保健所で人に怯え続けていた犬の「その後」…
保健所の職員が思わず涙ぐんだ理由
2022年11月28日(月)
◆保健所は行くたびに元気をもらえる場所
行き場を失った犬や猫を家庭で慣らしてから新しい家族を探すという、保護活動を個人でしているtamtamさん。
夫と二人の子供と暮らすtamtamさんの家庭には、代わる代わる保護犬や保護猫がやってくる。
tamtamさんがこうした活動を始めたきっかけは、10年以上前に出会った1匹の子猫だった。
血液の病気のために出会いから2週間でこの世を去ってしまった子猫に、tamtamさんは「生まれ変わって、私のもとにまた戻って来てほしい」と必死に願ったという。そして目の前の小さな命と向き合うため、動物の保護施設の職員となった。
その後tamtamさんは、施設やブリーダー犬舎の残酷すぎる実態の中で働きながら、個人で保健所からの犬や猫の引き取り活動を始め、その様子をマンガに描いてインスタに投稿し始めた。
共感するフォロワーは増え続けて現在は4万6千人になり、投稿は今月1冊の本になった。
それが『たまさんちのホゴイヌ』(tamtam著/世界文化社)だ。
(c)tamtam『たまさんちのホゴイヌ』/世界文化社
これは、tamtamさんが公益財団法人の動物保護団体に勤務後、個人で「一時預かりボランティア」を続ける自身の活動をイラストで綴ったコミックエッセイだ。
tamtamさんは自分に入る印税すべてを保護活動に寄付することで、本を買ってくれた方々、活動を応援してくれる方々への感謝を伝えたいと書いている(2022年10月27日インスタ「tamasister@」より)。
本は発売から1週間で重版が決まった。
現在は、長崎県にある「アニマルポート」という殺処分もある保健所と連携しながら、保護犬や猫の引き取り活動を続けるtamtamさんだが、以前は「保健所は怖いところ」と思っていた。
だが今は用がなくても「アニマルポート」に通い、行くたびに元気を分けてもらっているという。
これまでにtamtamさんの保健所に対する見方がなぜ大きく変わったかを、長崎県の保健所「アニマルポート」での出来事を通してお伝えしてきた。
#3では、保健所で命の期限を迎えた保護犬「モカ」は、ボランティアさんの家で一時預かりしてもらえることになった。
職員に見送られたモカだったが、預けられた先の家で驚くべき行動に出たという。
モカにいったい何が起きたのか。
◆たくさんの人の想いがリレーのように繋がっている
写真:現代ビジネス
保健所に来た当初は人に怯え、ケージから出ることもできなかったモカ。
しかしHさんとの出会いのあと、奇跡のように人に甘える姿を見せるようになったのだ。
この奇跡はなぜ起こったのか。
tamtamさんにお話を伺った。
――マンガの中で「職員さんの想いがやっとモカに届いたんじゃないか……なんて密かに思っていたりもする」とありました。実際保健所の職員さんたちは、どんな風に接しているのでしょうか。
「アニマルポートという保健所では、モカだけでなく、保健所に収容された子たち全員に職員さんが寄り添おうとしています。私がインスタに譲渡された犬と里親さんの関係や、幸せそうに暮らす様子を投稿すると、『見たよ』とか『よかったね』と声をかけてくれたり、喜んでくれます。 そうやって職員さんたちが収容された犬たちに『人は怖い人ばかりじゃないんだよ』というメッセージを必死に伝えてくれているおかげで、犬たちがもう一度人を信じられるようになるんじゃないかと思うんです。 ですから譲渡の決まった里親さんにも、この子との出会いの後ろには、たくさんの人たちの想いがリレーのように繋がっているんですよ、と伝えています。保健所の職員さんや保護活動のボランティアさんたち、たくさんの人の想いがあって、この子はここに来られたんですよって」
――でも殺処分される子もいますよね。「命の終わりのボタン」を押すことになる子に優しく接すれば、余計に辛くなるんじゃないかと思ってしまいます。
「ある時、勇気を出して『ガス室のボタンを押す時、何を考えるんでしょうか』と聞いたことがあるんです。ある職員さんはこう答えてくれました。 『殺処分は誰かがやらなければならない。それが避けられないことなら、事務的にボタンを押せる人ではなく、最後まで生き物の命を預かっていると思う人間がやらないといけないと思っています』。 この言葉のあまりの重さに、私は自分の感情を言葉にすることができませんでした。そして今も、この言葉を思い出すたびに感情があふれてしまい、イラストで表現するに至っていません。 ただ一つ私が言えることは、現状を変えたいと思いながら自ら辛い仕事を引き受けている方がいる。だから私もこの活動を止めるわけにはいかない」
保健所の職員やtamtamさんの心配をよそに、初日からHさんの家族と仲良くなれた「モカ」。
保健所には、毎日のようにたくさんの動物が収容される。
続く#4「『一般ゴミの回収みたいに収集車が来たことも』保健所はなんのためにあるのか』」では、そんな保健所に初めて訪れた時にtamtamさんが聞いた話を詳しくお伝えしたい。
tamtam/FRaU マンガ部
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