるものだということです。
ぬいぐるみなら大丈夫なのですが、猫は心もある動物なのです。
確かに、コロナ禍になり多頭飼育崩壊が多く起こっていて保護猫シェルターは、どこも満員なのに、そんなきれいごとを言っても仕方がないと考えている人もいます。
猫はいまや平均寿命15年ぐらい生きる動物なので、よく考えて飼育してください。
毎日、猫の臨床をしている獣医師としてなぜ、このシステムがよくないのかを説明します。
◆獣医師が断固反対の理由
イメージ写真(写真:イメージマート)
・猫には心がないのか?
「ねこホーダイ」に登録された猫は、飼い主がコロコロと変わる可能性があります。
ひどい場合は、一週間で変わることもあります。
飼い主が「なんか、この子、なつかない。かわいくない」と思うと服を着替えるように、猫を取り換えることもできるのです。
猫には、感情があります。
つまり心があるのです。
たとえば、猫は、飼い主が忙しい、不幸にして亡くなるなどがあれば、食欲がなくなったり、下痢をしたり、必要以上に毛づくろいをしたりするのです。
飼い主がいればいいというものではないのです。
・猫は家に付く(環境の変化が苦手)
昔からあることわざで「犬は人に付く、猫は家に付く」といわれています。
猫は、自分の周りの環境の変化が苦手な動物なのです。
模様替えも苦手だし、もちろん引っ越しは猫に多大な負担を与えます。
実際、引っ越し先に連れて行ったらいなくなり、元の家に近いところに戻ったという猫もいます。
それほど猫にとって、環境変化は得意ではないのです。
「ねこホーダイ」だと飼い主が変わることが多くあるので、家つまり環境が変化するということです。
飼い主が変わる度に、猫にはストレスがかかります。
病気になりやすいです。
・猫はトイレに敏感
猫の飼い主はよく知っていますが、猫はトイレに敏感です。
どこでもトイレがあればいい、という猫だけではないのです。
砂、トイレの形が気にいらないと、猫は排泄をしないこともあります。
そして、猫はオシッコが出ない、結石がたまる、血尿などの下部尿路症候群になることがよくあるのです。
飼い主がかわる度に、トイレもかわるのでこのような病気のリスクが増えます。
・戻された猫の治療はどうなるの?
「ねこホーダイ」のシステムだと、猫が病気になり飼うことが無理になり、戻された猫は、治療をしてもらえるのでしょうか。
高齢者の多くは年金暮らしの人が多く、たとえば、猫ががんや慢性腎不全になると治療費が嵩むので、飼うことを放棄する人がいると思います。
その場合は、戻されることもあると思います。
そのときは、適切な治療をしてもらえるのか疑問です。
食事の提供はしてもらえますが、対症療法しかないので、猫の治療はしないということになりそうです。
猫は病気や老いになると、たらい回しにされそうで心配です。
・猫が虐待に遭わないの?
「ねこホーダイ」は、猫を譲渡・保護するときに、飼い主の審査やトライアルをしないということなのです。
残念なことに、人間の中にはある一定数、猫を虐待する人がいるのです。
猫は譲渡されてしまい室内飼いなら、逃げることができません。
そういう目に遭わないように、一般的な保護猫団体は、審査してトライアル期間を設けるのです。
保護猫シェルターが一杯なので、猫が虐待に遭ってもいいということはないです。
◆まとめ
イメージ写真(写真:イメージマート)
「ねこホーダイ」のサイト保護猫一覧を覗いたら、泣きそうになりました。
猫には、名前がなく「ニャンバー」というふざけたネーミングで番号をつかられて、写真の下にニャンバー0003オス/仔猫/ふつうねこ、ニャンバー0008メス/仔猫/ちびねこという感じです。
刑務所の受刑者が番号で呼ばれているのと同じように、このシステムでは番号なのです。
猫に対する愛情が感じられずショックでした。
このような感覚の会社が世の中に認知されているのです。
ITmediaビジネスは、運営元の「のら猫バンク」は、動物保護施設(シェルター)の運営などを手掛ける企業で、2022年4月、東証のスタンダード市場に上場している中小企業ホールディングス(東京都千代田区)が設立した100%子会社と伝えています。
こんな大企業が、この「ねこホーダイ」のシステムになんの疑問を感じないというのは驚きです。
このシステムは、ひとりの人の思いつきで作ったわけではなく、組織で作ったサブスクです。
そのなかの誰もがこれはおかしいと思わなかったのですから。
まだまだ日本では、猫は命あるものというあたり前の感覚がないことを思い知りました。
猫はぬいぐるみではないのです。
まねき猫ホスピタル院長 獣医師
大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は栄養療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医師さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。
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「サブスク」とは?
