ドーベルマン窃盗「ルパン作戦」に手を染めた4人は、いずれも愛犬家だった
裁判では涙ながらに謝罪、原因は「動物愛の暴走」か
2022年11月4日(金)
千葉県木更津市で大型犬のドーベルマンを盗んだ罪に問われた女は、法廷で涙ながらに謝罪した。
彼女たちはこれまで、動物愛護に取り組んできたという。
それが窃盗事件に手を染めるまでに至ったのはなぜか。
9月まで千葉地方裁判所木更津支部で開かれた公判では、飼い主の男性の飼育姿勢に一方的に不満を募らせて“救出”を思いつき、「ルパン作戦」と称した計画が完遂されるまでの経緯が明らかになった。
窃盗と住居侵入の罪を認めた女らは、いずれも執行猶予付きの判決を受けて確定している。
(共同通信=井口真之介)
ドーベルマン(事件とは関係ありません)=「公益社団法人日本警察犬協会」提供
▽このままだと不幸に
事の発端は、山間部にある静かな町を騒がせた脱走劇だった。
4月22日、後に窃盗の被害者となる男性が自宅外で飼っていたドーベルマン4匹が逃走。
マイ(30)=仮名=は、ボランティアとして自身の愛犬と一緒に捜索に加わり、その日の深夜に4匹を確保した。
この時、マイは「男性宅の飼育環境に疑問を持った」という。
裁判の中でマイはこう振り返っている。
「飲み水は底が見えないくらい濁っていて、ふんや陶器の破片も落ちていた。言葉にならないくらい衝撃的な環境だった」。
同じ動物保護団体に所属していたアヤカ(30)=仮名=に相談し、対応を検討した。
窃盗事件の現場となった飼育スペース=10月24日午後2時28分撮影
相談を受けたアヤカは男性宅を訪ね、1匹を譲り受けたが、他の犬の譲渡は断られた。
アヤカは飼い主とやりとりする中で「(犬たちが)このままだと不幸になってしまう」と感じ、保護団体代表だった男(51)に相談。
男性宅から残りのドーベルマンを盗んで“救出”すると決めた。
アヤカらはこの計画を、人気作の主人公にちなんで「ルパン作戦」と名付けた。
▽行き過ぎた行為
決行日の5月8日。
まず、アヤカが一人で男性宅を訪れ、「譲り受けた犬が体調を崩したので、餌を買うのを手伝ってほしい」と言って男性をホームセンターに連れ出した。
その隙にマイと男、さらに同じ動物保護団体のチヨコ=仮名=(52)が男性宅の敷地に侵入し、母犬と子犬の計2匹を盗み出した。
マイは公判で反省点を問われると、「(事前に)保健所や他の保護団体の意見を聞き、自分も飼い主と話し合って動いていたら強硬手段をとらずに済んだ」と振り返り、反省の弁を述べた。
「行き過ぎた行為だった。わんちゃんもあっちに行ったりこっちに行ったりで、幸せではなかったと思う」。
アヤカは涙ながらに謝罪した。
「飼い主をだまして盗んだことがずっと引っかかっていた。申し訳なかった」
千葉地裁木更津支部
▽認識の相違
マイは5月19日に逮捕されるまで、SNSや報道機関のインタビューで、男性の飼育環境を再三批判してきた。
公判でその時のことを「警察や保健所が注意しても変わらないので、世論が動いてくれたらと、わらにもすがる思いだった」と語った。
一方、保健所の認識はマイたちの証言と食い違う部分もある。
君津保健所によると、4月の脱走後に職員が飼育状況を確認しに行き、脱走防止措置を講じて狂犬病の予防注射を打つよう指導した。
その後、男性は犬小屋を囲む柵を補強し、注射も済ませた。
保健所の担当者は「ネット上では衛生面の課題を指摘する声もあったが、柵や予防接種の他に問題はなかった」と話す。
▽独善的
判決は逮捕からおよそ4カ月後の9月下旬に言い渡された。
池厚行裁判官は女3人と男1人をいずれも懲役1年、執行猶予3年とした上でこう断じた。
「飼い主の飼育方法に不適切な部分があったとはいえ、保健所の指導に従い改善を見せていた。盗んでまで自身たちの望む飼育環境を実現しようとする動機は独善的というほかない」
▽行政や警察と連携を
判決が言い渡された法廷
ペットブームが過熱する中、飼育環境の在り方を巡る意見の対立は起こりがちだ。
日本動物福祉協会(東京)によると、民間の保護団体や個人から「不適切な飼育環境を確認した際にどう対処すれば良いか」といった相談が寄せられることは多いという。
協会の町屋奈獣医師・調査員は、今回の事件を踏まえて警鐘を鳴らしている。
「虐待に当たるかどうかの判断は難しい。自分が『劣悪だ』と考える主観だけで動き、法を犯すことはあってはならない」。
対応するためには公的機関の関与が欠かせないとして、こう強調。
「まずは行政や警察、獣医師に相談して、不適正飼育や虐待の客観的な証拠を集めてほしい」。
その上で「行政側も、不適切な飼育環境を的確に見極め、きちんと指導できるような人材の育成が急務だ」と注文を付けた。