サブスクは「サブスクリプション」の略で、英語では「予約購読」「定期購読」「会費」などの意味の言葉です。
月額課金・定額制で契約するサービスを指します。
サブスクはモノを所有するのではなく、必要なときに借りて利用するスタイルのサービスです。
新聞購読やインターネットのプロバイダー契約など従来の定額制のサービスは、企業目線で料金やサービス内容が決められていたのに対して、サブスクはユーザー目線のニーズにこたえて料金やサービス内容が変化するのが特長です。
すでに多くの方が利用している動画配信・音楽配信などのサービスだけでなく、住居シェア、カーシェア、美容室の利用、洋服や時計・バッグ・家具のレンタルなど、サービス内容はますます幅広くなっています。
◆今サブスクが拡大している理由
動画や音楽などの市場では、サブスクの拡大が市場の成長を牽引しています。
例えば音楽市場では、1曲ごとにお金を支払うダウンロード課金型サービスが主流でしたが、現在では、月額料金を支払うことで聴き放題で利用できるサブスクサービスのシェアが上昇傾向にあります。
また、サービスによって異なりますが、「初月無料」、「2週間無料」などのキャンペーンが行われているので、気軽に試せるのも広まっている理由の1つです。
総務省の「令和3年版 情報通信白書」、「世界の動画配信市場規模・契約数の推移及び予測」によれば、2020年の定額制以外の動画配信売上高は79.0億ドル。
一方で、定額制の売り上げは668.3憶ドルと、数字からも差は明らかです(※)。
さらに、同資料によれば、定額制の売り上げは2023年までに1,015.6億ドルにまで成長すると予測されています。
日本においても5Gが登場し普及すると、さらにサブスクサービスが拡大していくことが予想されます。
(※)出典元:総務省「令和3年版 情報通信白書|レイヤー別にみる市場動向」
◆サブスクのメリット
次項より、ユーザーにとってのサブスクのメリットを3つご紹介します。
・登録・解約の自由度が高い
サブスクはネットで申し込み、解約できるサービスがほとんどなので、気軽に始められて、使わなくなったらいつでも解約できます。
解約の条件はサービスにより異なるため、条件を確認しましょう。
また、購入とは違い、定額の月額料金を支払えば利用できるため、利用するにあたっての初期費用を抑えられます。
・利用頻度が高いほどお得になる
定額で利用し放題のため、利用頻度が高いほどコストパフォーマンスが良くなるのもサブスクの良いところです。
お試し期間を活用して、ご自身にとって興味あるコンテンツが豊富か、利用し放題を活かせるかなどを見極めましょう。
そうすると、ご自身にとってコストパフォーマンスが高いサブスクを選ぶことができます。
・新たなコンテンツを発見しやすい
定額制なので、これまで手を出したことのなかったコンテンツも試してみやすい点はサブスクならではのメリットです。
企業側も常に新たなコンテンツを追加してユーザーを飽きさせないよう努力しています。
例えば動画や音楽系のサブスクなら定期的に新作が追加されます。
また、ソフトウェア系も常に最新バージョンを購入するとなるとコストがかさみますが、サブスクなら毎月定額を支払うことで、常に最新バージョンを利用できます。
さらに一定のテーマに沿って定期的に食品や飲料、洋服などの商品が届くタイプのサブスクなら、これまでご自身では選ばなかったような商品も届くため、新たな発見や出会いを楽しめます。
◆サブスクのデメリット
ユーザーにとって多くのメリットを持つサブスクですが、実際に利用するにあたって知っておくべきユーザーにとってのデメリットを3つお伝えします。
これらのデメリットを理解しておくと、よりお得にサブスクを利用できるようになるでしょう。
・利用していない場合も固定費が発生する
どれだけ利用しても定額料金ですが、反対にまったく利用しない月があっても支払いは発生します。
手ごろな料金で利用できるサービスが多い分、さまざまなサブスクと契約してしまい、結果的に月々の固定費が高額になってしまうこともあります。
定期的に利用頻度の少ないサブスクは利用の見直しも検討するようにしましょう。
・不要なコンテンツが含まれている場合がある
動画配信や音楽配信などのサービスの場合、興味のあるコンテンツだけにお金を支払うことはできません。
まったく興味のないコンテンツも含めた一律の料金を支払う必要があります。
しかしダウンロード課金型だと、観たり聴いたりしていなかったコンテンツも気軽に視聴できるため、興味の幅を広げる機会となると捉えるなら、デメリットよりはメリットになり得る点です。
・解約すると手元にモノが残らない
サブスクは、モノを所有するためではなく、「利用する」ために料金を支払っています。したがって、解約すると手元には何も残りません。
例えば音楽配信サービスの場合、解約後はそれまで聴けていた曲を聴くことができなくなります。
家具レンタルの場合も、解約すれば家具は返却しなければならず、手元には残りません。
ただし、一定期間レンタルを継続すると、ご自身のものにできるサービスもあります。
解約する前には条件を確認するようにしましょう。